初級翻訳・いさましい ちびの仕立屋さん 第4話

いさましい ちびの仕立屋さん

「そうあっさりとはいかんぞ。」
仕立屋さんはそこにじっと立って、待っていました。
ケモノがすぐ近くまできたとたん、ひらりと身をかわして、木のうしろへまわりこみました。
ユニコーンは、力いっぱい木につっかかっていったものですから、その角をぐさっと木の幹につきさしてしまいました。
そして、もういちどそれを引き抜く力もなく、そのまま生けどりにされてしまったのです。
「それ、小鳥をつかまえたぞ。」
仕立屋さんはこう言って、木のうしろから出てきました。
そして、まずユニコーンの首に縄をかけ、それから斧でもって角を幹から切り離しました。
こうして、すっかり始末がついたところで、そのケモノを引っ張って、王さまのところへ連れていきました。
王さまは、こうなってもまだ約束のほうびをやルつもりはありません。
いよいよ、三つめの注文を出しました。
仕立屋さんは、婚礼のまえに、森の中でものすごく悪いことばかりしているイノシシをつかまえなければならない、もっとも、それには狩人たちに手伝わせるが、というのでした。
「結構ですとも。」
と、仕立屋さんは答えました。
「そんなことは、子どもだましみたいなものですよ。」
仕立屋さんは、森の中まで狩人たちを連れていきませんでした。
もっとも、狩人たちにしてみれば、そのほうがありがたかったわけです。
なぜって、狩人たちはこのイノシシのためにはもう何度もひどい目にあっていましたから、イノシシを追いかけるなんてことはごめんだったのです。
イノシシは仕立屋さんの姿をひと目見るなり、口から泡をふき、牙をといで、仕立屋さんめがけて飛びかかってきました。
仕立屋さんが地べたにつき倒そうというのです。
けれどもそれよりはやく、このすばしっこい豪傑は、そばにあった礼拝堂にとびこんで、すぐまた上の窓からピョンとひと飛びで外へとびだしました。
イノシシのほうは、仕立屋さんのあとを追って、なかに飛びこみました。
ところが、仕立屋さんは外側をピョンピョン飛びまわって、イノシシのうしろから扉をピシャンとしめてしまったのです。
中では、イノシシがさかんに暴れまわりましたが、体が重すぎるうえに不器用なものですから、窓から飛びだすこともできず、とうとう生けどりにされてしまいました。
ちびの仕立屋さんは狩人たちを呼びよせて、この獲物をよく見せてやりまし。
それから、この豪傑は王さまのところへもどっていきました。
こうなっては、さすがの王さまも、まえにした約束をいやでもおうでも守らないわけにはいきませんでした。そこで、王さまは約束どおり、仕立屋さんに自分の娘さんと国の半分をあたえました。
もしも王さまが、自分の目の前に立っている男は、本当は豪傑なんかではなく、ただの仕立屋にすぎないということを知っていたなら、きっとますます悔しがったことでしょう。
こうして、結婚式はとても立派にとりおこなわれましたが、まわりの人たちからは、あまり心から祝福されることはありませんでした。
こうして、仕立屋さんからひとりの王さまが誕生したのです。
それからしばらくして、若いお妃さまは、夜中に夫が眠りながらこんな寝言を言っているのを聞いてしまいました。
「おい、そこの小僧、さっさと上着を仕立てろ!
それから、ズボンもつくろえ! そうしないと、このものさしで横っつらをひっぱたくぞ!」
これを聞いたお妃さまは、自分の若い夫がどんな横町の生まれの人間なのか、すっかり察してしまいました。
そこで次の朝、お父さまである王さまにこの悩みを打ち明けて、
「あの人は、どうやら本物の仕立屋にちがいありません。
どうかお父さまのお力で、あの人から私を助け出してくださいませ!」
と、お願いしました。
王さまはお妃さまをなぐさめて、こう言いました。
「今夜は、おまえの寝室の扉を開けたままにしておきなさい。
わしが家来たちを部屋の外に立たせておくから。
あの男がぐっすり眠りこんだら、部屋に踏み込んでいって縛り上げ、船に乗せて、どこか遠くへ連れていかせてやろう。」
お妃さまは、その計画を聞いて安心しました。
ところが、王さまの刀持ちの家来がそばでこの話をすっかり聞いていたのです。この男は若い王さまのことが好きだったので、この陰謀を若い王さまにすべて密告してくれました。
「ほう、それなら、返り討ちにして計画をぶち壊してやろう。」
と、ちびの仕立屋さんは言いました。
夜になると、仕立屋さんはいつも通りの時間に、お妃さまと一緒にベッドに入りました。
お妃さまは、仕立屋さんがぐっすり眠りこんだ頃を見はからって、そっと起きあがりました。
そして、部屋の扉を開けてきてから、また前と同じようにベッドに横になりました。
ちびの仕立屋さんは、ただ眠っているふりをしていただけだったので、突然、はっきりと大きな声で怒鳴りだしました。
「おい、小僧、上着をこしらえろ!
それから、ズボンをつくろえ!
そうしないと、ものさしで横っつらをひっぱたくぞ!
このおれさまはだな、ひと打ちで七つもやっつけ、大男をふたりも倒したんだぞ!
そればかりか、一角獣をひっぱりだしてきたこともあるし、イノシシを生けどりにしたことだっていあるんだ。
そんなおれさまが、なんで部屋の外にいるような連中をこわがるものか!」
仕立屋さんがこう叫ぶのを聞くと、待ち構えていた家来たちはすっかり恐怖に震え上がり、まるで恐ろしい魔王の軍勢に追いかけられているかのように、われさきにと逃げ出してしまいました。
そしてそれからは、もうだれひとりとして、仕立屋さんに逆らおうとする者はいなくなりました。
こうして、ちびの仕立屋さんは、一生のあいだ、ずっと王さまで暮らし続けたのです。
(1)一角獣というのは、馬のかたちをした、ひたいに角が一本ある、伝説上の動物のこと。

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