初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第25話

レモンの花の咲く丘へ

……それに、あのお歌を聞きにね!
女の子 あのお歌……?
少年 うん、うん、お姉様のお歌を聞きに来たんだよ。
女の子 お歌を……? まあ!
少年 うん、うん、お姉様のお歌をさ。
女の子 まあ……。
少年 ねえお姉様、あのお歌を教えてよ。お姉様が昔、一度きり僕に教えてくれた、あのお歌をさ!
女の子 一度きり教えた歌……。
少年 お姉様が、僕を置いて遠いところへ行ってしまう日に、一度だけ教えてくれたあのお歌だよ!
女の子 どんなお歌だったかしらねぇ。
少年 「その日のために」っていうあのお歌だよ!
女の子 (驚いて)「その日のために」……?
少年 すごく悲しいメロディーのあのお歌を、もう一度お姉様の口から聞きたいんだ。
少年 だから、お前はここへ来たのかい。
少年 あのお歌が聞きたくて、僕は一生懸命お姉様を探したんだ。
……そして、ついに僕はお姉様を見つけたんだよ。
ねえ、お姉様。
お姉様はちゃんとここにいらっしゃるんだね。
――ああ、僕は本当によかった、すごく安心したよ。(なつかしそうに少年を見つめながら)
女の子 (ヨハナーンを引き寄せ、そのままゆっくりと機織り機の所まで行き、踏み台のところに腰を下ろして、ヨハナーンを自分のひざにすがらせる)ええ、ええ、お姉様はここにいるわよ。お前がそんなに恋しく思ってくれていたお姉様は、ここにちゃんといるんだから。
(悲しげに)間もなく別れなければならない身の上だけれど……。
(ヨハナーンをじっと見つめ)ヨハナーンや、お前さんはそんなにこのお姉様が恋しかったのかい?
少年 お姉様のことばかり、僕はいつも考えていたんだ。
……そして、お姉様が歌ってくれたあの歌を!
女の子 「その日のために」っていう歌をかい?
少年 お姉様、あの歌をもう一度歌ってよ。
僕はあの歌を、お姉様のお口から一度聞いたきりだったから、まだ歌の歌詞をよく知らないんだよ。
女の子 そうだよ、本当に一度きり、それもお前と別れる日に一度だけ教えた歌だったねぇ。
少年 だから僕は、歌の歌詞をまだ知らないんだ。
……でもね、メロディーだけは知っているんだよ。
メロディーだけはね。
女の子 まあ、メロディーだけは知っているの?
少年 メロディーだけはね。
僕、この七弦琴に合わせて弾くことができるんだよ。
でも、歌詞を知らないから、口で歌うことはできないんだ。
女の子 (考え込む。――少し長い沈黙)ああ、それもまた、悲しい一つの予言なんじゃなかろうか……。
少年 (心配そうに)お姉様、お姉様、メロディーだけ知っていて歌詞を知らないのは、すごく悪いことなの?
ねえ、どうしてそんなに心配そうな顔をするの? お姉様がそんなに心配そうな顔をすると、僕は本当に悲しくなっちゃうよ。
女の子 (気持ちを立て直し)いいえ、お姉様は何も心配なんてしていないわよ。
……だけどね、お前が「メロディーだけ知っていて歌詞を知らない」って言ったから……。
少年 本当だもん、僕、本当にメロディーだけは知っているんだよ……。
女の子 ええ、ええ、そうだろうとも。
それはいいとしてね。
(と考えながら)ちょうど、頭で思い描くことはできるけれど、実際に見ることはできないのと同じようだわ。
ぼんやりと肌で感じ取ることはできるけれど、本当の姿を見ることはできないのと同じようだわ……。
少年 お姉様、何を言っているの?
僕にはよく分からないよ。
女の子 いいのよ、それで。
……ああ、だけどね。
少年 うん、うん、お姉様!
女の子 お前がその歌の歌詞を知ることができるときはね。
