湖の周りに数え切れないほど咲いている睡蓮の花も、その夜はいつものように眠らずに、ミミの姿と一緒に、開いた花の影を水の上に浮かべていました。
お月様はだんだんと高く昇っていきました。それと同時に、睡蓮の花には涙のような露がいっぱいにこぼれかかりました。
ミミは、睡蓮の花が自分のために泣いてくれているのだと思い、一緒に涙を流しながらお礼を言いました。
「睡蓮さん。あなたたちは、私がどうして泣いているのか、よくご存じなのですね」
その時、睡蓮の一つがユラユラと揺れたかと思うと、小さな声でミミにささやきました。
「可哀想なお嬢さん。もしお兄さまにお会いになりたいのなら、花の鎖をお作りなさい。そして明日の晩、お月様が湖の真上にお出でになる時までに、その花の鎖が湖の底まで届く長さになるように作るのです。その鎖につかまって、湖の底にある真珠の御殿へいらっしゃい。お兄さまのルルさまを湖の底へお呼びになったのは、あそこの女王様なのです」
睡蓮の花がそこまで言った時、あたりが急に薄暗くなりました。お月様が黒い雲に隠れてしまったのです。それと同時に、睡蓮の花は一つ一つ花びらを閉じ始めました。
ミミはあわてて、その花の一つに尋ねました。
「睡蓮さん、ちょっと待って。どうして真珠の御殿の女王様は、お兄さんをお呼びになったのですか?」
けれども、暗い水の上の睡蓮は、もう二度と花を開きませんでした。
「湖の底の女王様は、どうして私だけをひとりぼっちにしたのですか!」
ミミは悲しい声で叫びました。けれども、湖の周りの睡蓮はすっかり花を閉じてしまい、一つも返事をしませんでした。お月様も、それから夜が明けるまで雲の中に隠れたままでした。
「あら、ミミちゃん。こんなところで花の鎖を作っているのね。まあ、綺麗。そんなに長くして何に使うの?」
夜が明けないうちから花の鎖を作り始めていたミミに、大勢のお友達が集まってきて尋ねました。ミミは淋しそうに微笑みました。
「私ね、この鎖をもっともっと長くして、それに掴まってお兄さんに会いに行くの」
「あら、そうなの。それなら、私たちもお手伝いするわ」
ミミのお友達の女の子たちはみんなそう言って、あちこちから花を摘んできてはミミに渡しました。ミミは草の葉を綟り合わせた糸に、その花を一つ一つ繋いで、長い長い花の鎖を作っていきました。
夕方になるとお友達はみんな家に帰りましたが、ミミはなおも一生懸命に花を摘んでは、草の糸に繋ぎ続けました。日が暮れると、花の咲いている様子が見えなくなってしまったので、ミミは草むらにうつぶせになり、ウトウトと眠りながら月が出るのを待ちました。
やがて、なんだか体がひんやりするのでミミが目を覚ましてみると、どうでしょう。いつのまにか昇っていたのか、お月様はもう空の真ん中に近づいていました。
ミミは月の光をたよりに、花の鎖を振り返って見ました。
いろいろな花をつないだ草の糸は、湖の周りを一周してもまだ余るほどで、その先は広い野原の草の中に隠れて見えなくなっていました。
ミミは、この花の鎖が本当に湖の底まで届くのかどうか分かりませんでした。
それでも、思い切ってその端をしっかりと握りしめ、湖の中へと沈んでいきました。
湖の水が濁っているのは、ほんの上のほうの少しばかりでした。
下のほうは水晶のように明るく透き通っていて、キラキラと輝いていました。
その中にゆらめく水草の林の、なんと美しいことでしょう。
ミミを追い越していく魚の群れの、なんと綺麗なことでしょう。
それでもミミは、ただ兄さんのルルのことばかりを考えて、なおも底深くへと沈んでいきました。
そうすると、はるか底のほうに湖の御殿が見え始めました。
湖の御殿は、ありとあらゆる貴く美しい石でできており、真珠の屋根が林のようにいくつもいくつも並んでいました。
ミミはその一番外側の、一番大きな御門のところまで来ると、花の鎖を離して中へ這い入っていきました。
そして、もしや兄さまがどこかにいらっしゃるのではないかと思い、そっと呼んでみました。
「ルル兄さま……」
けれども、広い御殿のどこからも何の返事もありません。
はるか遠くまで続いている銀の廊下が、ピカピカと光っているばかりです。
ミミは悲しくなりました。
「兄さんはここにはいらっしゃらないのかしら」
と思いました。
その時でした。
御殿の奥のどこからか、「カーン、カーン」という鉄槌の音とともに、懐かしくてたまらないルルの歌う声が、水を震わせて聞こえてきました。
「ミミよ ミミよ おお 妹よ……暗い湖 おお 鳴らぬ鐘……ひとり眺めて おお 泣くミミよ
父はならない ああ 鐘作り……兄もならない ああ 鐘作り……ミミを残して ああ 水の底
ミミよ 泣け泣け ええ 湖が……ミミの涙で ええ 澄むならば……鐘も鳴るやら ええ 知れぬもの」
湖の女王様はダイヤモンドの寝椅子の上に横になって、ルルの歌を聞いておられました。
そして、ルルが陸に残したミミのことを悲しんで歌っていることを知ると、湖の女王様は思わず独り言を言われました。
「ああ……私は可哀想なことをした。
ルルを湖の底へ呼ぶために、私はルルが作った鐘を鳴らないようにした。
そして、ルルがそれを悲しんで湖へ身を投げるように仕向けた。
そのせいで可哀想なミミはひとりぼっちになってしまった。
さぞかし私を恨んでいるだろう……けれども、私はそうするよりほかに仕方がなかった――。
この湖の水晶のような水は、この御殿の庭にある大きな噴水から湧き出している。
その噴水が壊れると、湖の水がだんだん上の方から濁ってくる。
そして、その濁りが次第に深くなって底まで達すると、この湖に住んでいるものは皆、死んでしまわなければならない。
その大切な噴水が、また壊れてしまったのだ。
これを直せるのはルルしかいない。
だから私は、ルルを呼び寄せるほかに仕方がなかった――。
私はこの前にも、こうしてルルの父親を呼んだ。
その前にも、そのまた前にも、噴水が壊れるたびに何人もの鍛冶屋や鐘作りを呼び寄せた。
けれども、そんな人たちは皆、自分一人で勝手に陸へ帰ろうとしたために、途中で悪い魚に食べられてしまった――。
ルルは今、噴水を直しながら歌を歌っている。
妹のことを悲しんで歌を歌っている。
陸に残った妹も、どんなにか悲しいことだろう。
今度こそは用が済んだら、途中で危ない目にあわないようにして妹のところへ送り返してあげよう。
鐘も鳴るようにしてあげましょう――。
ああ、本当に可哀想なことをしました」
この時、ミミはルルの歌声をたよりに、ようやく女王様の部屋の前までたどり着いていました。
そして、女王様の独り言をすっかり聞いてしまったのです。
ミミは、女王様がルルとミミのことを可哀想に思っていること、そしてルルを陸に帰してやろうと考えていることを知り、胸がいっぱいになりました。
その時、女王様は立ち上がって寝部屋へ行こうとされました。
ミミは思わず駆け込んで、女王様の長い長い着物の裾に走り寄りました。
女王様はびっくりして振り返られました。
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