初級翻訳・お伽草紙 第16話

お伽草紙

あなたのその匂いは、ただの臭みじゃないんだから」
ウサギは平然と、とどめの一撃を食らわせます。すると急に、何か素晴らしいことでも思いついたのか、パッと目を輝かせました。笑いをこらえているような顔つきでタヌキの方に向き直り、こう言います。

「それじゃあね、今度一回だけ許してあげる。ちょっと、寄ってこないでって言ったでしょう? 油断も隙もないんだから。よだれを拭いたらどう? 下あごがベロベロしてるじゃないの。落ち着いて、よく聞きなさい。今度一回だけは特別に許してあげるけれど、条件があるのよ。あのおじいさんは今ごろきっとひどく落ち込んで、山に柴刈りに行く気力もなくなっているでしょうから、私たちが代わりに柴刈りに行ってあげましょうよ」

「一緒に? お前も一緒に行くのか?」
タヌキの濁った小さな目が、歓喜でメラメラと燃え上がりました。

「嫌なの?」
「嫌なものか! 今日これからすぐに行こうよ!」
喜びのあまり、タヌキの声がしわがれます。

「明日にしましょう、ね。明日の朝早く。今日はあなたもお疲れでしょうし、おなかも空いているでしょうから」
ウサギは妙に優しく言います。

「ありがたい! おれは明日、お弁当をたくさん作って持っていくよ。一心不乱に働いて、十貫目もの柴を刈って、おじいさんの家に届けてあげる。そうしたら、お前はきっとおれを許してくれるだろうな。仲よくしてくれるだろうな」

「しつこい人ね。その時のあなたの頑張り次第でね。もしかしたら、仲よくしてあげてもいいわよ」

「えへへ」とタヌキは急にいやらしく笑い、「その口が憎いなあ。苦労させるぜ、こんちきしょう。おれはもう……」と言いかけて、這い寄ってきた大きな蜘蛛を素早くペロリと食べ、「おれはもう、どんなに嬉しいか。いっそ男泣きに泣いてみたいくらいだ」と鼻をすすり、嘘泣きをしました。

夏の朝はすがすがしいものです。河口湖の湖面は朝霧に覆われ、白く眼下に煙っています。山頂では、タヌキとウサギが朝露を全身に浴びながら、一生懸命に柴を刈っています。

タヌキの働きぶりといったら、一心不乱どころか、ほとんど半狂乱に近い、あさましい有様です。
「ううむ、ううむ」と大げさにうなりながら、めちゃくちゃに鎌を振り回し、時々「あいたたた!」などと、聞かせるためにわざとらしく悲鳴を上げます。自分がこれほど苦労しているところをウサギに見てもらいたくて、あちこちで荒れ狂っているのです。

