すばらしいことがやってくるんだろう。
だが、それは何だろうなあ。
なんだか分からないが、ただ行きたい。ああ、たまらないぞ。もう、じぶんで自分が分からないんだ」
そのときまた、風とお日さまの光がやさしく声をかけました。
「わたしたちの中にいるほうが気楽だよ。
この広々とした中で、元気のいい若い時を十分に楽しむのがいいのだよ」
けれども、もみの木はそんなことを聞いても、ちっともうれしくありませんでした。
こうして冬が去って、夏も過ぎました。
もみの木はずんずん育っていって、いつもいつも生き生きとした緑の葉をかぶっていました。
ですから、だれもこのもみの木を見た人で、「なんてまあきれいな木だろうね」と言わないものはありませんでした。
それで、クリスマスの季節になると、このもみの木はとうとう真っ先に切られました。
そのとき、斧が木の芯まで切り込んだので、もみの木はうめき声を立てて地の上に倒れました。
体じゅうずきずき痛んで、だんだん気が遠くなりました。
考えてみると、うれしいどころではありません。自分が初めて芽を出した森の家から離れるのは、しみじみ悲しいことでした。
子どものときからおなじみの小さな木や花などにも、それからたぶん小鳥たちにも、もう会えないだろうと思いました。
まったく旅に出るというのは、つらいものに違いありませんでした。
やっと正気に返って見ると、もみの木はほかの木と一緒にわらにくるまれて、どこかの家の庭の中に置かれていました。
そばでは一人の男がこう言っていました。
「この木はすてきだなあ。これ一本あれば十分だ」
そこへはっぴを着た二人の男がやってきました。
そしてもみの木を、立派に飾った大きな部屋へ運び込んでいきました。部屋の壁には、様々な絵画が飾られていました。
タイル張りの大きな暖炉のそばには、獅子の蓋がついた青磁の大きな甕(かめ)が置かれていました。
その部屋には、揺り椅子や絹張りのソファ、そして少なくとも子どもたちの言い分を信じるならば、百円の百倍の価値があるような絵本やおもちゃが乗った大きなテーブルなどがありました。
もみの木は、砂がいっぱい詰まった大きな桶の中に入れられました。
けれど、誰の目にもそれが単なる桶とは映りませんでした。
それは青々とした布で包まれ、美しい模様の敷物の上に置かれていたからです。
「まあ、これから先、どんなことが起こるのかしら」
もみの木は期待と不安でぶるぶると震えていました。
召使いたちに続いてお嬢さんたちもやってきて、もみの木に飾り付けを始めました。
枝には色紙を切り抜いて作った網を掛けました。その網の袋には、どれもボンボンやキャラメルがいっぱい詰まっていました。
金紙を被せたリンゴやクルミの実が、まるで本物の果実がなっているかのようにぶら下がりました。
それから、青や赤や白のろうそくを百本あまり、どの枝にも、どの杖のような先にもしっかりと差し込みました。
まるで人間かと思うほどくりくりした目をした人形が、葉と葉のあいだにぶら下がっていました。
まあ、人形なんて、もみの木はこれまでに見たことがありませんでした。
――木のてっぺんには、ぴかぴか光る金紙の星をつけました。
こんなにいろいろなもので飾り立てましたから、もみの木はそれこそ見違えるほど立派になりました。
「さあ、今晩よ」
その人たちはみんな口々に言いました。
「これで今晩、明かりがつくわ」
それを聞いて、もみの木は考えました。
「いいなあ、今晩からだってね。早く晩になって、明かりがつけばいいなあ。それからどんなことがあるだろう。森からいろいろな木が会いに来るかしら。それとも、すずめたちが窓ガラスのところへ飛んでくるかしら。もしかしたら、このままここで根が張って、冬も夏もこうやって飾られたまま立っているのかもしれない」
そんなふうに、あれやこれやと考えるのももっともなことでした。
けれども、もみの木はあんまり考え詰めたので、木の皮が痛くなってきました。
ちょうど人間が頭痛で苦しむように、木にとっては、この皮が痛むのはかなり困った病気なのでした。
さて、ついにろうそくに明かりが灯りました。
なんという輝かしさでしょう。なんという立派さでしょう。
もみの木はうれしさのあまり、枝という枝をぶるぶるさせました。
そのため、一本のろうそくの火が揺れて、青い葉に燃え移ってしまいました。おかげで、かなり焦げてしまいました。
「危ないわ!」
お嬢さんたちは叫んで、あわてて火を消しました。
そこでもみの木は、もう体を震わせることさえできなくなりました。
こうなると、それはまったく恐ろしいほどでした。
もみの木は、せっかくの飾りをひとつもなくすまいと心配でたまりませんでした。それに、あまりに明るすぎるので、ただもうぼうっとしてしまいました。
――
やがて、両開きの扉がさあっと開いて、子どもたちがまるでクリスマスの木ごと叩き落とすような勢いで飛び込んできました。
大人たちもそのあとから静かについてきました。
子どもたちはほんの少しの間、黙って立っていましたが、――たちまち「わあっ!」という騒ぎになり、木のまわりを踊り回りながら、クリスマスのおくりものをひとつ、またひとつとさらっていきました。
「この子たちは何をするんだろう。何がはじまるんだろう」
と、もみの木は考えました。
そうこうするうちに、枝の根元までろうそくがだんだんと燃えていきました。そして、ひとつずつ消されてしまいました。
やがて、木の枝につけてあるものなら取ってもいいという許可が出ました。
やれやれ大変、子どもたちは一斉に木をめがけて飛びつきました。
木はみしみしと音を立てました。もしもみの木のてっぺんにつけてある金紙の星が、うまく天井に縛り付けられていなかったら、きっと木はあおむけにひっくり返されていたことでしょう。
子どもたちはもぎ取った立派なおもちゃをてんでに持って、踊り回りました。
ですから、誰ひとりもう木を振り返って見るものはありませんでした。
たったひとり、ばあやが、木につけてあったイチジクやリンゴを子どもたちが取り残していないかと思って、枝のなかに首を差し入れて覗き込んだだけでした。
「お話してね、お話してね」「お話をして、お話をして!」
子どもたちはそう叫ぶと、ずんぐりとした体格の小柄な男の人を、もみの木のところへ引っ張っていきました。
その人は木の下に腰を下ろすと、こう言いました。
「よしよし、こうしていれば、まるでみんなが緑の森の中にいるのと同じだな。この木だって、喜んでお話を聞いてくれるだろうよ。だが、お話はひとつだけだ。イウェデ・アウェデのお話にしようか。それとも、階段から転げ落ちたのにうまく出世して、王女さまを奥さんにした、でっくりもっくりさんのお話にしようか」
「イウェデ・アウェデをやって!」と、五、六人の子どもたちが叫びました。
するとほかのどの子たちは、「でっくりもっくりさんがいい!」と叫びました。
みんなが口々にわいわいと言い立てるので、部屋の中はがやがやと大騒ぎになりました。けれども、もみの木だけは黙ってこう思っていました。
「わたしには相談してくれないのかしら。
コメント