この物語の原書とも言える、テニスンの詩『国王牧歌(こくおうぼっか)』は、まさにこの精神を具体的なかたちで見せてくれるものであり、このお話をしっかりと理解するための大切な鍵となります。そのため、説明が面倒だと思われても、読者の皆さんにどうしても注意してほしくて、あえておせっかいを焼いたのです。どうか読者の皆さん、この気持ちをわかってください。
円卓の騎士たちのうわさは国中のすみずみにまで広がり、多くの若者たちの心の中には、「いつの日か、自分もあの円卓に加わるにふさわしい立派な人間として認められたい」という、ひそかな大きな夢があったのです。
ここに、ゲーレスという一人の若者がいました。彼は家で、オルクニーの王妃である母親と一緒に暮らしていました。彼は兄弟の中でいちばん年下の末っ子でした。母親はこの子に深く愛情を注いでおり、できることならいつまでも自分のそばに置いておきたいと願っていました。なぜなら、夫である年老いたロット王はまるで子供のように体が不自由になり、手足も動かなくなっていて、母親を少しも助けることができなかったからです。しかし、この若者の頭の中は「王さまの宮廷へ行って、自分の名をとどろかせ、あのすばらしい円卓の騎士の一人になりたい」ということだけでいっぱいでした。彼はいつもお母さんに、宮廷へ行かせてほしいと頼み込みましたが、お母さんはいつも、彼を家に引き止めておくためのもっともな理由をいくつか用意していました。ある時は「お前はまだ若すぎる」と言い、またある時は「自分をひとりぼっちにして置いていくなんて残酷だ」と言いました。それでも、彼は毎日あきらめずにねだり続けたので、お母さんは彼がだんだんふさぎ込み、不満を募らせていることに気づきはじめました。
そこで、かわいそうなお母さんは、この問題をきっぱりと解決できると期待して、ある作戦を思いつきました。「行ってもよい」とは言うものの、一つの条件をつけよう、それも絶対に達成不可能な条件にしよう、と考えたのです。そして、次にゲーレスが、家で若い時を無駄に過ごさせないでほしいと、しきりに頼み込んできた時、お母さんはこう言いました。
「『ああ、どうしてもと言うなら、行きなさい。ただし、王さまにお願いして騎士にしていただく前に、生みの親であるこの私への従順さと愛を示すための証拠を、たった一つだけ求めます。』
するとゲーレスは叫びました。
『難しいことだろうと、百個だろうと構いません、行けるのなら! さあ早く、私の本気を見せつけるための試練を教えてください!』」
譯
『是非とならば行くも可し、
唯一つ、王に求めて士となるに先ち、
母に對する孝と愛との證かしを見たし。ゲーレスは叫びました。
「どんな証拠でも構いません! たった一つどころか、百の証拠だって、行かせてさえもらえるなら! さあ、早く、命にかけても、ぼくの心を示す証拠を見せてみせます!」
――さて、母である王妃が考え出したその「試練」とは、いったいどんなものだったと思いますか?
それは、ゲーレスが身分を隠して王さまの宮廷へ行き、自分の食べ物をもらう代わりに、お城の台所でお手伝いをさせてほしいと頼むことでした。そして、まわりからどれほど強く名前を尋ねられても、絶対に自分の名前を明かさず、その台所の仕事を「十二ヶ月と一日」の間ずっと続けなければならない、というものだったのです。
気概に満ちた、血気盛んな若い騎士崩れの若者にとって、これは本当に、あまりにも厳しすぎる条件でした。
ゲーレスはしばらくの間じっと考え込みましたが、やがてその条件を受け入れました。
「たとえ姿かたちは下働きのみじめな身分になったとしても、ぼくの心まで自由を奪われるわけじゃないさ。それに、そうすれば大好きな馬上の試合だって見られるんだから!」
ゲーレスはそう言いました。
王妃は、まさか息子がこの条件をのむとは思っていませんでした。「これを聞けば、あの子はきっと怒って、ふくれっ面をして断るだろう」と期待していたのです。だから、こんな条件を出してしまったことを、今さらになってとても後悔しました。
しかし、もう後の祭り、してしまったことは取り返しがつかなかったのです。ある日の早朝、ゲーレスは、自分が生まれたときからずっと世話をしてくれていた二人の家来を連れて、旅立ちました。
三人ともボロボロの粗末な服を着て農民に身を隠していたので、道中では誰にも怪しまれず、特別な冒険に出会うこともありませんでした。
当時、アーサー王が今年の宮廷をキャメロットに開いていることを、彼らは知っていました。
王はいつも盛大に聖霊降臨祭(ペンテコステ)のお祭りを催していましたが、その場所はいつも同じとは限らなかったのです。
キャメロットというのは、私たちが今ウィンチェスターと呼んでいる町であり、当時はアーサー王の王国の首都でした。
都に近づくにつれ、供の者たちは、お日さまの光を浴びてキラキラと輝く高い塔や屋根の美しさとすばらしさに、すっかり度肝を抜かれました。
彼らにはそれが魔法の都のように思え、魔法使いマーリンの不思議な伝説やその行いを思い出すと、怖くなってゲーレスに引き返そうと頼み込みました。
しかし、ゲーレスは二人を笑い飛ばすだけで、そのまま見事な彫刻で飾り立てられた大きな門へとやってきたのでした。門の中央のかなり高いところには、「湖の仙女」の立像が、威厳と美しさに満ちあふれてそびえ立っていました。片方の手には一本の剣を、もう片方の手には一つの香炉を持ち、その胸の上にはキリスト教のシンボルである聖魚(せいぎょ)が掲げられていました。
この中央の像の左右には、アーサー王が戦いで勝ち進んだ様子を描いた素晴らしい場面の数々が彫られていました。
三人はこの驚くべき城門をくぐり抜け、大きなお屋敷(大広間)へ行く道を尋ねました。
さて、アーサー王には、何か不思議な冒険や出来事を目にするまでは、絶対に昼食の席につかないという決まりがありました。
円卓の騎士の一人であるサー・ガウェーンが、窓の外をぼんやりと眺めていると、三人の男たちがこちらへ近づいて来るのが見えました。そこで彼は王のところへ行き、こう言いました。
「王様、どうぞ今すぐ昼食の席にお出かけください。ほら、今日の冒険がやってきましたよ」
これはガウェーンのなかなかの機転でした。なぜなら、宮廷には何かしらの口実をつけて見知らぬ旅人たちがひっきりなしにやって来ていたため、それが本当はそこまで珍しいことでもなかったからです。さて、こうして偉大な円卓には、勇敢でりっぱな騎士たちがまるで星のようにきらびやかにずらりと並び、王はその真ん中にお座りになりました。
そこに、三人の男たちが大きな広間に入ってきました。
ゲーレスは真ん中にいましたが、背が高くてしっかりとした体つきをしているのに、まるで病気で弱っているかのように、両隣の男たちの肩に体を預けて歩いていました。
まわりの騎士たちはじろじろと目を丸くして見つめながらも、道の脇に寄って場所をあけ、三人はそのまままっすぐ王さまのところへ歩み寄りました。
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