初級翻訳・怪人二十面相 第31話

怪人二十面相

それから、きみの働きぶりを学校でみんなに話したら、ぼくと同じ考えのものが十人も集まっちゃったんです。それで、みんなで『少年探偵団』っていう会を作っているんです。むろん学校の勉強やなんかの邪魔にならないようにですよ。ぼくのお父さんも、学校さえ怠けなければ、まあいいって許してくださったんです。今日は日曜日でしょう。だもんだから、ぼくみんなを連れて、きみんちへお見舞いに来たんです。そしてね、みんなはね、きみの指図を受けて、ぼくたち少年探偵団の力で、明智先生の行方を探そうじゃないかって言ってるんです」
ひと息にそれだけ言ってしまうと、壮二君はかわいい目で、小林少年を射抜くようにして返事を待つのでした。
「ありがとう」
小林君は、なんだか涙が出そうになるのをやっと我慢して、ギュッと壮二君の手を握りました。
「きみたちのことを明智先生がお聞きになったら、どんなにお喜びになるかもしれないですよ。ええ、きみたちの探偵団でぼくを助けてください。みんなで何か手がかりを探し出しましょう。けれどね、きみたちはぼくとちがうんだから、危険なことはやらせませんよ。もしものことがあると、みんなのお父さんやお母さんに申し訳ないですからね。しかし、ぼくが今考えているのは、ちっとも危険のない探偵方法です。きみ、『聞き込み』っての知ってますか」いろんな人の話を順番に聞いてまわって、どんな小さなことでも見逃さずに、うまく手がかりをつかむという探偵のやり方だよ。
大人なんかよりも、子どもたちのほうがすばしっこいし、相手も子ども相手なら油断するから、きっとうまくいくはずさ。
それにはね、一昨日の晩、先生を連れ去った女の人の顔や服装、それから自動車が走っていった方角も分かっているんだから、その方角に向かって、ぼくたちが今の「聞き込み」をすればいいんだ。
お店の小僧さんでもいいし、ご用聞きの人でもいい、郵便配達の人だとか、その辺で遊んでいる子どもなんかも捕まえて、あきらめずに聞いてまわるんだよ。
ここから先は方角が分かっていても、先に行けば行くほど道が分かれていて、どこへ行ったか見当をつけるのは大変だけれど、人数が多いから大丈夫。
道が分かれるたびに、一人ずつその道へ行けばいいんだから。
そうして、今日一日聞き込みをすれば、ひょっとしたら何か手がかりが掴めるかもしれないよ。」

「ええ、そうしましょう!そんなこと、わけないですよ。」
「じゃあ、探偵団のみんなを門の中へ呼んでもいいかな?」
「ええ、どうぞ! ぼくも一緒に出ますよ。」

そして二人は、明智夫人の許可を得てからポーチに出ました。すると壮二君はいきなり門の外へ駆け出していったかと思うと、すぐに十人の探偵団員を引き連れて、門の中へ戻ってきました。
見ると、小学校の高学年くらいでしょうか、みんな健康で活発そうな少年たちでした。
小林君は、壮二君の紹介を受けて、ポーチの上からみんなに挨拶をしました。
そして、明智探偵を捜索するための手段について、細かく指示を与えました。
もちろん、みんな大賛成です。
「小林団長、ばんざーい!」
もうすっかり小林君を団長として慕い、うれしさのあまり、そんなふうに叫ぶ少年さえいました。
「じゃあ、これから出発しよう!」
こうして一同は少年団のように足並みをそろえて、明智邸の門の外へと消えていきました。

午後四時。
少年探偵団のけなげな捜索は、日曜、月曜、火曜、水曜と、学校の休み時間を利用して忍耐強く続けられましたが、いつまでたってもこれといった手がかりはつかめませんでした。
しかし、東京中の何千人という大人の警察官たちでさえどうすることもできないほどの難事件です。手がかりが得られなかったからといって、決して少年捜索隊の能力が低いせいではありません。それに、この勇ましい少年たちは、後日またどんな手柄を立てないとも限らないのです。

明智探偵が行方不明のまま、恐ろしい十二月十日は一日一日と迫ってきました。
警視庁の人たちは、もういてもたってもいられない気持ちです。なにしろ盗難を予告された品物が「国家の宝物」なのですから、捜査課長や、直接二十面相の事件に関わっている中村係長などは、心配のあまり痩せほそる思いでした。
ところが、その運命の日の二日前、十二月八日には、またまた世間を騒がせるような出来事が起こったのです。
というのは、その日の『東京毎日新聞』の社会面に、二十面相からの投書が堂々と掲載されたのでした。
東京毎日新聞は、別に賊の味方というわけではありませんが、この騒ぎの中心である二十面相本人からの投書とあっては、取り上げないわけにはいきません。ただちに編集会議まで開いて、結局、その全文を載せることにしたのです。
それは長い文章でしたが、意味をまとめるとこうです。

「わたしはかねてより博物館襲撃の日を十二月十日と予告しておいたが、もっと正確に約束するほうが男らしいと感じたので、ここに東京都民諸君の前でその時間を発表する。それは『十二月十日午後四時』である。博物館長も警視総監も、できる限りの警戒をしていただきたい。警戒が厳重であればあるほど、わたしの冒険はその輝きを増すであろう。」

ああ、なんということでしょう。日付を予告するだけでも驚くほど大胆なのに、そのうえ時間まではっきりと公表してしまったのです。さらに、博物館長や警視総監に対して失礼千万な注意まで与えています。
これを読んだ都民の驚きは言うまでもありません。今までは「そんな馬鹿なことがあるものか」と笑い飛ばしていた人々も、もう笑えなくなりました。当時の博物館長は史学界の大先輩である北小路文学博士でしたが、その偉い老学者でさえ賊の予告を本気にしないわけにはいかなくなり、わざわざ警視庁へ出向いて、警戒方法について警視総監とあれこれ打ち合わせをしました。
いや、そればかりではありません。二十面相のことは、国務大臣たちが集まる閣議の話題にさえ上ったのです。中でも総理大臣や法務大臣などは、心配のあまり、警視総監を別室に招いて、励ましの言葉をかけたほどでした。
そして、全都民の不安をよそに、時間はむなしく過ぎ去り、ついに十二月十日を迎えました。
国立博物館では、その日の早朝から、館長の北小路老博士をはじめとして、三人の係長、十人の書記、十六人の守衛や小使いまで、一人残らず出勤して、それぞれの持ち場で警戒にあたりました。
もちろん当日は表門を閉ざし、観覧は禁止です。
警視庁からは、中村捜査係長がひきいる選りすぐりの警官隊五十人が出動して、博物館の表門、裏門、塀のまわり、そして館内の要所要所にまで陣取り、アリ一匹通さないほどの厳重な警戒態勢を敷きました。
午後三時半。約束の時刻まで、残すところあとわずか三十分となり、警戒陣の空気はものものしく、殺気立ってきました。
そこへ警視庁の大型自動車が到着し、警視総監が刑事部長を連れて現れました。
総監は心配のあまり、もうじっとしていられなくなったのです。
自分の目で博物館を見守っていなければ、気が済まなかったのでしょう。
総監たちは一同の警戒ぶりを視察したあと、館長室に通って北小路博士と面会しました。
「わざわざ、あなたがお出かけくださるとは思いませんでした。恐縮です。

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