初級翻訳・古事記物語 第7話

古事記物語

そして、国の神の頭になって、宇迦の山の下に御殿をおたてになり、須勢理媛と二人で楽しくおくらしになりました。

四

そのうちに例の八上媛は、大国主神をしたって、はるばるたずねて来ましたが、その大国主神には、もう須勢理媛というりっぱなお嫁さまができていたので、しおしおと、またおうちへ帰って行きました。
大国主神はそれからなお順々に四方を平らげて、だんだんと国を広げておゆきになりました。
そうしているうちに、ある日、出雲の国の御大の崎(みほのさき)という海ばたにいっていらっしゃいますと、はるか向こうの海の上から、一人の小さな小さな神が、お供の者たちといっしょに、どんどんこちらへ向かって船をこぎよせて来ました。
その乗っている船は、ががいも(ガガイモの実)という、小さな草の実で、着ている着物は、ひとりむしの皮を丸はぎにしたものでした。
大国主神は、その神に向かって、
「あなたはどなたですか」とおたずねになりました。
しかし、その神は口を閉じたまま名まえをあかしてくれませんでした。
大国主神はご自分のお供の神たちに聞いてご覧になりましたが、みんなその神がだれだかけんとうがつきませんでした。
するとそこへひきがえるがのこのこ出て来まして、
「あの神のことは久延彦(くえびこ)ならきっと存じておりますでしょう」と言いました。
久延彦というのは山の田に立っているかかしでした。
久延彦は足がきかないので、ひと足も歩くことはできませんでしたけれど、それでいて、この下界のことはなんでもすっかり知っておりました。
それで大国主神は急いでその久延彦にお聞きになりますと、
「ああ、あの神は大空においでになる神産霊神(かみむすびのかみ)のお子さまで、少名毘古那神(すくなひこなのかみ)とおっしゃる方でございます」と答えました。
大国主神はそれでさっそく、神産霊神にお伺いになりますと、神も、
「あれはたしかにわしの子だ」とおっしゃいました。
そして改めて少名毘古那神に向かって、
「おまえは大国主神ときょうだいになって二人で国々を開き固めて行け」とおおせつけになりました。
大国主神は、そのお言葉に従って、少名毘古那神とお二人で、だんだんに国を作り開いておゆきになりました。
ところが、少名毘古那神は、あとになると、急に常世国(とこよのくに)という、海の向こうの遠い国へ行っておしまいになりました。
大国主神はがっかりなすって、私一人では、とても思いどおりに国を開いてゆくことはできない、だれか力を添えてくれる神はいないものかと言って、たいそうしおれていらっしゃいました。
するとちょうどそのとき、一人の神さまが、海の上一面にきらきらと光を放ちながら、こちらへ向かって近づいていらっしゃいました。
それは須佐之男命(すさのおのみこと)のお子の大年神(おおとしのかみ)というお方でした。
その神が、大国主神に向かって、
「私をよく大事にまつっておくれなら、いっしょになって国を作りかためてあげよう。
おまえさん一人ではとてもできはしない」と、こう言ってくださいました。
「それではどんなふうにおまつり申せばいいのでございますか」とお聞きになりますと、
「大和の御諸(みもろ)の山の上にまつってくれればよい」とおっしゃいました。
大国主神はお言葉のとおりに、そこへおまつりして、その神さまと二人でまただんだんに国を広げておゆきになりました。

きじのお使い

一

そのうちに大空の天照大神は、お子さまの天忍穂耳命(あめのおしほみみのみこと)に向かって、
「下界に見える、あの豊葦原水穂国(とよあしはらのみずほのくに)は、おまえが治めるべき国である」とおっしゃって、すぐにくだって行くように、お言いつけになりました。
命はかしこまっておりていらっしゃいました。
しかし天の浮橋(あめのうきはし)の上までおいでになって、そこからお見おろしになりますと、下では勢いの強い神たちが、てんでんに暴れまわって、大さわぎをしているのが見えました。
命は急いでひきかえしていらしって、そのことを大神にお話しになりました。そこで天照大神(あまてらすおおみかみ)と高皇産霊神(たかみむすびのかみ)は、さっそく天安河(あめのやすかわ)の河原に、大勢の神々をすっかりお召し集めになって、
「あの水穂国(みずほのくに)は、本来私たちの子孫が治めるはずの国であるのに、今あそこには、悪賢い神たちが勢い鋭く荒れまわっている。あの神たちを、おとなしくこちらの言うとおりにさせるには、いったいだれを使いにやったものであろう」
とこうおっしゃって、みんなにご相談をなさいました。
すると例のいちばん考え深い思金神(おもいかねのかみ)が、みんなと会議をして、
「それには天菩比神(あめのほひのかみ)をお遣わしになるのがよろしゅうございましょう」と申し上げました。
そこで大神は、さっそくその菩比神をお下しになりました。
ところが菩比神は、下界へ着くと、それなり大国主神(おおくにぬしのかみ)の手下になってしまって、三年たっても、大空へはなんのご返事もいたしませんでした。
それで大神と高皇産霊神とは、また大勢の神々をお召しになって、
「菩比神がまだ帰ってこないが、こんどはだれをやったらよいであろう」と、お尋ねになりました。
思金神は、
「それでは、天津国玉神(あまつくにたまのかみ)の子の、天若日子(あめのわかひこ)がよろしゅうございましょう」とお答え申しました。
大神はその言葉に従って、天若日子に立派な弓と矢をお授けになって、それを持たせて下界へお下しになりました。
するとその若日子は、大空にちゃんと本当のお嫁さんがいるのに、下へ降り着くといっしょに、大国主神の娘の下照比売(したてるひめ)をまたお嫁にもらったばかりか、ゆくゆくは水穂国を自分が取ってしまおうという腹で、とうとう八年たっても大神の方へはてんでご返事にも帰りませんでした。
大神と高皇産霊神とは、また神々をお集めになって、
「二度目につかわした天若日子もまたとうとう帰ってこない。いったいどうしてこんなにいつまでも下界にいるのか、それを責めただしてこさせたいと思うが、だれをやったものであろう」とお聞きになりました。
思金神は、
「それでは名鳴女(ななきめ)というキジがよろしゅうございましょう」と申しあげました。
大神たちお二人はそのキジをお召しになって、
「おまえはこれから行って天若日子を責めてこい。そちを水穂国へ送り出したのは、この国の神どもを説き伏せるためではないか。それだのに、なぜ八年たってもご返事をしないのか、と言って、そのわけを聞きただしてこい」とお言いつけになりました。
名鳴女は、はるばると大空から降りて、天若日子の家の門のそばの、カエデの木の上にとまって、大神から仰せつかったとおりをすっかり言いました。
すると若日子のところに使われている、天佐具売(あめのさぐめ)という女が、その言葉を聞いて、
「あそこに、いやな鳴き声を出す鳥がおります。早く射ておしまいなさいまし」と若日子にすすめました。
若日子は、「ようし」と言いながら、かねて大神からいただいて来た弓と矢を取り出して、いきなりそのキジを射殺してしまいました。

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