初級翻訳・おとうさんが かえったら 第1話

おとうさんが かえったら

焼け跡の、新しく耕された場所には、緑色の麦がふさふさと茂っていました。
また、やわらかそうに見える若い葉に、黄色い花が咲いていました。
しかし、まだ片づけがすんでいない場所には、大きな石などがごろごろと転がっていました。
こんなに荒れている空き地だけが、ぼくたち子どもの遊び場でした。
ちょうど、大きな石の下から、水仙がねじれながら頭を出しています。
その茎はほっそりしていましたが、つぼみをつけていました。
もし、この石さえなければ、のびのびとして、美しい花が咲くだろうと思うと、なんだかかわいそうになりました。
ぼくは頬をふくらませ、両手に力を入れて、うんうとうなりながら石をどかそうとしましたが、石はびくとも動きませんでした。
「ああ。」
とため息をついていると、いつの間に帰ってきたのだろう、頭の上をつばめが、ピイチクピイチクと楽しそうに鳴きながら飛んでいました。
「ぼくも、おとうさんが帰ってきたらなあ。」
と、遠い空を見て、悲しくなりました。
「もうちょっとのあいだ、がまんしててね。
ぼくが明日、みんなを連れてくるから。
そして、この石をどかしてあげるからね。」
と、ぼくは花に向かって言いました。
花は、ぼくの言葉がわかったのだろうか、そよ風に体をかすかに揺らしました。
夕方、ぼくは家の方へ帰っていきました。
敷居をまたぐと、部屋からラジオの音がして、にいさんが聞いているのがわかりました。
「ただいま。」
とぼくが言うと、奥からにいさんの声で、
「たけちゃん、早くおいで! いま、ラジオから日本向けの電波が入ったんだよ。」
と知らせてくれました。
そう聞くと、
「本当?」
とぼくは思わず叫んで、そのそばへ駆け寄りました。
だが、そのときは、お話が終わったばかりのあとで、なつかしいレコードの曲が聞こえてきました。
ほたるのひかり、まどのゆき
………………………………………

そこでいっしょに聞いていらしたおかあさんは、
「おとうさんも、あちらでこの歌をお聞きになって、たけしはもう何年生になるかなって、思っていらっしゃるでしょうね。」
とおっしゃったので、ぼくはいっそうおとうさんが恋しくなりました。

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