初級翻訳・三郎爺 第11話

三郎爺

「お前さんのその太い胆っ玉は、いったいどこへいっちまったんだ!
そんなことでは、山沢さんに申し訳が立たないじゃないか!」
それは非常に愛情がこもっていながらも、同時にとても厳しく引き締まった声だったそうだ。

その瞬間、彼はまるで、亡くなった旦那様自身が自分を叱ってくれているような気持ちになった。
そして、せきを切ったように大粒の涙がこぼれ出した。
もう死のうとは思わなくなったが、その代わり、今まですっかり気力を失って小さくなっていた彼の心に、ピンと強い張りが戻るような、新しい勇気が湧いてきたのである。
彼は心から頭を下げた。
その知人を通して、彼は目の前にいる旦那様を拝んでいるような気持ちになったのだ。

それから、ごちそうをごちそうになり、それとなく励ましてもらった彼は、帰りの道中でいただいたお金を使って立派な七面鳥を買い、背中に背負って家まで帰ってきた。
彼の肩は再び、あの薄汚い蛆虫どもに向かって、堂々と頼もしくいからせられていたのである。

七面鳥の卵を売ったり、下駄の歯を直したりして働いていたが、気まぐれな彼は、生活していけるだけの十分なお金を稼ぐことができなかった。
今まで払わなくてもよかった家の家賃や税金といったものまで取られるようになったため、暮らしはだんだん厳しくなっていく。
生活が苦しくなろうがどうなろうが、彼はまったく気にせずそのまま放っておいたので、いよいよ事態はひどくなり、ついに娘婿に自分のごはん(食扶持)まで面倒を見てもらわなければならない状態になってしまった。

それでも本人はどこ吹風といった様子だったが、今度は婿の方でそれを放っておけなくなった。
「自分の世話になるからには、少しでも口減らしをするために、何の役にも立たないその女房(後妻)と別れてくれ」と、彼は三郎爺に申し出たのだ。
すると三郎爺は、「うん、そうだな、そうしよう」と、その場で即座に承知した。
そして、妻に対しても「これからの身の振りをしっかり決めてあげるからな」と条件をつけてその話を切り出すと、妻の方も「それも、なんだかよさそうですねえ……」と素直に頷いた。
他と比べようがないほどあっけらかんとした単純さで物事はトントン拍子に進み、女房は彼の家からいきなりどこかの商人の家へと、後妻として迎えられていくことになったのである。

もちろん、そこにごたごたやいざこざが起きるはずもなかった。
お嫁に行く当日、なんと三郎爺自身がとても嬉しそうにニコニコしながら、丁寧に女房の顔の産毛を剃ってやったり、髪結いさんを迎えに行ってやったりしたのだ。
決して豊かではない中でお祝いの新しい帯まで用意して祝ってやった彼は、自分自身もまるで幸せそのものといった顔つきで、女房を温かくお嫁に送り出したのだった。

たった一人きりになった彼は、前よりもますますのんきになり、気が向くと朝に家を出たきり夜になっても帰らず、一日中家をあけっぱなしにしてどこかへ出かけてしまうようになった。
飼っている七面鳥にだって、ちゃんとエサをやることすらない。
修理を頼まれて預かった下駄を、いつまで待っても直さないものだから、お客の方から怒ってさっさと取り戻しに来てしまう始末だった。
家があるといっても名前ばかりの状態で、彼は風に吹かれるまま、気の向くままに、まるで気ままな風来坊のような暮らしを送っていたのである。

そのとき、彼の胸の中ではいったいどんな思いが巡っていたのか――私には、それを正確に言葉にして言い当てることはできない。彼自身もまた、それほどはっきりと「自分はこう考えている」という明確な思いがあったわけではないのだろう。
そして、人々の記憶から彼のことが忘れ去られかけていたある時、まったく思いがけないことに、村の人たちが大笑いしてしまうような一大事件が突然起きた。
それは、あんなにも嬉しそうに自分で顔の産毛まで剃って嫁にやったはずの女房を、彼がいきなり押しかけていって、力ずくで連れ戻してきてしまったという、いかにも彼らしい型破りな出来事だった。
ある日、ふらりと女房の後妻先の店先に現れた彼は、帳場のわきにどっかりと腰を下ろすと、何かを選り分けている女房の顔をじっと見つめ、それからとてつもない大声で、わけのわからないことを二言三言立て続けにまくし立てたかと思うと、突然ぐっと手を伸ばして女房の腕を掴んだのだ。
そして、目の前の男がどこの誰なのかも分からない亭主が、あまりの出来事につま先から頭まであっけにとられ、ただまばたきをするばかりでぼうっとして隙を見せている間に、彼は女房の手を自分の脇の下にかいこむと、自分の出せる限りの全速力で店を飛び出したのである。
言葉も出ないほどびっくりして固まってしまった女房は、片方だけ草履をひっかけたまま、まるで大きな彼の体の脇にちょこんとぶら下がる根付け人形のようにして、家まで引っ張られて一目散に駆け戻ってきたのだった。
はあはあっと荒い息を弾ませながら、ブルブルと震える手でお湯をすする女房をぼんやり眺めながら、彼は静かに煙草に火をつけたが、この騒動について言い訳の言葉は一言も発しなかった。
女房の方もまた、その理由を尋ねようともしなければ、元の店に戻ろうともしない。
二人はまた次の日から、七面鳥の小屋のそばにある小さな共同小屋の中で、貧しい日々を再び二人仲良く迎え始めたのである。
そして、二人すっかり年老いて体も不自由になった今でも、婿から分けてもらう五合の米を分け合い、お互いのわずかな稼ぎを寄せ集めながら、支え合って暮らしているのである。

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