寺田 寅彦

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寺田 寅彦

初級翻訳・花物語 第5話

門の屋根裏に巣を作っているツバメが、田んぼから帰ってきてはまた飛び立っていくのを、羅宇屋はキセルをくわえながら感心したように眺めていましたが、「鳥の中でも、ツバメほど感心な鳥はまずいないね」と前置きをして、こんな話を始めました。村のある旧家...
寺田 寅彦

初級翻訳・花物語 第4話

強引に連れて行こうとすると、子供は道の真ん中にしゃがみ込んで、とうとう泣き出してしまいました。母親は途方に暮れながら、子供を叱りつけていました。自分はその時、虫かごのふたを開けてカブトムシを取り出し、道端に生えていた相撲取草(すもうとりぐさ...
寺田 寅彦

初級翻訳・花物語 第3話

蟻が二、三匹たかっています。俊坊が急に泣き出したのでのぞいてみると、蚊帳の中に座って手足を投げ出し、泣いていました。勝手から妻が飛んできます。坊は牛乳のびんを、投げ出した膝の上で抱え込み、乳首から息もつかずにゴクゴクと飲みます。涙でくしゃく...
寺田 寅彦

初級翻訳・花物語 第2話

落ちた花は朽ちて腐り、一種の甘いような強い香気が小庭に満ちました。このあたりに多い大きなハエが、ブンブンと勢いよく羽音を立ててこれに集まっています。力強い自然の旺盛な生命力が、脳を襲ってくるように思われました。この花の散る窓の内側には、内気...
寺田 寅彦

初級翻訳・花物語 第1話

一 昼顔 私が何歳くらいの時のことだったか、はっきりとは覚えていませんが、まだ小さかった頃の話です。 家の前を流れる濁った堀川に沿って、半町(約五十五メートル)ほど上流へ行くと、川は左に折れて、昔の城のすその茂みへと続いていました。その城に...
子猫

初級翻訳・子猫 第4話

私はなんとなくチェホフの小説に出てくる子猫と子供の話を思い出して、あまりきびしく子供たちを叱る気にもなれませんでした。子猫たちの目が開きかけるころになると、ときどき棚の上から下ろして、畳の上を這いまわらせました。そんなときは家中の人間がみん...
子猫

初級翻訳・子猫 第3話

ものを言わない動物を預かって治療をする獣医さんという仕事は、よく考えてみるとなんだかとても神聖なもののような気がしました。入院中にどんな扱いを受けたのか自分では何も覚えていないし、家に帰ってきても人間に何ひとつ話すことができないような患者に...
子猫

初級翻訳・子猫 第2話

それはともかくとして、私はこんな調子で、お腹の赤ちゃんや三毛の体に何か悪い影響が出やしないかと心配でしたが、特にどうすることもできないので、そのままにしておきました。いったいどんな子猫が生まれるんだろうかということが、うちの子どもたちのあい...
子猫

初級翻訳・子猫 第1話

これまで一度も猫を飼ったことがなかった私たちの家に、去年の夏の初め、偶然のきっかけから急に二匹の猫がやってきました。そして、その二匹は私たちの毎日のくらしの中に、かなりはっきりとその存在感を映し出すようになりました。それはただ、小さな子ども...
やもり物語

初級翻訳・やもり物語 第2話

日が暮れるまでは影も形もないのに、夜になるといつの間にか現れて、ガラスにピタッと貼り付いたまま、ちっとも動きません。朝、出かける時に見ると、もうどこにもいないのです。「一晩中あそこに貼り付いていて、朝の光と一緒にパッと消えてしまうんじゃない...
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