初級翻訳・お伽草紙 第15話

お伽草紙

小さい子供なら適当な言い訳でごまかせますが、もっと大きくなって「武士道」や「正々堂々」といった考え方を教わった子供なら、このウサギの仕返しを「やり方が汚い」と感じるのではないでしょうか。これは問題だ、と愚かな父は眉をひそめたというわけです。

今の絵本のように、タヌキが老婆にちょっと引っかき傷をつけただけで、ウサギにこんなにも意地悪く振り回され、背中を焼かれ、その傷口に唐辛子を塗られ、最後には泥の舟に乗せられて殺されるという悲惨な運命をたどる物語では、学校に通っているような子供ならすぐに「おかしいぞ」と不審に思うはずです。たとえタヌキが、あの恐ろしい「婆汁」のようなひどいことをしようとしたのだとしても、なぜウサギは正々堂々と名乗りを上げて、一太刀浴びせようとしなかったのでしょうか。

「ウサギは力が弱いから」という理由は、この場合には通用しません。
仇討ちとは、本来正々堂々とおこなうべきものです。
神は正義に味方するのですから。
勝てそうになくても、「天誅(てんちゅう)!」と叫んで真正面から飛びかかっていくべきです。
もし実力の差があまりにありすぎるなら、それこそ「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」の精神で、鞍馬山(くらまやま)にでもこもって、一心不乱に剣術の修行をするべきでしょう。
昔から日本の立派な人たちは、たいていそうやってきました。
どんな事情があろうと、卑怯な手を使って、しかも相手をじわじわとなぶり殺しにするような仇討ちの話は、日本にはまだないはずです。
それなのに、この「カチカチ山」だけは、どうも仇討ちのやり方がいけません。
そもそも男らしくないじゃないか、と子供でも大人でも、正義にあこがれる心を持っている人なら誰でも、この物語に少し嫌な気分を覚えるのではないでしょうか。

安心してください。
私もそれについて考えてみました。
そして、ウサギのやり方が男らしくないのは、当然のことだとわかったのです。
このウサギは、男ではないからです。
それは、間違いありません。
このウサギは、十六歳の少女なのです。
まだ色気はそれほどありませんが、美人です。
そして人間界で最も残酷なのは、えてしてこういうタイプの女性なのです。
ギリシャ神話には美しい女神がたくさん出てきますが、その中でもヴィーナスを除けば、アルテミスという処女神が最も魅力的な女神とされているようです。

ご存じの通り、アルテミスは月の女神で、額には青白い三日月が輝き、敏捷(びんしょう)で気が強く、一言で言えばアポロンをそのまま女性にしたような神です。
下界の恐ろしい猛獣たちは、みんなこの女神の家来です。
けれども、その姿は決して荒っぽくてたくましい大女ではありません。
むしろ小柄でほっそりとしていて、手足も華奢(きゃしゃ)で可愛らしく、ぞっとするほど不思議な美しさを持っています。しかし、ヴィーナスのような「女らしさ」はなく、胸も小さい。
気に入らない相手には、平気で残酷なことをします。
自分の水浴びをのぞき見した男に、さっと水をかけて鹿に変えてしまったことさえあるのです。
水浴びの姿をチラッと見ただけで、そんなに怒るのですよ。
もし手なんか握られたら、どんなひどい仕返しをされるかわかりません。
こんな女性に惚れたら、男は惨めな恥をかかされるに決まっています。
けれども男というものは、特に愚かな男ほど、こういった危険な女性に惚れ込みやすいものなのです。
そして、その結末はたいてい決まっています。
疑う人は、このかわいそうなタヌキを見てみるといいでしょう。
タヌキは、まさにそんなアルテミスタイプのウサギの少女に、ひそかに恋心を寄せていたのです。

ウサギがアルテミスのような少女だったと決めつければ、あのタヌキが老婆を煮ようとしたにせよ、引っかき傷をつけただけにせよ、ウサギの懲罰が妙に意地悪で「男らしくない」のも、当然のこととして溜息をつきながら納得できるというわけです。
しかもこのタヌキは、アルテミスタイプの少女に惚れる男の例にもれず、タヌキ仲間の中でもパッとせず、ただ丸々と太って、のんきで食いしん坊な田舎者でしたから、その悲惨な結末は推して知るべしです。

タヌキは爺さんに捕まって、あやうく「タヌキ汁」にされるところでしたが、あのウサギの少女にもう一度会いたくて、必死にもがいて何とか逃げ出し、山へ帰ってきました。ブツブツ何か言いながらウサギを探し回って、ようやく見つけると、
「喜んでくれ! 俺は命拾いをしたぞ。爺さんが留守の隙に、あの婆さんをエイッとやっつけて逃げてきたんだ。俺は運の強い男さ!」
と得意満面で、今回の絶体絶命のピンチを切り抜けた一部始終を、ツバを飛ばしながら話します。
ウサギはピョンと飛びのいてツバを避け、フン、というような顔で話を聞きながら、こう言ったのです。
「私が喜ぶ理由なんて、何もないじゃない。汚いわね、そんなにツバを飛ばして。それに、あの爺さんと婆さんは、私のお友達なのよ。」「知らなかったの?」

「そうか……」とタヌキはガーンとショックを受けて、「知らなかったんだ。許してくれよ。そんなことだと知っていたら、俺はタヌキ汁にでも何にでもなってやったのに」としょんぼりして言います。

「今さらそんなことを言ったって、もう遅いわ。あのお家の庭先に私がときどき遊びに行って、おいしい柔らかい豆なんかをごちそうになっていたのを、あなただって知っていたでしょう? それなのに、知らなかったなんて嘘をついて、ひどい人ね。あなたは私の敵よ」

ウサギは冷酷な宣告を突きつけます。このときすでに、ウサギの心の中ではタヌキに対する恐ろしい復讐の計画が動き始めていました。少女の怒りというものは、本当に辛口で厳しいものです。とくに、こんなふうに情けなくて鈍感な相手に対しては、容赦など一切ありません。

「許してくれよ。俺は本当に知らなかったんだ。嘘なんてついてない。信じてくれよ」
タヌキは、これでもかというくらいネバネバした口調で一生懸命お願いし、首を長く伸ばしてしおらしく見せています。そして、そばに落ちていた木の実を見つけると、ひょいと拾ってパクリと食べ、まだ他にないかとあたりをキョロキョロ見回しながら、「本当にもう、お前にそんなに怒られると、俺はもう死にたくなってくるよ」と泣き言を言いました。

「何を言っているの。食べることばかり考えているくせに」
ウサギは、もう軽蔑しきったという顔でプイと横を向き、「助平な上に、食い意地まで汚いなんて、本当に最低ね」と言い放ちます。

「見逃してくれよ。俺は腹が減っているんだ」
タヌキはなおもその辺をウロウロ探し回りながら、「まったくなあ、今のおれのこの苦しさが、お前にわかってもらえたらなあ」と訴えます。

「そばに寄ってこないでって言ったでしょう。くさいじゃないの。もっとあっちへ離れてよ。あなたはトカゲを食べたんだってね。私、聞いたわよ。それから、ああ可笑しい、ウンコも食べたんだってね」

「まさか……」とタヌキは力なく苦笑いしました。それでも、なぜか強く否定しきれないのか、さらに元気なく「まさかねえ……」と口を曲げて言うのが精一杯でした。

「上品ぶったって無駄よ。

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