海豹島

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久生 十蘭

初級翻訳・海豹島 第1話

二日前から、近ごろには珍しいほどの強い北風が吹き荒れていて、今日もまだやむ気配がありません。東京で暮らし始めて十数年になりますが、これほど激しい北風は初めてです。北風特有の、まるで何かに軋むような唸り声を聞いていると、二十数年前、氷と深い海...
久生 十蘭

初級翻訳・海豹島 第2話

船は遅くとも明後日の夕方には島に寄るはずですから、それほど不便はなく、それまでに調査も滞りなく終えられるだろうと考えていました。タラップを伝って氷の原へ降り立つと、汽船は喉を鳴らすような汽笛を長く響かせながら、ぼんやりとした海霧の中に船体を...
久生 十蘭

初級翻訳・海豹島 第3話

年越しの晩以来、島のみんなは乾燥室に入り浸っていた。その日も夕方から酒盛りになり、間もなく酔いつぶれてしまったが、大晦日の晩から三が日の間ずっと飲み続けていたため、みんな正体を失っていた。そのため、過熱された乾燥室のボイラーが、徐々に爆発点...
久生 十蘭

初級翻訳・海豹島 第4話

正午ごろから、オットセイはしょんぼりと首を垂れて元気がない様子でしたが、夕方近くになると床の上に腹ばいになり、苦しそうにうめき出しました。狭山の悲しみと取り乱しようは、見ていて驚くほどでした。ありったけの毛布やボロ布でオットセイを包み、まる...
久生 十蘭

初級翻訳・海豹島 第5話

狭山と五人の焼死者のほかに、誰かもう一人この島にいたのではないかという想像は、これで動かしようのない事実となりました。残留を命じられた六人のほかに、もう一人の人間が島にいたのです。七人目の人間はまだうら若い娘で、少なくとも十二月二十七日まで...
久生 十蘭

初級翻訳・海豹島 第6話

技手の清水は、島の秩序を守るために酒樽が入っている倉庫に鍵をかけ、銃器をまとめて看視員小屋に立て籠もりました。しかし、あっけなく小屋から引きずり出され、息の根が止まるほど「胴上げ」をされたのです。技手を毛布の上に乗せ、四人の暴漢が四つ隅を持...
久生 十蘭

初級翻訳・海豹島 第7話

死は一つの「決まったこと」として扱われ、その原因まで深く詮索はしなかったのです。もし必要があれば、「崖から落ちて死んだ」とか、「脚気が心臓にきて死んだ」とでも言っておけば、適当な言い訳で済まされてしまうのです。そんな大雑把な彼らが、どんな理...
久生 十蘭

初級翻訳・海豹島 第8話

私はその首筋を掴んで、ベッドの下から引きずり出しました。アザラシはキョトンとして私の顔を眺めていましたが、身震いをひとつすると、ヒゲの生えた唇を吊り上げ、牙をむき出して私を寄せ付けまいとしました。しかし、そんなことは構わず背筋をこすり合わせ...
久生 十蘭

初級翻訳・海豹島 第9話

私ははじめから花子をあがめまつり、実の妹のように大切に思っておりましたが、こういう様子を見てはとても我慢ができず、いきなり立ち上がって、「花子はこの日から俺のものにするから、悔しかったらどいつでもやってきやがれ」と啖呵(たんか)を切りました...
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