初級翻訳・塩原多助一代記 第12話

塩原多助一代記

刺青だらけの勇ましい男が、おいおい泣きながら川崎あたりまで送られていくのを見て、

朋輩(仲間)「それじゃあ、元気でいってこいよ」
男「お母のことを留守中、何分頼む」
などと言って泣き出したりします。

遠い国へ行くのかと思えば、わずか百三十里(約五百キロ)ばかりの場所へ行くのにもこの騒ぎでした。現今では大違いで、「君、鞄を持ってどこへ?」「いや、ちょっとアメリカまで行ってきます」などと言うような具合で、まるで隣の家へ行くかのように気軽に出かけられます。ですが、その頃の沼田下新田は、やはり山国の片田舎でございました。

さて、おかめは角右衛門に連れられてここへやってきて、一年半ほど過ごすうちに角右衛門の妻が亡くなりました。角右衛門もまだ年寄りというわけではありません。それに縁続きのおかめさんは、多助さんにとっても叔母さんにあたる人なので、「この人を後妻に迎えたらいいだろう」と村の者たちがしきりに勧めました。しかし、角右衛門は非常に堅実な人なので簡単には承知しません。「あんなに年の離れた若い女を妻にしては、世間に対してあまりに体裁が悪い」と言って聞き入れないのを、「そうではありません。あなたの跡を継ぐ多助さんの叔母であり、何よりあの子を可愛がってよく世話をしてくれるのだから、妻に迎えるのが一番です」と、分家の者をはじめ村中の者たちに強く勧められ、やむを得ず承知しました。こうして不思議な縁で、おかめを後妻として迎えたのです。

それから十二年が経ち、ちょうど宝暦十年となりました。角右衛門は五十四歳になっていました。
五八(ごはち)という奉公人を供に連れ、江戸見物とどうしても済ませなければならない用事があって国を出発しました。馬喰町に宿を取っていると、二月四日の大火が起こりました。赤坂今井谷から火が出て、品川まで焼け込んで鎮火したと聞いて「恐ろしいことだ」と思っていたところ、一日おいてまた神田旅籠町から火事が発生しました。先ほど申し上げた通り、角右衛門も馬喰町を焼け出されてしまいます。五八は大きな包みを背負ってせっせと逃げ出しましたが、通りを行き交う人々は「あれや、これや!」と叫びながら、大きな荷物を担いで右往左往に駆け回っています。

あちらからは、お使番が馬に乗って駆けてくる。
火消しの人たちは纏(まとい)を振り、鳶口(とびぐち)をかついで威勢よく駆けつけてくる。
そんな大騒ぎの中で、二人はまごまごしながらようやく逃げ出しましたが、どこへ逃げ込めばよいか分かりませんでした。五八は言いました。「旦那さん、恐ろしいことですねえ。一昨日もあんなに大きな火事があったばかりなのに、また今日こうして火事が始まるなんて……。江戸は火事が早いとは聞いていましたが、これほど大きな火事が続いて起こるなんて、魂が抜けるほどびっくりしました。まるで火に追いかけられているようです。危ない、本当に危ない! あんな先の尖った鳶口を担いでみんなが駆け回っていますから、頭にでも当たって怪我でもしたら大変です。旦那さん、一体どこへ逃げるんですか?」

角右衛門は答えました。「私も初めて江戸に出てきたから困り果てている。仕方がないが、この間一度訪ねた小網町の積荷問屋へ行ってみよう。」

そう言って小網町へ向かいましたが、この火事はすでに日本橋から江戸橋、四日市、そして小網町へと燃え広がっていました。そのため、角右衛門はまたしてもそこから焼け出されてしまったのです。

五八は言います。「恐ろしいところだ。江戸なんてところには、二度と来るものじゃありませんね。火に追いかけられているようです。旦那さん、次はどこへ逃げましょうか。」

角右衛門は言いました。「仕方がない。他に当てもないから、深川の出船宿へでも行こう。」

二人は深川高橋までたどり着きましたが、ホッと一息つく間もなく、火の粉が飛んできて深川一面が火の海となりました。火の粉がバラバラと降り注ぐので、五八は言いました。

「旦那さん、またどこへ逃げればいいんですか!」
「もうどこへも行きようがない。」
「ああ、二度と来る場所じゃありませんね。」
「仕方がない。馬喰町は焼けてしまったから、板橋へでも行って泊まろう。」
「板橋まで焼けてきやしませんか。」
「そうしたら沼田へ帰るだけだ。」
「沼田まで焼けてきたらどうするんです?」
「馬鹿を言うな。」

そう言いながら二人は二つ目の橋を渡り、お竹蔵のあたりまでやってきました。ホッと一息ついて後ろを振り返ると、空は一面、梨地のような赤色に染まり、火事の明かりで通りが見通せるほどでした。人々は皆疲れ果てて一人として外に出る者もなく、往来はパッタリと途絶えてしまいました。

夜もだんだんと更けていき、以前のお竹蔵の前、今の交番所があるあたりから割下水の方へ差し掛かると、女の金切り声で「アレー! 人殺し! 人殺し!」という叫び声が聞こえました。角右衛門がハッとして向こうをしっかりと見据えると、一人の悪者が島田髷の女を捕まえて打ち据えているではありませんか。そればかりか、悪者は娘が持っていた包みをひったくって逃げていきました。娘は泣き伏していましたが、何を思ったのか急に起き上がると、目の前のお竹蔵の大きな溝へ身を投げて死のうとする様子です。これには驚きました。親切な角右衛門は、すぐさま駆け寄ると、娘の帯のあたりを掴んで引き留めました。

角右衛門「おい娘さん、お前はこの溝に飛び込むのか? 身投げなんてとんでもない! 何があったのか事情は知らないが、男がお前の荷物をひったくって逃げ、お前もひどく殴られたようだが、一体どういうわけなんだ?」

娘「ありがとうございます。でも、どうぞ私を放してください。私は深川の火事で焼け出され、母親と一緒に逃げる途中、はぐれてしまったのです。一人でここまで来ると、後ろからつけてきた悪者が突然私を突き飛ばし、こづき回して、大事な荷物を持って行ってしまいました。あの包みの中にはお金も入っていますし、何より大切な櫛や笄(こうがい)、衣類も入っているのです。あれを取られてしまったら、母親にどんなひどい目に遭わされるか、殺されてしまうかもしれません。だから、いっそのこと死んでしまいたいのです」

角右衛門「まあ待ちなさい。私は田舎から初めて江戸へ出てきたばかりだが、よく考えてごらん。盗賊に荷物を取られるなんて、災難とはいえ些細なことだ。この、まあ巨大な江戸の火事を見なさい。何千軒という家が焼け落ち、土蔵まで崩れるような大騒ぎの中、盗賊に包みを一つ取られたくらい、大したことじゃない。母親に申し訳ないからといって、この溝に飛び込んで死ぬなんて、まだ若いのに分別がなさすぎるぞ。お前さんがお母さんに会って、『こういう災難で取られてしまった』と正直に謝れば、お母さんも許さないことはあるまい」

娘「それでも、どうぞ死なせてください」

角右衛門「馬鹿なことを言うもんじゃない。お前さんがお母さんに言いにくいなら、私が一緒に行って謝ってやるから。おいおい、そんな心得違いをしちゃいけないよ」

角右衛門が引き留めても娘は言うことを聞かず、泣いて身をもがいて騒ぐので、角右衛門も困り果ててしまいました。

角右衛門「仕様がないな。

コメント

タイトルとURLをコピーしました