初級翻訳・アリスはふしぎの国で 第1話

アリスはふしぎの国で

アリスはふしぎの国で

きらきらと輝く黄金の午後
ぼくらは舟を浮かべて、ゆるやかに進んでいく
小さな腕で、ぎこちなく二本のオールを漕ぎながら
しろい手が、ただ形ばかりに
どこまでも続く川の先を指し示している

ああ、三人の厳しいお姫さま!
こんな素敵な天気の日に、よりによって
指先ひとつ動かすのも億劫なほど、息も絶え絶えなのに
お話をせがむだなんて!
でも、ぼくの口はひとつしかないんだよ
三人が一度に言われても、困ってしまうだろう?

ふんぞり返った一番目のお姫さまは
こちらをにらんで「おはじめなさい」と指図する
おしとやかな二番目のお姫さまは
「すっからかんな、楽しいお話がいいな!」とねだり
三番目のお姫さまは、語るそばから
一分に一度は、ちょっかいを出してくる

やがて、あたりはしんと静まりかえり
ぼくの頭の中では、物語が動き出す
びっくりするような、ふしぎな世界を
夢見る女の子が、どんどん歩いていく様子を
鳥や獣としゃべりながら――
語るぼく自身も、なんだか夢うつつ

やがて物語は行き詰まり
思いつきも底をついてしまった
へとへとに疲れ果てて
なんとか話を打ち切ろうとすると
「つづきはまたこんど――」「いまが、そのこんどよ!」
と、みんなが声をそろえてはしゃぎだす

こうして、ふしぎの国のお話は生まれ
ひとつずつ、ゆっくりと
へんてこな出来事がひねり出されていった――
お話はここまで、さあおしまい
舟を家路へ向ける、にぎやかな一行のうしろで
お日さまがゆっくりと沈んでいくよ

アリス、このおとぎ話をどうぞ
やさしい手で、大切に受け取ってほしい
思い出という秘密の糸で
子供のころの夢を縫い合わせたこの物語を
今はもうしおれてしまったけれど
はるか遠くで摘んだ、あの花輪のように

1 ひゅうんとウサギ穴へ

 アリスは、もうすっかり退屈してきました。木かげでお姉さまのそばに座っているのも、何もしないでいるのも――ときどきお姉さまの読んでいる本をのぞいてみても、絵も会話もないんですもの。「絵も会話もない本なんて、なんの役に立つのかしら」とアリスは思いました。

 だから、あれこれと考えてはみるものの(日ざしがぽかぽかして、なんだか眠くなってくるので、考えもまとまりません)、デイジーの花輪を編むために立ち上がるのが、そんなに楽しいことなのかしら――とぼんやりしていたら、ふと、赤い目の白ウサギが目の前をかけぬけていきました。

 別に驚くようなことでもないし、アリスもそんなに不思議だとは思いませんでした。ところが、ウサギがひとりごとを言ったのです。「およよ! およよ! ちこくしちゃうぞ!」(あとになって考えてみれば、この時点で不思議がるべきだったのでしょうけれど、そのときはごく自然なことに思えたのです)。それからウサギがチョッキのポケットから時計を取り出し、ちらっと見てからまた走り出したので、アリスは飛び上がりました。だって、チョッキのポケットに時計を入れているウサギなんて、見たことがなかったのですから。好奇心でいっぱいになったアリスは、野原を走って追いかけました。幸いなことに、ちょうど目の前でウサギはかき根の下にある大きなウサギ穴にぴょんと飛び込みました。

 アリスも迷わず飛び込みました。あとでどうやって戻ろうかなんて、ちっとも考えずに。

 そのウサギ穴は、まるでトンネルのようにまっすぐ続いていました。ところが、いきなり急な下り坂になったので、アリスは立ち止まる暇もなく、深い吹き抜けのようなところに落っこちてしまいました。

 穴がとても深いのか、落ちる速度がとてもゆっくりなのか、時間にはたっぷり余裕がありました。アリスは落ちながら、まわりを眺めたり、次はどうなるんだろうと想像したりしました。下を見ても暗くて何も見えません。今度は穴の壁に目を向けると、そこにはぎっしりと戸だなや本だなが並んでいました。あちこちに、画びょうでとまった地図や絵もかかっています。通りがかりに棚のひとつからびんを取り下ろすと、〈オレンジ・マーマレード〉というラベルが貼ってありましたが、中身はからっぽでとてもがっかりしました。とはいえ、びんを投げて下の誰かにぶつけてもいけないので、うまく棚のひとつに置いておきました。

「まあ!」とアリスは考えました。「これくらい落ちていれば、階段を転げ落ちるなんてわけないわね! おうちに帰ったら、みんなに勇気があるって思われるわ! ええ、お屋敷の屋根から落ちたって、ぜんぜん怖くないんだから!」(もちろん、そうでしょうね)。

 ひゅうん、うん、うん。いつになったら底に着くのかしら。
「ここまでで、どれくらいの距離を落ちたのかしら。」」と声に出してみる。

「地球のまんなかあたりには来ているはずね。ええと、6400キロの深さだったかしら――」だって、ほら、アリスはお勉強の時間にこういったことはそれなりにかじっていたからね。今ここでひけらかしたところで、聞いてくれる人もいないからどうしようもないけれど、暗記の練習にはなったかな。「――うん、それでだいたい深さは合っているけど――あと、今いるはずの『イド』と『ケイド』は何かしら?」アリスは緯度も経度もさっぱりだけど、今言うと格好がつくかなと思っただけ。

やがてまた、つぶやき始める。

「まさかこのまま地球をまっすぐつきぬけてしまうの? 面白いわっ! 行きつく先の方々は頭を下にして歩いているってわけね! 『たんはい人』ね、たぶん――」聞いてくれる人がいなくてちょうどよかったかも。このとき、言葉づかいが間違っていたからね。「――でも、ちゃんとお国のお名前は何ですかっておうかがいしないと、ねえ。どうも、奥さま、ここはニュージーランド、それともオーストラリア?」と言いながら左足を引いてひざを曲げようとしたんだけど――空中でこんなふうにスカートをつまむところ、思いえがける? できると思う?「そうしたら、物をたずねたあたしが、なんて物知らずの小娘って思われてしまうわ! だめ、聞けないわね。でも、もしかしたらどこかに書いてあるのが見つかるかも。」

ぴゅうん、うん、うん。

ほかにやることもなくて、またすぐにアリスはしゃべりだす。

「ダイナ、あたしがいなくて、今晩はきっとさみしがっているわ!」(ダイナはネコのこと。)「みんなお茶の時間にミルクを出すのを忘れていないといいけれど。ダイナちゃん! いっしょに落ちてくれたらよかったのに! 空中にネズミはいなさそうだけど、コウモリならとれるかも。だってほら、似ているもの、ネズミと。でもネコってコウモリを食べるのかしら。」

ここでアリスはちょっと眠くなってきて、うつらうつらしながらそのままひとりごと。

「ネーコってコーモリ食べる? ネーコって、コーモリ、食べる?」

そのうち、どっちがどっちを食べるのかわからなくなって。まあ、ほら、どちらにしても答えはわからないから、どっちになっても大して変わりないけど。うとうと気分になると、ちょうど始まる夢の中ではダイナと手をつないでお散歩の場面。そこでにらんで言うんだ、「いいこと、ダイナ、はっきりお言い。

コメント

タイトルとURLをコピーしました