初級翻訳・怒りの虫 第5話

怒りの虫

彼は書斎へ上がってゆき、茶の間に下りてき、庭をぶらつき、それからまた酒を飲みだした。眉をひそめながら、黙々と飲んだ。女中を呼んで、すぐに風呂を沸かすように言いつけた。そして時折、小刻みに頭を震わせるのだった。八重子は怯えたように、彼の様子をひそかに見守るだけで、口を利くことができなかった。
彼はなんだか皮肉な笑みを浮かべて、八重子に言った。
「僕はやはり、お前を愛していたようだ。勘弁な。医者にもかかるよ。お前も医者にかかれ。胃袋の中の、ごっとんごっとんな」
彼はまた黙り込んで、酒を飲んだ。それから、少し気分が悪いから昼寝をすると言って、布団を敷かせた。
「風呂が沸いたら起こしてくれよ」
八重子はしばらくそばについていたが、寝息が聞こえてきたので、そっと部屋を出た。一時間ほど経った後、風呂が沸いたので、八重子は木山を起こしに行った。木山は布団から少し体を乗り出し、半分だけ目を開いたまま、片方の手を畳に投げ出した姿勢で、すでに息を引き取っていました。
あまりにも呆気ない最期でした。
医者の診断は、脳溢血ということでした。
後になって、八重子はこう言いました。
「怒りの虫に取りつかれたのだと言う人もいましたが、そうにしては、とても安らかな死に顔でした。」

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