大きなデンデンムシの背中に、生まれたばかりの小さなデンデンムシが乗っていました。
小さくて、透き通るようなデンデンムシでした。
「ぼうや、ぼうや。もう朝だから、目を出しなさい」と、大きなデンデンムシが呼びかけました。
「雨は降っていないの?」
「降っていないよ」
「風は吹いていないの?」
「吹いていないよ」
「本当?」
「本当よ」
「それなら」と、細い目を頭の上にそーっと出しました。
「ぼうやの頭のところに、大きなものがあるでしょう?」とお母さんが聞きました。
「うん、この目にしみるもの、これなあに?」
「緑の葉っぱよ」
「葉っぱ? 生きているの?」
「そう。でも、どうもしないから大丈夫よ」
「あ、母ちゃん、葉っぱの先に玉が光ってる!」
「それは朝露(あさつゆ)っていうものよ。きれいでしょう?」
「きれいだなあ、きれいだなあ、まん丸だなあ」
すると、朝露は葉っぱの先からぴょいと離れて、ぷつんと地面へ落ちてしまいました。
「母ちゃん、朝露が逃げちゃった!」
「落ちちゃったのよ」
「また葉っぱのところへ帰ってくるの?」
「もう来ないわ。朝露は落ちると壊れてしまうのよ」
「ふーん、つまんないね。あ、白い葉っぱが飛んでいく」
「あれは葉っぱじゃないわ、蝶々よ」
蝶々は木の葉の間をくぐって、空高く飛んでいきました。
蝶々が見えなくなると、子どものデンデンムシは聞きました。
「あれ、なあに? 葉っぱと葉っぱの間に、遠く見えるもの」
「空よ」と、母さんのデンデンムシが答えました。
「誰か、空の中にいるの?」
「さあ、それは母さんも知りません」
「空の向こうに何があるの?」
「さあ、それも知りません」
「ふーん」
小さなデンデンムシは、お母さんでさえもわからない不思議な遠い空を、細い目をいっぱいに伸ばして、いつまでも見ていました。
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