「そいつの言うことを信じちゃいけない! そいつの言うことを信じちゃいけない!」と、ニールスはさけびました。
「おれをけなすのはだれだ? おれをけなすのはだれだ?」と、オスのハトはクウ、クウと鳴きながら、からかったものの姿を見つけようとしました。
「カラスにさらわれたものだよ」と、ニールスは答えました。
と、またもアラシがふりむいて、だまれと命令しました。
けれども、ニールスを背中に乗せているノロ公は、
「しゃべらせておきなさいよ。そうすりゃ小鳥どもは、われわれカラスが、とんちのきくおもしろい鳥になったと思うでしょうからね」と、言いました。
「ふん、あいつらだって、それほどばかじゃああるめえ」と、アラシは言いました。
けれども、内心ではノロ公の考えが気に入ったようで、それからは、ニールスの好きなように言わせておきました。
カラスたちは、たいていは森や森のあいだにある牧場の上を飛んでいきましたが、ときには教会や村、森のそばの小屋の上も飛びました。
あるところでは、古くて美しいお屋敷が見えました。それは、森をうしろに、海を前にして建てられていました。壁は赤く塗ってあり、屋根はキリのようにとがっていました。お屋敷の前には大きなカエデの木が立っていて、庭には大きなスグリの茂みがありました。
風見の上では、ムクドリのオスがすわって、大声でさえずっていました。その声は、ナシの木の巣箱の中で、卵を温めているメスにまでよく聞こえました。
「かわいい卵が四つある」と、ムクドリは歌っていました。「まあるい、きれいな卵が四つある。巣の中は、きれいな卵でいっぱいだ」
ムクドリが、ちょうど千回目を歌いおえたとき、ニールスがその上を通りかかりました。そして、両手を笛のように口にあてて、さけびました。
「カササギに卵をとられるよ! カササギに卵をとられるよ!」
「わたしをおどかそうとするのは、だれだね?」と、ムクドリはたずねながら、不安そうにはねをバタバタさせました。
「カラスにつかまってるものだよ!」と、ニールスは言いました。
こんどは、カラスのおかしらも、だまれとは言いませんでした。それどころか、たいそうおもしろがって、みんなといっしょに、ゆかいそうにカアカアと鳴きました。
陸地の方へ進むにつれて、湖は大きくなり、その中の島や岬も多くなりました。とある湖の岸辺では、一羽のオスのカモが、メスの前でていねいにおじぎをしていました。
「一生のあいだ、あなたへのまごころはかわりません。一生のあいだ、あなたへのまごころはかわりません」と、オスは熱心に言っていました。
「ひと夏もつづかないぜ!」と、このとき通りかかったニールスが言いました。
「だれだ?」と、カモのオスはさけびました。
「カラスにさらわれたものだよ!」と、ニールスはさけびました。
お昼ごろ、カラスたちは森のあいだの、ある草地におりました。みんなはあるきまわってたべものを探しましたが、ニールスにも何か分けてやろうという者はだれひとりいませんでした。
そのとき、ノロ公が、ひからびた赤い実の二つ三つついている野バラの枝をくわえて、おかしらのところへ飛んできました。
「おかしら、これを召しあがってください。うまいものですから、きっとお気にめしますよ」と、ノロ公が言いました。
アラシは、ばかにしきったように、フフンと笑って言いました。
「てめえ、こんなひからびた実を、おれが食うとでも思ってるのか?」
「よろこんでいただけると思ったんですが」と、ノロ公は言いながら、がっかりしてその枝を投げすてました。
ところが、その枝がちょうどニールスの目の前に落ちましたので、ニールスはすぐさまそれをひろって、すいたおなかを満たしました。カラスたちは食べ終わると、おしゃべりをはじめました。
「おかしら、何を考えているんです? あんたは、きょうは、えらく黙りこんでいますね」
と、一羽のカラスがアラシに言いました。
「おれはな、むかし、この地方に一羽のメンドリがいたのを思い出していたところさ。そいつは、飼い主のおくさんが大好きだったんだ。それで、そのおくさんを喜ばせてやろうと思って、とてつもなくでかい卵を産んでよ、それを穀物倉の床下にかくしておいたんだ。そのメンドリのやつめ、卵がかえったら、おくさんがさぞ喜ぶだろうと思って、ひとりでうれしがっていたのよ。おくさんのほうじゃ、メンドリの姿が長いあいだ見えないもんだから、どうしたんだろうと、ふしぎに思って、あっちこっちさがしてみた。しかし、どうしても見つかりゃしない。おい、口なが、そのメンドリを見つけたなあ、だれだかわかるか?」
「わかりますとも、おかしら。だが、それじゃ、わっしもそれに似た話を、お聞かせしやしょう。おかしらは、ヒンネリュードの牧師館にいた大きな黒ネコを、おぼえていなさるかね? あのやろうは、子をうむと、いつも人間がとって、川んなかにほうりこんじまうもんだから、不平たらたらだったんでさ。ところが、一度だけ、おもての干し草の中に、うまくかくしたことがあるんですよ。あいつは、うまくかくしたと大よろこびでしたが、あいつよりも、じつは、このわっしのほうが大よろこびでしたのさ」
すると、ほかのカラスたちも、夢中になってきて、みんながいっぺんにしゃべりだしました。
「へえ、それが、卵や赤んぼネコを盗みだすひけつですかい?」と、一羽が言いました。
「おれなんざ、一人まえになりかけた若いウサギを追いかけたもんだぜ。やぶからやぶへと追いかけてよ――」
みんなまで言いおわらないうちに、別の一羽が口をはさみました。
「鳥やネコをおこらすってのも、おもしろいかもしれねえが、人間をこまらせてやるほうが、ずっとゆかいだろうぜ。おれはな、いつだったか銀のさじを盗んでよ――」
ニールスは、もうこんなおしゃべりを、だまって聞いてはいられなくなりました。
「おい、カラスくん、ぼくの言うことを聞きたまえ!」と、ニールスは言いました。
「きみたちは、そんなひどいことをしゃべりたてて、はずかしくないのかい。ぼくは三週間も、ガンたちといっしょに暮らしているが、聞くこと見ること、みんないいことばかりだぜ。きみたちには、悪いかしらがいるにちがいない。きっとそいつが、そんなふうに盗んだり殺したりさせているんだ。いまのうちに、きみたちは、暮らしかたをかえるがいい。なぜって、人間は、きみたちの悪いのにすっかり腹をたてて、きみたちを根だやしにしようと、けんめいになっているんだよ。だから、このままだと、きみたちは、まもなくおしまいだぜ」
アラシをはじめ、ほかのカラスたちはこれを聞くと、怒りくるって、もう少しで、ニールスにおどりかかって、ズタズタに引きさこうとしました。
ところが、そのとき、ノロ公が笑いながら、カアカアと鳴いて、ニールスの前に進みでました。
「いや、いけない、いけない! このオヤユビ小僧に、銀貨をださせないうちに、ひき裂いてしまったら、ハヤテさんはなんて言うだろうかね?」と、ノロ公は言いましたが、そのようすは、いかにもおどおどしていました。
「やい、ノロ公、女をこわがるってのは、てめえのことか」と、アラシは言いました。
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