初級翻訳・アリスはふしぎの国で 第3話

アリスはふしぎの国で

2 なみだまり

「てんへこりん、てんへこりん!」と声をあげるアリス(もうびっくりのあまり、一時ちゃんとした言葉づかいをどわすれしてね)。
「今度は身体が広げられてる、世界最大の望遠鏡をのばしてるみたい! ごきげんよう、あんよちゃん!」(だって足元を見下ろすと、どんどん遠ざかって、ほとんど見えなくなりそうで。)「ああ、おいたわしや、あんよちゃん、こうなったらどなたにくつやくつ下をはかせてもらおうかしら、ねえ? ぜったいあたくしには無理だからっ! あんまりにもはなれすぎて、こっちからめんどう見切れなくてよ。できるだけご自分で何とかなさることね――でも気づかいはしてあげないと。」とアリスは思って、「でないと行きたい方に歩いてくれないかも! そうね、クリスマスごとに新しいブーツをさし上げてよ。」

頭のなかであれこれ、どうしようかとめぐらせ続けてね。「ひとに運んでもらわないと。」と考えて、「って、もうふきだしそう、自分のあんよにプレゼントだなんて! あて名だっておかしなものになってよ!

だんろ前の
 しきものにお住まいの
  アリスの右足さまへ
    アリスから愛をこめて

まったく! あたくしの話もすっからかんね!」

ちょうどそこで、頭が広間の天井にごつん。なんとただいま背たけは2メートル75をややこえたあたり、たちまちちっちゃな金の鍵を取り上げて、お庭のドアへあわてて向かう。ふびんなアリス! がんばってもできるのは、横向きにねそべって片目でお庭をのぞくだけ、向こうへ行く望みなんて、これまで以上にありえない。へたりこんでまた大泣きのはじまり。

「あなた恥をお知りなさい。」とアリス。「あなたみたいな気高い娘が」(たしかにお高い)「こんな泣きに泣いて! ただちにおやめ、いいこと!」けれどもやっぱりそのまま、流すなみだはたっぷり大量、しまいにぐるりと大きな池になって、深さおよそ10センチ、広間も半分ひたってしまう。

しばらくして聞こえてくる遠くのぱたぱたという足音、あわててなみだをぬぐって近づくものに目をやると、そう、あの白ウサギがまた帰ってきたんだ、おめかしして、白ヤギの手ぶくろを片手に、大きなせんすをもう片手に持っていてね。大わらわでどたばたやってきて、ぶつぶつ言いながらこっちへ来るんだ。

「およよ! 御前さま、御前さま! およよ! お待ちさせたらかんかん、そんなのいやでおじゃる!」

まさにアリスはすがる思いで、だれか助けてと言いたいところだったから、近くを通りがかったウサギにおずおずと弱々しげに声をかけてみる。

「もし、よろしくて――」

びくっとしたウサギは、はたと白手ぶくろとせんすを落として、全速力でぴゅーっと暗がりに消え去っちゃった。せんすと手ぶくろを拾い上げたアリス、その部屋が暑苦しいので、ずーっと自分をあおぎながらひとりごとの続き――「もう、もう! 今日はけったいなことばかり! でも昨日はずっといつも通りだったのに。もしや夜中のうちにあたくしの身に何か。待って。今朝起きたときのあたくしはちゃんとあたくし? どうも少しちがっていた気がしないでもなくてよ。でもあたくしでないのなら気になるのは、『今のあたくしはいったいどなた』ってこと。んもう、まったくややこしい!」

そこで同い年の知り合いの子のことをみんな思いうかべていって、自分がそのうちのだれかになっていないかたしかめたんだ。「あたくしがエイダでないことはたしかね。」とつぶやく。「だってあの子の髪はあんなに長いまき毛、あたくしはちっともまきがなくてよ――それときっとメイベルでもないはず、だってあたくしは物知りっていうのに、あの子、ふん! 知らないにもほどがあってよ! それに、あの子はあの子、あたくしはあたくし、だから――ああ、もう! なんてややこしいの! どうかしら、ちゃんと覚えてたこと覚えてる? ええと4×5=12、4×6=13、4×7――ああ、もう! そんな調子じゃいつまでも20にならなくてよ! とはいえ九九なんて大したことないんだから。地理を試すの。ロンドンはパリの都、パリはローマの都、それからローマは――ちがう、そんなのまちがいに決まってる! メイベルになっちゃったにちがいなくてよ! だったら『がんばるぞミツバチ』のお歌はどう?」

そこでおけいこごとみたく、ひざ前に手を重ねて、そらんじてみたんだけど、声ががらがらでとっぴで、それに歌詞もいつも通りでなくって。びっくりだ わにさん
しっぽがね ぴかーん
ナイルがわ ざあぶざぶ
うろこにね びしゃーん!

キバだして にいんやり
ツメひろげ じゃきーん
おいでませ さかなちゃん
にこにこ……がぶりっ!

「ぜんぜん歌詞がちがってよ。」とかわいそうにアリスはまた目になみだをいっぱいにためながら、言葉を続けた。
「やっぱりあたくしメイベルにちがいないのね。だったらあたくし、あのせせこましい小屋にうつり住まなきゃいけないことになって、しかも遊ぶおもちゃもろくにないの。うわあん! お勉強も山もりよ! いやあ! あたくし心に決めたわ、もしあたくしがメイベルなら、ここでじっとしててやるんだから! どなたかがのぞいて『お上がりなさい!』なんて言ってもむだなんだから! あたくし上目で申しあげてよ、『ところであたくし何者? まずそれにお答えになって。それから、それがあたくしのなりたい方なら上がりますけど、ちがうようでしたらほかのどなたかになるまで、ここでじっとしております。』――でも、ああもう!」とアリスはいきなりわっと泣き出して、「そののぞいてくれるどなたかが、いてくださったらどんなにいいか! もうもううんざりよ、こんなところでひとりぼっちだなんて!」

こう言いつつ自分の手に目を落としてみるとびっくり。見ると、しゃべっているあいだにウサギさんの白手ぶくろをはめていたんだ。
「どうしてこんなことができてるの?」と思ってね、「また小さくなってるにちがいないわ。」起きあがってテーブルまで行って、背たけをはかってみると、だいたいしかわからないながらも、今はおよそ60センチで、大いそぎでちぢみつつあってね。
わけはすぐにわかった、持っているせんすのせいなんだ。あわてて手放すと、まさにそのときからちぢみはすっかりおさまって。

「まったく、命からがらね!」と言うアリスは、いきなり変わったことにびくびくものだったんだけど、自分がまだちゃんとあるってわかってほっとしてね。
「さて今こそお庭よ!」といちもくさんにあの小さなドアへもどったんだけど、なのに、ああ! 小さなドアはまたしまっていて、ちっちゃな金の鍵も前と同じでガラスのテーブルの上。だから「もう今までで最悪」とかわいそうにその子は思うしかない。
「だってこんなちっちゃくなったの初めてなのよ、初めて! 正直ひどすぎてよ、ひどすぎ!」

と口に出したとたん、足をすべらせ、たちまちぼちゃん! しょっぱい水に首までつかって。
初めのうちは海か何かに落ちたと思ってね。
「たしかこういう場合は、線路から引き返せばよくてよ。」とひとりごと。(アリスは生まれてこのかた1度だけ海辺に行ったことがあったから、ふつうにこう考えたんだ。

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