初級翻訳・よだかの星 第2話

よだかの星

蜂すずめさんだってあんなに遠くにいるんですし、僕ひとりぼっちになってしまうじゃありませんか」
「それはね、どうも仕方がないことなんだ。もう今日は何も聞かないでくれ。そしてお前もね、どうしても生きるために必要な時以外は、いたずらに魚を取ったりしないようにしてくれ。じゃあ、さよなら」
「兄さん、どうしたんですか? まあ、もうちょっと待ってくださいよ」
「いや、いつまでいたって同じことさ。蜂すずめによろしく伝えておいてくれ。さよなら。もう二度と会うことはないよ。さよなら」

よだかは泣きながら、自分の家へ帰っていきました。
短い夏の夜は、もう明けようとしていました。
シダの葉は、夜明けの霧を吸い込んで、青く冷たく揺れていました。
よだかは高く、きしきしと鳴きました。
そして、巣の中をきれいに片付け、体中の羽や毛をきちんと整えると、また巣から飛び出しました。
霧が晴れて、お日さまがちょうど東から昇ってきました。
よだかは、めまいがするほどまぶしい光をこらえながら、矢のように太陽の方へ向かって飛んでいきました。
「お日さま、お日さま。どうか私をあなたのところへ連れて行ってください。焼けて死んでもかまいません。私のようなみにくい体でも、焼けるときには小さな光を出すでしょう。どうか私を連れて行ってください」

飛んでも飛んでも、お日さまはちっとも近づいてきませんでした。
それどころか、だんだんと小さく遠ざかりながら、お日さまは言いました。
「お前はよだかだな。なるほど、ずいぶんつらいだろう。今夜空を飛んで、星たちにそう頼んでごらん。お前は昼の鳥ではないのだからな」

よだかはお辞儀を一つしたつもりでしたが、急に体がぐらぐらして、ついに野原の草の上に落ちてしまいました。
そして、まるで夢を見ているようでした。
体がずっと赤や黄色の星たちの間を登っていったり、どこまでも風に吹き飛ばされたり、また鷹がやってきて体をつかんだりしたような気がしました。
冷たいものが、ふいに顔に落ちました。
よだかは目をひらきました。
一本の若いススキの葉から、露がしたたり落ちていたのでした。
もうすっかり夜になっていて、空は青黒く、一面の星がまたたいていました。
よだかは空へ飛び上がりました。
今夜も山火事の火は真っ赤です。
よだかはその火のかすかな照りと、冷たい星明かりの中を飛び回りました。
それから、もう一度飛び回りました。
そして思い切って、西の空に輝くあの美しいオリオン座の星に向かって、まっすぐに飛びながら叫びました。
「お星さま! 西の青白いお星さま! どうか私をあなたのところへ連れて行ってください。焼けて死んでもかまいません!」

オリオンは勇ましい歌を歌い続けながら、よだかなんて全く相手にしませんでした。
よだかは泣きそうになりながら、よろよろと落ちそうになり、それでもやっと踏みとどまって、もう一度飛び回りました。それから、南の方にある大犬座(おおいぬざ)に向かって、まっすぐに飛びながら叫びました。
「お星さま。
南の青いお星さま。
どうか私をあなたのところへ連れて行ってください。
焼けて死んでもかまいません!」

すると大犬座は、青や紫や黄色にキラキラと忙しくまたたきながら言いました。
「馬鹿なことを言うな。
お前なんて、一体何者なんだい。
たかが鳥じゃないか。
お前の羽でここまで来るには、億年、兆年、億兆年かかるんだよ」
そう言うと、大犬座はさっさと別の方を向いてしまいました。

よだかはがっかりして、よろよろと落ちそうになりながら、それでもまた二回、空をぐるぐると飛び回りました。
それからもう一度思い切って、北の大熊座(おおぐまざ)に向かってまっすぐ飛びながら叫びました。
「北の青いお星さま、あなたのところへどうか私を連れて行ってください!」

大熊座は静かに言いました。
「余計なことを考えるものではない。
少し頭を冷やしてきなさい。
そういうときは、氷山が浮いている海の中に飛び込むか、近くに海がなかったら、氷を浮かべたコップの水の中に飛び込むのが一番だ」

よだかはまたがっかりして、よろよろと落ちそうになりながら、今度は四回も空をめぐりました。
そして最後に、東の空から昇ったばかりの、天の川の向こう岸にある鷲(わし)の星に向かって叫びました。
「東の白いお星さま、どうか私をあなたのところへ連れて行ってください。
焼けて死んでもかまいません!」

すると鷲は、大風のような声で言いました。
「いいや、とんでもない。話にもならないな。
星になるには、それ相応の立派な身分でなくてはいかん。
それに、よほどのお金も必要なのだよ」

よだかはもうすっかり力を落としてしまい、羽を閉じて、地面へと落ちていきました。
地面まであと三十センチというところで、よだかは突然、のろしのように空へと飛び上がりました。
空の真ん中ほどまで来ると、よだかはまるで鷲が熊を襲うときのように、ぶるっと体をゆすって羽を逆立てました。
それから「キシキシキシキシッ!」と高く高く叫びました。
その声は、まるで恐ろしい鷹のようでした。
野原や林で眠っていたほかの鳥たちは、みんな目を覚まして、ぶるぶる震えながら、不思議そうに星空を見上げました。

よだかは、どこまでも、どこまでも、まっすぐに空へのぼっていきました。
もう山火事の火は、タバコの吸い殻くらいの大きさにしか見えません。
よだかはのぼって、のぼって、のぼっていきました。
あまりの寒さに、吐く息は胸元で白く凍りつきました。
空気が薄くなったので、羽をものすごい速さで動かさなければなりませんでした。
それなのに、星の大きさはさっきと少しも変わりません。
荒い息づかいは、まるでふいごのようです。
寒さと霜が、剣のようによだかを突き刺しました。
よだかは羽がすっかりしびれてしまいました。
そして涙ぐんだ目を上げ、もう一度空を見ました。
そうです。これがよだかの最後でした。
もうよだかは、落ちているのか、のぼっているのか、逆さまになっているのか、上を向いているのかさえ、わからなくなっていました。

ただ心持ちは穏やかで、その血のついた大きなくちばしは横に曲がってはいましたが、確かに少し笑っていました。
それからしばらくたって、よだかははっきりと目を開きました。
そして自分の体が、今やリンの火のような青く美しい光になって、静かに燃えているのを見ました。
すぐ隣には、カシオピア座が輝いています。
天の川の青白い光が、すぐ後ろに流れていました。
そしてよだかの星は燃え続けました。
いつまでも、いつまでも燃え続けました。
今でもまだ、燃えているのです。

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