鬼童丸といえば、その頃日本中で、その名を知らない者はいないほどの大悪党・大泥棒だったのでした。
二郎次は、知らず知らずのうちに大泥棒の手下になってしまったことを、心から悔やみ、悲しみました。
すぐにでも逃げ出そうと思いましたが、案内役の男は手元に弓を構えており、もし二郎次が逃げ出そうものなら、一矢で射殺してやるぞという恐ろしい気配を漂わせていました。
そうこうしているうちに、屋敷の中からは人々の悲鳴や、刀で斬り合う物音が聞こえてきました。かと思うと、泥棒たちはめいめいに金銀の詰まった重そうな袋をかついで、屋敷から出てまいりました。
全員がその家の前で勢ぞろいをすると、行きに通った道をそのまま引き返していきました。
二郎次も、下手に逃げようとすればその場で殺されそうだったため、おそるおそるそのあとをついて帰りました。
やがて、みぞろが池の御殿へ戻ってくると、鬼童丸は手下たちを大広間に集めました。そして、盗んできた金銀を山のように積み上げさせると、それを一掴みずつ手下たちに分け与えていきました。
二郎気が部屋の片隅でブルブルと震えていると、鬼童丸はあの破れ鐘のような声で言いました。
「おい、小僧! そんなに遠慮しなくてもよいぞ。お前にもちゃんと一掴み分けてやるからな!」もらわなければ殺されかねない勢いだったので、二郎次はビクビクしながらそれを受け取りました。
しかし、いざ受け取って中身を見てみると、それは金や銀の硬貨であり、二郎次などが夢にも見たことのないような大金でした。
もともと三人兄弟の中では欲が一番深かった二郎次だったので、そんな大金を目にすると、フラフラと悪い心が芽生えてしまいました。
「これほどお金が儲かるのなら、泥棒の仲間になってもいいや」と思ったのです。
そして、ついに心から鬼童丸の手下になってしまいました。
もともと頭が良くて度胸もある男だったため、泥棒の仲間内でもだんだんと出世していき、鬼童丸が源頼光様に討ち取られた後には、自分が仲間たちの頭領となり、名前を改めて「みぞろが池の多能丸」と名乗り、都の近くの家々を荒らし回っていました。
右の道を進んだ一郎次と、真中の道を進んだ二郎次の結末はこれで分かりましたが、それでは左の道を進んだ三郎次は一体どうなったでしょうか。
四 左の道
左の道を進んだ三郎次は、兄弟の中では一番年齢も若く、心も優しかったため、二人の兄たちと別れたあと、寂しくて泣き出しそうになりました。
けれど、「これではいけない」と気持ちを持ち直し、元気を出して歩いて行きました。
この道は、広い川に沿っていました。
しかし、都まではよほど遠いと見えて、日が暮れかかる頃になって、ようやく都の町はずれにたどり着きました。
もう足がくたくたに疲れて、一歩も歩けないほどになっていました。
どこかに泊まれる宿はないかと、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると、
「もしもし」
と、三郎次を引き止める女性の声がしました。
「はいはい、私をお呼びになりましたか?」
と立ち止まると、その女性は三郎次の顔をしげしげと見つめながら、
「あなたは旅の方でございますか?」
と尋ねました。
「はい、私は丹波の国から都へやって来た者です」
と答えました。
すると、その女性は嬉しそうな顔をして、
「それでは、お気の毒ですが、私の主人の家までちょっとおいでいただけますか? 決して怪しい者ではございませんから」
と言いました。
三郎次は大喜びしました。誰一人として知り合いのいない都の中で、こんな親切な人に出会えるなんて、まるで「地獄で仏に会う」ようなものだと思ったからです。
女性に連れられて半町(約50〜60メートル)ほど歩いたかと思うと、立派な大きなお屋敷の中に案内されました。
三郎次もその後からついて入りました。
その家は、周りの広さが六、七町(約600〜700メートル)もある広大な邸宅で、敷地の中には巨大な蔵が十五、六棟もずらりと立ち並んでいました。
女性は三郎次を連れて長い廊下を進み、奥の一部屋へと案内しました。
見ると、その部屋は目がくらむほど豪華で、床の間には金や銀の贅沢な道具がたくさん飾られていました。
三郎次があまりの美しさにぼんやりと突っ立っていると、女性は、
「あすこに寝ていらっしゃるのが、私たちの御主人様でございます」
と言いました。
その言葉どおり、豪華な部屋の真ん中に、一人の年老いた病人が、苦しそうに荒い息をしながら布団の上に横たわっていました。
三郎次は、おずおずとその場に座りました。
すると病人は女性に向かって、
「それでは、娘を呼んでおくれ」
と言いました。
女性は「はい」と返事をし、静かに歩いて部屋を出て行きました。
三郎次が緊張しながら年老いた病人のそばに座って待っていると、間もなく、十五、六歳くらいの美しい娘が部屋に入ってきました。
老人は三郎次の方を向き、
「お前さんは旅の方だな?」
と、苦しそうに尋ねました。
「はい、その通りでございます」
と、三郎次は優しく答えました。
すると老人は、布団の上で上半身を半分ほど起き上がらせながら、
「実はあなたにお願いがあるのです。どうかこの頼みを聞いてくれないだろうか? もうすぐ死んでしまうこの病人の、人生最後のお願いを、どうか聞き届けてはもらえないだろうか」
と、今にも手を合わせそうな勢いで頼み込みました。
三郎次は、苦しそうな老人の様子を見て気の毒に思い、
「僕にできることなら、何でも聞いてあげますよ」
と言いました。
すると老人は、ホッと安心したように息をつき、
「お願いというのは、ほかならぬことだ。この娘をお前さんのお嫁にして、この家を継いではくれないだろうか?」
と言いました。
これを聞いた時の三郎次の驚きと喜びは、どれほどのものであったでしょう。
しかし、よくよく考えてみると、自分のような乞食同然の百姓が、こんな大長者のお屋敷の婿養子になれるはずがないと思い至りました。これはきっと、この老人が病気で気が狂ってしまったのか、でなければからかって冗談を言っているのだろうと考えたため、正直者の三郎次は少しムッとして、
「子供だと思ってからかうのはやめてください。僕は百姓の息子で、こんな大金持ちの家の婿になれるような人間ではありません」
と言い返しました。
すると老人は悲しそうな顔をして、
「ちゃんと理由を説明しなかった私が悪かった。理由を話さなければ納得できないのも当然だ。私の恥ずかしい身の上話をすることにしよう」
と、苦しそうにコンコンと咳をしながら、話を続けました。「一体、私は一代のうちに、十万貫(昔のお金のことだよ)というものすごい大金を手に入れて、都では『加茂の長者(かものちょうじゃ)』と言えば、知らない人はいないほど有名になったんだ。
だけどね、私がお金を貯めたやり方は、決して正直で正しい方法じゃなかった。
お金を増やすために、たくさんの悪いことをしてきたんだ。
お腹を空かせた貧しい人にお金を貸しては、ものすごく高い利子を取ったり、農家の人たちから重い税金をむりやり取り立てたり、時には偽物の書類を作って、よその人の家や田んぼをだまし取ったりもした。
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