「白い蛇、赤い蛇」
岸田國士
舟橋聖一氏の長編小説「白い蛇、赤い蛇」は、新聞の連載小説として書かれたものですが、なるほどこれなら、大抵の読者を満足させることに成功したことでしょう。
作者は、無理に大衆ウケをねらっているわけではありません。かといって、気取った芸術家ぶった自己満足を売り物にしているわけでもありません。
人間模様や世の中のありさまに対して、少し大人びているとも思えるほどの鋭い目を向け、そこに作者ならではの感覚的な描写を織り交ぜることで、心理的なドラマが詰まった色鮮やかな絵巻物を作り上げているのは、さすがは並外れた腕前です。
この小説の中に登場する女性たちの一群は、とりわけ見事な現代の浮世絵のようです。
それぞれの女性に際立った特徴がある中で、みんなに共通していると感じられるのは、あの「自意識」――何をしでかすかわからないような強い自意識です。
新しい時代の女性だけに与えられたこの「新しい魅力」について、作者は作者らしい観察と豊かな想像力を思いっきり働かせて描いています。
私は、多くの読者が、このポイントだけでもきっと心惹かれてしまうに違いないと思います。
物語の展開のしかたにも、実に鮮やかな手際が見られます。
映画のコンティニュイティ(脚本・構成)のように場面のつながりに破綻(ほたん)がほとんどなく、新聞小説にありがちな、中身の空っぽなどんでん返しや芝居がかった演出はもちろんなしに、場面ごとの事件的な緊張感が、ちょうどいい具合に物語全体のリズムを作っています。そして、文体の新鮮でクラシックな味わいと合わさることで、教養のある読者の期待にも確実に応えてくれることは、万に一つの疑いもありません。
「何か面白い小説はないかなあ」と探している人には、「これを読んでみなさい」と自信を持っておすすめできる作品です。
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