このむすめがおかあさんをののしって、
「お妃になる幸運は、あたしにさずけてくれるはずじゃなかったの。」
と、いいたてました。
「まあ、だまっといで。」
と、まま母はこたえて、とくいそうにこういいました。
「時がくりゃ、ちゃあんと、あたしにうまい考えがあるのさ。」
そのうちに、お妃さまは美しい男の子を生みました。
いっぽう、魔法使いのまま母は、王さまが狩りにでかけて、るすなのを見すましますと、侍女のすがたになって、お妃さまのねているへやにはいっていきました。
そして、まだからだのよわっているお妃さまに、
「さあ、おいでくださいまし。おふろのしたくができました。
おふろはおからだのためによろしゅうございますし、力もおつきになります。
さあさ、さめないうちに、おはやくどうぞ。
むすめもそばにおりました。
ふたりはよわりきっているお妃さまを湯殿につれこんで、湯ぶねのなかにいれました。
そうしておいて、ふたりは戸をしめると、さっさとにげてしまいました。
ところが、湯殿のなかには、ほんとうに地獄のようにおそろしい火がおこしてあったものですから、美しいわかいお妃さまは、たちまち息がつまって、死んでしまいました。
こんどは、まま母はむすめをつれていって、ぼうしをかぶせ、そうして、お妃さまのかわりにベッドにねかせました。
そのうえ、まま母は、むすめにお妃さまのすがた、かっこうまでもさずけました。
けれども、なくなったひとつの目だけは、どうしても、もとどおりにしてやることができませんでした。
それで、王さまにこのことを気づかれないようにするため、むすめは目のないほうを下にしてねなければなりませんでした。
夕がた、王さまがお城にかえってきて、男の子が生まれたことをききますと、それはそれはよろこびました。
そして、さっそく、お妃さまの寝床のところへいって、どんなようすか見ようとしました。
ところがそのとたんに、まま母があわててさけびました。
「およしくださいませ。
お寝床のカーテンは、おしめになっておいてくださいませ。
お妃さまはまだ光をごらんにならないほうがよろしゅうございます。
いまは、しずかにしていらっしゃらなければいけないのでございます。」
そういわれて、王さまはもどってきました。
まさか、にせもののお妃がベッドにねていようなどとは、夢にも知らなかったのです。
ま夜中ごろになりました。
みんなねしずまってしまいましたが、乳母だけは、子どもべやのゆりかごのそばにすわって、まだ目をさましていました。
そのとき、ふと見ますと、戸があいて、ほんとうのお妃さまがはいってきました。
お妃さまは赤ちゃんを両腕にだきあげて、お乳をのませました。
それから、小さなまくらをふるってふくらませますと、また赤ちゃんをゆりかごのなかにねかして、かわいらしいかけぶとんをかけてやりました。
お妃さまは子ジカのこともわすれませんでした。
子ジカのねているすみのところへいって、やさしく背中をさすってやりました。
そうして、ひとことも口をきかずに、そのまま、もとの戸口からでていってしまいました。
乳母は、あくる朝、夜のあいだにだれかお城へはいってきたものはないかと、番兵にたずねてみました。
ところが番兵は、
「いいえ、だれも見かけませんでした。」
と、こたえました。
お妃さまは、こんなふうに、いく晩もいく晩もやってきましたが、ひとことも口をきいたことがありませんでした。
乳母は、いつもお妃さまがそうするのを見ていたのですが、思いきってそれをだれかにいう勇気はありませんでした。
こうして、しばらくたったある晩のこと、お妃さまはこんなことをいいだしました。
ぼうや なにしてるの
シカちゃん なにしてるの
あたしがくるのは あと二度っきり
それで もうこられないのよ
乳母はお妃さまにへんじをしませんでした。
でも、お妃さまのすがたがきえてしまいますと、すぐに王さまのところへいって、いままでのことを、のこらずお話ししました。
「ああ、なんということだ。
今夜は、わしが子どものそばにおきているとしよう。」
王さまはこういいました。
その晩、王さまは子どもべやにきました。
すると、ま夜中にお妃さまがまたすがたをあらわして、いいました。
ぼうや なにしてるの
シカちゃん なにしてるの
あたしがくるのは あといちどっきり
それで もうこられないのよ
それから、いつものように、子どもの世話をして、すがたをけしてしまいました。
王さまは、思いきってお妃さまに話しかける勇気がありませんでした。
でも、つぎの晩もおきて、番をしていました。
すると、お妃さまはまたこういいました。
ぼうや なにしてるの
シカちゃん なにしてるの
あたしがくるのは 今夜っきり
これで もうこられないのよ
王さまは、もうこれいじょうがまんしていることができません。
お妃さまにとびかかって、
「おまえは、わしの妻にちがいない。」
と、いいました。
すると、お妃さまは、
「はい、あたくしはあなたの妻でございます。」
と、こたえました。
しかもそのとたんに、神さまのおめぐみで、お妃さまは生きかえりました。
もとのようにいきいきとして、顔色もよくなり、じょうぶなからだになったのです。
それから、お妃さまは王さまに、あのわるい魔法使いの女とむすめとが、じぶんにたいしてやったひどいおこないのことを話しました。王さまは、ふたりを裁判所へつれていかせました。
そこで、ふたりに重い罪がいいわたされました。
むすめの方は森のおくへつれていかれ、おそろしい野獣(やじゅう)に食べられて、八つざきになってしまいました。
魔法使いの女の方は、燃えさかる火の中へほうりこまれて、見るもむごたらしく焼け死んでしまいました。
そして、この女がもえて灰になったとき、あの子ジカはもとの人間のすがたにもどりました。
妹と、にいさんとは、それからこの世をさる日まで、ずっとしあわせにいっしょにくらしました。
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