初級翻訳・アリスの地底めぐり 第2話

アリスの地底めぐり

で、ちっちゃな鍵をその鍵穴に試してみると、ぴったり! ドアを開けてアリスが、ネズミ穴と同じくらいの小さな通り口をしゃがんでのぞいてみると、向こうには見たこともないきれいなお庭が広がっていました。
もうその暗い広間から飛び出して、明るいお花畑とひんやり泉のあたりを歩き回りたくてしかたがないのに、そのドアは頭も通らなくって。
「頭だけが向こうに出ても結局、」とかわいそうにアリスは考えごと。
「肩がぬけなきゃどうしようもなくてよ。はあ、望遠鏡みたいに身体をたためればどんなにいいか! 始め方さえわかれば、たぶんできるのに。」というのも、ほら、ここずっととんでもないことばかり起こっていたから、アリスは本当にできないことなんて、実はほとんどないんじゃないかって気になってきていたのです。
ほかにやることもなかったので、テーブルのところに引き返して、もうひとつ鍵でも、いやせめて身体のたたみ方の本でも見つからないかなと思ってたんだけど、今度テーブルの上に出てきたのは小びんでした――「さっきまでぜったいなかったのに」ってアリスは言って――びんの首にくるっと結んであったのが紙切れで、そこに〈ノンデ〉という文字がカタカナできれいに印刷してあって。
「ノンデ」っていうのはたいへんけっこう、「でもまずたしかめること。」って言うアリスちゃんはお利口さん。「びんに〈毒〉の印があるかないか見てみないと。」だってアリスはそういう小話をそれなりに読んだことがあったからです。そこでは子どもがやけどしたり、けだものに食べられたり、そのほかひどい目に合うのだけど、どれもお友だちのさずけてくれた簡単な決まりを忘れたせいでそうなったわけ。
たとえば、火に近づけばやけどするよ、ナイフで指を深く切ったら血が出るよ、とか。
で、ちゃんと覚えていたのが、〈毒〉の印のあるびんを飲むと、おそかれ早かれほぼまちがいなく毒に当たるよ、というもの。
とはいえ、このびんには毒の印はなかったので、アリスが味見してみると、とってもおいしくて(なんと風味はサクランボのタルトにカスタード、パイナップルからローストチキンとキャラメル、あつあつのバタートーストまでがいっしょになったみたいで)あっというまに飲みきっちゃいました。

*  *  *  *  *  *

「とってもへんてこな気持ち!」とアリス。「望遠鏡みたいに身体がたたまれてるのね。」
その通り。今や背たけはたった25センチ。そして顔がぱっと明るくなったのは、ふと思いついたから。あの小さいドアからすてきなお庭に出るのに、今の大きさならちょうどいいって。
とはいえ、まずはしばらくじっとしてたしかめる、もう縮まないところまでね。ちょっぴりどきどきしていたんだ。
「だってほら、おしまいに、」とアリスはひとりごと。「ロウソクみたいに、ぜんぶいなくなっちゃうのかも。そうしたらあたくしどうなっちゃうのかしら。」そこでロウソクがふっと吹き消されたあと火がどうなるのか思い浮かべてみようとしたんだ、見たことなかったからね。まあ、もう何も起こらなかったから、すぐにでもお庭へ出ることにしたんだけど、あああかわいそうにアリス! ドアのところで、ちっちゃな金の鍵をわすれたことに気がついて、鍵をとりにテーブルへ引き返してみると、今度は上にぜんぜんとどかない。
ガラスの向こうにはっきりと見えるのに、せいいっぱいテーブルの足からのぼろうとしても、すべるすべる。しまいにはくたびれて、かわいそうにかわい子ちゃんはへたりこんで大泣きしました。

「しっかり! 泣いたってどうしようもなくてよ!」とアリスは自分に言い聞かせます。
「あなた、今すぐにおやめなさい!」(いつも自分への言い聞かせはとてもご立派。時には自分への叱り方がきびしすぎて涙をためることもあるし、あるときなんか、自分対自分のクローケーの試合でずるしたってことで、忘れずに自分の耳をひっぱたいたことだってあるくらい。このへんてこな子は、一人二役するのが大好きだったんです)
「でも今、」とかわいそうなアリスは考えます。「一人二役してもしかたなくてよ! もう、あたくし、ちゃんとひとり分にも足りてないんだもの!」

ふと目を落とすと、テーブルの下に置かれた黒たんの小箱。
開けると中に小ぶりの焼菓子が見つかって、そこについていた紙切れには、〈タベテ〉って文字がカタカナできれいに印刷してありました。
「いただきます。」とアリス。
「大きくなれば鍵にもとどくし、小さくなってもドアの下をくぐりぬけられる。いずれにしても庭には出られるから、どっちになってもかまわなくてよ!」

ちょびっとかじって、そわそわとひとりごと。
「どちらの方? どちらなの?」とどっちになるか確かめるように、手を頭のてっぺんに当てていたら、びっくりびっくり、気づくと同じ背たけのまま。
たしかに焼菓子を食べただけじゃ、こうなるのがふつうなんだけど、アリスはとんでもないことが起こるってそれだけを考えるようになっていたから、まともに進むことがすごくつまらなく、ばかげたことに思えてね。
だからむきになって、たちまちぺろりと焼菓子をたいらげたんだ。

*  *  *  *  *

「てんへこりん、てんへこりん!」と声をあげるアリス。
(びっくりのあまり、ちゃんとした言葉をどわすれしてね)「今度は身体が広げられてる、世界最大の望遠鏡をのばしてるみたい! ごきげんよう、あんよちゃん!」(だって足元を見下ろすと、どんどん遠ざかって、ほとんど見えなくなっちゃったから)
「ああ、おいたわしや、あんよちゃん。こうなったらどなたにくつやくつ下をはかせてもらおうかしら、ねえ? ぜったいあたくしには無理! あんまりにもはなれすぎて、こっちからお世話できなくてよ。できるだけご自分で何とかなさることね――でも気づかいはしてあげないと。」とアリスは思って、「でないと行きたい方に歩いてくれないかも! そうね、クリスマスごとに新しいブーツをさし上げてよ。」

頭のなかであれこれ、どうしようかとめぐらせ続け、「ひとに運んでもらわないと。」と考えて、「って、もうふきだしそう、自分のあんよにプレゼントだなんて! あて名だっておかしなものになってよ!
カーペットにお住まいの
アリスの右足さまへ
アリスから愛をこめて
まったく! あたくしの話もからっぽね!」

ちょうどそのとき、頭が広間の天井にごつん。
なんとただいま背たけは2メートル75をややこえたあたり。たちまちちっちゃな金の鍵を取り上げて、お庭のドアへあわてて向かいます。
ふびんなアリス! がんばってもできるのは、横向きにねそべって片目でお庭をのぞくだけ。向こうへ行く望みなんて、これまで以上にありえません。
へたりこんでまた大泣き。

「あなた恥をお知りなさい。」とアリス。
「あなたみたいな気高い娘が、」(たしかにお高い)「こんな大泣き! すぐさまおやめ、いいこと!」
けれどもやっぱり泣いたまま。流すなみだはたっぷり大量で、しまいに大きな池になって、深さおよそ10センチ。まわりにぐるり広がって、広間を半分ひたしてしまいました。

しばらくして聞こえてくる遠くのぱたぱたという足音。

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