ひとしきりそうやって激しく暴れたあと、さすがにもうダメだというような疲れ切った顔つきで鎌を投げ捨てて、言いました。
「これ、見ろ。手にこんなにマメができたぞ。ああ、手がヒリヒリする。のどが乾く。おなかも空いた。とにかく、大仕事だったからなあ。ちょっと休憩ということにしようじゃないか。お弁当でも開きましょうかね」「うふふふ」
タヌキは照れ隠しのようにへんてこな笑い方をすると、大きなお弁当箱を広げました。
石油缶くらいの大きさがあるその箱に鼻先を突っ込んで、ムシャムシャ、ガツガツ、ペッペッと騒がしい音を立てながら、まさに夢中で食べています。
ウサギはあぜんとした顔で柴刈りの手を休め、チラッとお弁当箱の中をのぞき込みました。すると「あ!」と小さな声を上げて、両手で顔を覆ってしまいました。
中身が何なのかは分かりませんが、どうやらとんでもないものが入っていたようです。
それでも、今日のウサギには何か隠された狙いがあるのでしょうか。いつものようにタヌキを馬鹿にすることもなく、さっきから無言のまま、わざとらしい微笑みを浮かべてせっせと柴を刈り続けています。調子に乗ったタヌキの無様な姿も、知らんぷりして見逃してやっているのです。
タヌキのお弁当箱の中身を見てビックリしたはずなのに、やっぱり何も言わず、肩を小さくすくめて、また柴刈りに戻りました。
タヌキは、今日のウサギがやけに優しいので、すっかりいい気分になってしまいました。「ついにあいつも、俺の力強い柴刈り姿に惚れ直したかな? 俺のこの男らしさに、降参しない女なんていないよな。ああ、食った食った。眠くなってきたぞ。どれ、一眠りするか」と、完全に気を許してわがまま放題に振る舞い、グウグウと大きないびきをかいて寝てしまいました。
眠りながらも、どんなおかしな夢を見ているのか、「惚れ薬なんてのは、あれはダメだぜ、効かねえや」なんてわけの分からない寝言を言っていましたが、目を覚ましたのはお昼近くのことでした。
「ずいぶん眠っていたのね」
ウサギは相変わらず優しい声で言いました。「私も柴を一束作ったから、これから背負っておじいさんの家の庭先まで届けてあげましょうよ」
「ああ、そうしよう」とタヌキは大あくびをしながら腕をボリボリかいて、「やけにおなかが空いたな。こうおなかが空くと、もうとても眠っていられないよ。俺は繊細なんだ」と、もっともらしい顔をして言いました。「よし、それじゃあ俺も刈った柴を大急ぎで集めて、山を下りるとするか。お弁当も空っぽになっちゃったし、この仕事を早く終わらせて、すぐに食べ物を探さなくちゃいけないからな」
二人はそれぞれ刈った柴を背負って、山を下り始めました。
「ねえ、先に歩いてよ。この辺には蛇がいるから、私怖くて」
「蛇? 蛇なんて怖いもんか。見つけ次第、俺が捕まえて……」と言いかけて口ごもりましたが、「俺が捕まえて、殺してやるよ。さあ、俺の後について来い」
「やっぱり男の人って、こういう時には頼りになるわねえ」
「おだてるなよ」とタヌキはデレデレして、「今日のお前、やけにしおらしいじゃないか。気味が悪いくらいだぜ。まさか、俺をこれからおじいさんのところに連れて行って、タヌキ汁にするつもりじゃあるまいな。あははは。それだけはごめんだぜ」
「あら、そんなに変に疑うなら、もういいわよ。私が一人で行くわ」
「いや、そういうわけじゃないさ。一緒に行くけどね。俺は蛇だって何だって、この世に怖いものなんてありやしないんだ。だけど、どうもあのおじいさんだけは苦手でさ。タヌキ汁にするなんて言いやがるから、嫌なんだよ。だいたい、下品じゃないか。少なくとも、いい趣味だとは思えないよ。俺はあの、おじいさんの家の庭先の手前にある一本榎(エノキ)のところまで柴を運ぶから、あとはお前が運んでくれよ。俺はあそこで失礼させてもらうつもりなんだ。どうもあのおじいさんの顔を見ると、何とも言えず不愉快になるんだよ。おや? 何だい、あれは。変な音がするね。なんだろう。お前にも聞こえないか? 何だか、カチ、カチと音がする」
「当たり前じゃないの? ここはカチカチ山だもの」
「カチカチ山? ここがかい?」
「ええ、知らなかったの?」
「うん。知らなかったよ。この山にそんな名前があるなんて、今日まで知らなかったね。しかし、変な名前だ。嘘じゃないのか?」
「あら、だって山にはみんな名前があるでしょう? あれが富士山だし、あれが長尾山だし、あれが大室山だし、みんな名前があるじゃないの。だから、この山はカチカチ山っていう名前なのよ。ねえ、ほら、カチ、カチって音が聞こえるでしょう」
「うん、聞こえる。しかし変だな。今まで一度も、この山でこんな音を聞いたことがない。

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