「いや、とんでもないものを撃ってしまった。お前が聞いたらさぞ驚くだろう。これから話すから、まあ、そちらの百姓さんも中へお上がりなさい」
そう言って百姓を家の中へ上げ、ことの次第をすべて話し終えると、右内は悲しげに言いました。
「お清、心得違いとはいえ、今朝別れたばかりの右内を、自分の手で撃つことになろうとは……」
「右内さんはどこにいるのですか?」とお清が尋ねるので、角右衛門が右内の上に被せていた蓑と笠をのけると、そこにはあまりにも痛々しい、無残な死に顔がありました。お清は泣きながら言いました。
「ああ、今朝お別れする時、金さえあれば旦那様が元の侍に戻れると無理なお願いをしたばかりに……。私たちが世に出たい一心で、こんな非業の死をさせてしまいました。私が強く頼んだせいで、あの方が勘違いをしてしまったのですね。あなた、どうして人と獣を見間違えたりしたのですか」
角右衛門は答えました。
「いいえ、獣と見間違えて撃ったのではありません。この方が山賊に取り付かれたのだと判断して撃ったのです。泣いている場合ではありません、早くお詫びを申しなさい」
お清は「はい、はい」と答え、悲しみに取り乱して挨拶も忘れていたことを詫びました。
「この者は家来ではございますが、私たちの妹を妻にしておりますので、家来といっても弟と同じような存在なのです。家には七つになる子供もおり、本当に不憫でなりません。どうか、主人への忠義ゆえのことと察していただき、お許しくださいませ」
角右衛門は「私も、こんなことになるのなら、まずは話し合いをすればよかった。とっさに撃たねばと思ってしまって、こんな結果になり、誠に気の毒なことをした」と深く悔やみました。
すると、多助が口を開きました。
「お父さん、どうして叔父さんを鉄砲で撃ったの? 江戸にいる叔母さんや、おえいという従姉妹が聞いたら、どんなに恨むか知れないよ。もし叔母さんが来たら、多助が間違えて撃ったと言うから、あんたは殺していないことにすればいいよ」
角右衛門は「ああ、そうしてくれ。子供にまで苦労をかけて済まないね」と涙ぐみました。
角右衛門は多助を見つめ、「誠に年はいかないが、八歳くらいだろうか。実のなる木は花から違うというが、あんた、お侍さんでございましょうな」と感心しました。
角右衛門と名乗った男は、自分の名前と家系について語り出しました。
「取り乱しておりましたが、まだ名前も申し上げておりませんでした。手前は塩原角右衛門と申す浪士で……」
「いやさ、私が塩原角右衛門という百姓さ」
「へえ、私が……」
「あんた、いつから塩原角右衛門と名乗っているのです?」
「いつからとは、先祖代々からですが」
「私も、その名前は先祖から受け継いでいる」
「手前の先祖は下野の国塩谷郡塩原村の郷士、塩原角右衛門ということが書類に残っておりますが、詳しいことまでは調べておりません」
「私の先祖も野州塩谷郡塩原村だ。沼田へ来て鍬一つから始め、今では田畑や山も持っておりますが……それじゃあ、貴方も元をたどれば同じ血統ということか」
「妙な縁ですな」
「縁は縁だが、こんなことになっては悪縁だね。さあ、ここに金が五十両ある。これで身なりを整えて、立派なお侍になってください」
角右衛門は金を出しましたが、相手の塩原は「どういたしまして、見ず知らずの貴方から頂戴することはできません」と断ります。
それでも角右衛門は言います。
「元をたどれば同じ血筋でしょう。この金で江戸へ帰らなければ、右内殿が犬死にになってしまう。命を捨ててまで主人を助けようとしたのだから、このことを世間に知らせないためにも、受け取って早くお屋敷へ帰ってください」
「いえ、家来が悪事を働いたのですから、手打ちにされても仕方がないのです」と塩原が言うと、角右衛門は「それなら、その五十両で貴方の大事なものを買い取らせてもらえませんか」と切り出しました。
「大事なものと言われても、四年前の洪水ですべて流されてしまい、何もありません」
「では、この貴方の息子さんを私にください」
「何を仰るのです、この子は一人息子ですから、それはできません」
角右衛門は必死に説得します。
「あなた方はまだ若いのだから、いくらでも子供はできます。私は四十二歳になりますが、いまだに子供がおりません。こんな子を養子にもらえたら、これほど有難いことはないのです」
お清は「それはどうあってもできません。家来に無心を頼んだのも、この子を世に出したいからなのですから、無理です」と断固拒否しました。
しかし角右衛門は譲りません。
「よく考えてみてください。あなたが江戸へ行って、この家来をここに埋めてしまったら、江戸からこの数坂峠を越えて供養に来ることはできないでしょう。私がこの子を引き取れば、私は沼田の下新田に住んでいるから半日で来られる。墓参りも供養もしてやれる。三百石の田地と山もあり、不自由はさせない。それに、この子にとっては叔父にあたるのだから、子供のいない昔のことだと思って諦めてくれないか」
「なるほど、面白いことを言う。親切な方だ。よろしい、譲りましょう」
「何を仰るのです! 多助をやって、ご主人様はどうされるのですか!」とお清は叫びましたが、塩原は「黙っていなさい。おい多助、ここへ来い」と言いました。
多助は「はい」と答え、紅葉のような愛らしい手を揃えて、その場にちょこんと座りました。塩原は多助にこう言いました。
「いいか、多助。お前は私の本当の子ではないんだ。この沼田の百姓の子だが、母親に乳が出なくてね、藁の上に寝かせてあったお前を預かって育てたのだ。もう八歳になったから、これからは下新田の角右衛門様のところへ帰って、本当のご両親に精一杯の孝行をするんだよ。そして、この亡くなった叔父さんのために供養をしておくれ。分かったか? お前を育てた礼として、角右衛門様が五十両をくださった。このお金で私が身なりを整えて、江戸の屋敷へ帰らせてもらうからな。よく、本当によく分かったね」
多助は答えました。
「はい。いつもお母さんが私を抱いて寝ながら、『お父さんが金さえあれば江戸のお屋敷へ帰れるのに』と泣いていたから、ああ、金があればいいのにとずっと思っていました。私が大きくなったら稼いで差し上げようと思っていたけれど……。離れるのは嫌だけれど、それなら下新田の叔父さんの子供になったつもりで、行ってきます」
角右衛門は「ああ、そんなことまで知っていてくれたのか。どうか、聞き分けておくれよ」と頼みました。
塩原は「よく聞き分けてくれたな」と微笑みました。
お清は泣きながら言います。
「お前、お母さんが毎晩愚痴をこぼしていたのを、よく分かってくれましたね。お前も、いたずらなんかしては不孝になりますよ。私たちがもうこの世にいないものだと思って、立派に生きるのですよ」
角右衛門は「ありがたいことだ。それでは達者でな。またこの田舎の、お父さんの家の方へも来て会うことがあるだろう」と声をかけました。
塩原は言いました。
「いや、屋敷奉公に出たら自由も利かないだろう。特に、お前の将来のためにも良くない。
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