……それは、お前が自分の運命を知るときなんだよ。
少年 ……僕の運命?
……それは何?
女の子 ここへやってきた運命のことさ。
少年 (笑いながら)お姉様、お姉様。
僕はここへ何のために来たか、知っているよ。
うん、うん、すごーくよく知っているんだよ。
女の子 (驚いて)(とヨハナーンの顔をじっと見つめ)知っているの?
少年 そんなの何でもないよ! 僕はね、ここへ大好き大好きなお姉様に会いに来たんだもの……。
女の子 (少年の頬に自分の頬をすりよせ)そうかい、そうかい、ああ、本当にお前は無邪気だねぇ。
(窓越しに塔のほうをちらりと見て)だけど、あの塔の影が見える頃には、もうその無邪気さもなくなってしまうだろう……。
(少年を強く抱きしめ)ヨハナーンや!
少年 (なんとなく悲しげに)お姉様!
(二人は声もなく顔を見合わせ、固く抱き合う)
少年 (あたりを見回し)お姉様、この部屋はなんだか寂しいね。
女の子 (あたりを見回し)そう思うかい、ヨハナーンや!
少年 (恐ろしそうに)お姉様、この部屋にはどうして灯りがついていないの? ただ、高くて高い天井から、青い光が落ちてくるばかりで……。
……お姉様! あの青い光はどこから来るの?
女の子 恐ろしいところから来るわけじゃないわ。
ただ、天井からさ。
少年 (天井を見上げて)天井がすごく高くて、どこが終わりだか全然分からないや。
――お姉様、どこまでが高いの?
女の子 ……お姉様にも分からないわ。
少年 お姉様も知らない遠いところから、青い光はやってくるんだね。
……お姉様! どうしてここにはベッドがないの?
女の子 この部屋にいる人は、夜も昼もずっと機を織らなくちゃいけないからなの。
少年 (不思議そうに姉の顔を見つめ)夜も昼も?
女の子 ええ、ええ、夜も昼も五色の糸の綾を織るのよ。
(と機織り機を指さす)
少年 (機織り機を眺め)あの機で織るの?
女の子 (頷く)あの機でよ!
(少年は機織り機のそばに行き、手で触れてみる)
少年 冷たい機だね!
(再びお姉様のそばに戻って顔を見上げる。水音が聞こえてくる)
少年 お姉様、外には何があるの?
なんだか恐ろしい水の音が聞こえてくるよ。
女の子 あれはね、暗い水門へ流れ入る水の音なんだよ……。あの水門へ流れ込んだ水は、二度と再び明るい世界へ出てくることができないの。
少年 その水門はどこにあるの?
女の子 この部屋の外よ。
(塔を吹き抜ける風の音が聞こえてくる)
少年 (耳をすまし)お姉様、風が吹いているね。
女の子 塔を風が吹き抜けているのよ。
少年 塔?
女の子 水門の上にはね、高い塔があるんだよ。
その塔の中にはね……いやいや……何も教えないでおこう。(と急に思い返して、ピタッと口を閉ざす)

少年 (お姉様の顔をじっと見つめながら)お姉様!

お姉様 (声に出さず、ただ静かにヨハナーンを見つめる)

少年 (熱心に)ねえ、塔のこと?

お姉様 ううん、何でもないのよ。

少年 お姉様! 塔のことなんでしょ?

お姉様 ううん、あの音はね、水門を吹き抜ける風の音なんだよ。

少年 じゃあ、その水門の上にあるのが塔なの?

(お姉様はスッと立ち上がり、窓から外の塔をそっと覗き見る。塔の上には、月明かりがぼんやりと照り輝いている)

お姉様 夜になったんだね……。青白い光が、塔のてっぺんに流れているわ。
……ううん、外には何もないよ、何にもないんだからね。

(お姉様は自分の体で窓をすっぽり隠すようにして)ヨハナーンや。

少年 お姉様。

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