シメオンも、これには気力をくじかれたのでしょう。
しばらくの間、ただ戸口に立ち尽くして空を殴るように拳を振っていましたが、他の修道士たちもあわてて間に入ったため、それきり手を引きました。シメオンは、嵐がやってきそうな空のように凄まじく顔を曇らせながら、寂しげに「サンタ・ルチア」の門を出ていくロレンゾの後ろ姿を、食い入るようにじっと見つめていました。
その時、その場にいた信者たちの話によると、ちょうど冬の冷たい風に揺れる太陽が、うなだれて歩くロレンゾの頭の上、長崎の西の空に沈もうとしていたため、少年の優しげな姿は、まるで夕日の炎の中に浮かび上がっているように見えたそうです。
その後のロレンゾは、かつて「サンタ・ルチア」の祭壇で香炉を振っていた頃とは別人のような、町外れのぼろ小屋で暮らす、世にも哀れな乞食となっていました。
しかも、かつては神さまに仕えていた身ですから、心ない人々からはまるで汚らわしいもののように蔑まれていました。
町を歩けば子供たちにからかわれるのは日常茶飯事で、石を投げられたり、ひどい扱いを受けたりすることも何度もあったと聞きます。
いや、それどころか、かつて長崎の町に流行した恐ろしい熱病にかかり、七日七夜もの間、道端に倒れ込んで苦しみ悶えたこともあったそうです。
それでも、神さまの計り知れない深い慈しみによって、ロレンゾはそのたびに命を救われました。そればかりか、食べるものがない時には、山の木の実や海で取れた魚など、その日の糧まで恵まれるのがいつものことでした。
そのため、ロレンゾは朝晩の祈りも「サンタ・ルチア」で過ごした昔のままに忘れず、手首にかけた数珠の青い玉の色も変わることはありませんでした。
それどころか、夜が更けて人通りがなくなった頃になると、この少年はこっそりと町外れのぼろ小屋を抜け出し、月明かりを頼りに住み慣れた「サンタ・ルチア」へ、主イエス・キリストの守りがあるようにと祈りに出かけていたのです。
しかし、同じ教会に祈りにくる信者たちは、その頃にはすっかりロレンゾを嫌っており、神父さまをはじめ、誰一人として彼に哀れみをかける者はいませんでした。
無理もありません。破門された時の行いの悪い少年だと思い込んでいたのですから、夜な夜な一人で教会へ通うほど信心深い人間だとは、誰にも分かるはずがありませんでした。
これもまた神さまの深い思し召しの一つですが、人には理解されないまま、ロレンゾにとっては、あまりにも切なく哀れなことでした。
さて、その一方で、あの傘職人の娘の方はというと……。ロレンゾが破門されてから間もなく、傘職人の娘は月足らずで女の子を産み落としました。あんなに頑固だったおじいさんも、初孫の顔を見るとさすがに憎む気にはなれなかったのでしょう。娘と一緒に大切に世話をして、自分でも抱っこしたりあやしたり、時にはおもちゃの人形を持たせたりしていたそうです。
おじいさんが孫を可愛がるのは当然ですが、ここで驚くべきは、あのイルマン(修道士)のシメオンです。
悪魔さえも退治してしまいそうな大男のシメオンが、赤ん坊が生まれるとすぐに、暇さえあれば傘職人の家を訪ねてくるようになりました。そして、そのたくましい腕で幼子を抱き上げると、にがにがしい顔に涙を浮かべながら、かつて弟のように愛したロレンゾの優しかった姿を、懐かしく思い慕っていたといいます。
ただ、娘だけは「サンタ・ルチア」を追い出されて以来、ロレンゾが一度も姿を見せないことを恨めしく思い、悲しんでいたため、シメオンが訪ねてくることさえ、どこか面白くない様子でした。
この国のことわざにある通り、「月日に休みなし」と言われるように、あっという間に一年以上の月日が過ぎ去りました。
そんなある日のこと、予想もしなかった大事件が起きました。夜のうちに長崎の町の半分を焼き払ってしまうほどの、あの大火事です。
その時の光景の凄まじさといったら、まるで最後の審判を告げるラッパの音が、空を焦がす炎の光を切り裂いて鳴り響いたかと思うほど、身の毛もよだつような地獄絵図でした。
その時、傘職人のおじいさんの家は、運悪く風下にあったため、見る間に炎に包まれてしまいました。慌てふためいて親子や親族が逃げ出した時、大変なことが発覚しました。娘が産んだ女の子の姿が見当たらないのです。
きっと、寝室に寝かせたまま、忘れて逃げ出してしまったのでしょう。
おじいさんは地団駄を踏んで泣きわめきます。
娘もまた、誰かに止められなければ、火の中へ飛び込んででも助けようとする勢いでした。
しかし、風はますます激しくなり、炎の舌は天の星までも焼き尽くさんばかりに燃え盛っています。
そのため、火を消そうと集まった町の人々も、ただ「ああ、どうしよう」と立ち騒ぐばかりで、狂ったように泣き叫ぶ娘をなだめることしかできませんでした。
そこへ一人、人混みを押し分けて駆けつけてきた人物がいました。あのイルマンのシメオンです。
彼は修羅場をくぐり抜けてきたようなたくましい男ですから、状況を見るやいなや勇んで炎の中へ向かいましたが、あまりの火の勢いに足がすくんでしまったのでしょう。
二、三度煙の中へ入ったかと思うと、すぐに引き返して、一目散に逃げ出してきました。
そして、おじいさんと娘が立ち尽くす前へ来ると、「これも神さまが万事を決めておられるお計らいの一つだ。どうしようもないことだとあきらめなさい」と言いました。
その時、おじいさんのそばから、誰とも知れず高らかに「主よ、お助けください!」と叫ぶ声が聞こえました。
聞き覚えのある声だったので、シメオンが振り返ってその声の主をじっと見ると、なんとそこには間違いなくロレンゾがいたのです。
清らかに痩せ細った顔は、火の光に赤く輝き、風に乱れる黒髪も肩にかかるほど伸びていましたが、その哀れで美しい顔立ちは、一目見ればすぐに分かりました。
そのロレンゾが、乞食の姿のまま、群がる人々の前に立って、じっと燃え盛る家を見つめていたのです。
……そう思ったのも束の間でした。
激しい炎をあおるように恐ろしい風が吹き抜けたかと思うと、ロレンゾの姿はまっしぐらに、火の柱、火の壁、火の梁の中へと飛び込んでいったのです。
シメオンは思わず全身から汗を流し、空高く十字を切りながら、自分自身も「主よ、お助けください!」と叫びました。その時、なぜか彼の心の目には、冬の冷たい風に揺れる太陽の光を浴びながら、「サンタ・ルチア」の門に立ち尽くしていた、あの美しく悲しげなロレンゾの姿が浮かんだといいます。
しかし、周りにいた信者たちは、ロレンゾの勇気ある行動に驚きながらも、彼の昔の「破門」という出来事を忘れられなかったのでしょう。
あれこれと批判する声が、風に乗って人々のざわめきの上を渡ってきました。
それは、「さすが親子の情愛は争えないものだ。自分の罪を恥じて、この辺りには影も見せなかったロレンゾが、今さら一人子の命を救おうとして火の中へ飛び込んだのだ」と、誰ともなく罵り合う声でした。
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