「大事なことを言い残したから!」
これは確かに有望だと思い、愛ちゃんは振り返って再び戻ってきました。
「そんなに怒るものじゃない」とイモムシが言いました。
「それだけ?」と愛ちゃんはグッと怒りを飲み込んで言いました。
「いいや」とイモムシ。
愛ちゃんは他に別段用事もなかったので、最後には何か良いことを話してくれるだろうと思い、大人しく待っていました。
しばらくの間、イモムシは何も話さずにタバコの煙を吹いていましたが、ようやく腕組みを解いて、再び口からキセルを離すとこう言いました。
「それでも、自分は変わったと思えるのかい?」
「そうらしいのよ」と愛ちゃんは言いました。「でも、すっかり習慣になってしまって、自分がどうだったか思い出せないわ。だって、十分間も同じ大きさでいられないのですもの」
「思い出せないって、何を?」とイモムシが言いました。
「私、『小さな蜜蜂』の歌を言ってみたの。でも、全部違ってしまったのよ!」と愛ちゃんはとても悲しそうな声で答えました。
「『裏の老爺(おじい)さん』を復唱してごらん」とイモムシが言いました。
愛ちゃんは両手を広げて、歌い始めました。
――
若い男の言うことにゃ、
『裏の老爺さん、白髪になった、
それでも、頭で立ってはいるが――
幾つになったか覚えているか?』
裏の老爺さんの言うことにゃ、
『若い時分には一生懸命、
脳みそ痛める算段ばかり、
こうして平気なのも、それがため』
若い男の言うことにゃ、
『老爺さん、この頃バカげて肥えた、
それでも、無茶に、戸板の上で、
筋斗(きんと)返りするとはどうしたわけだ?』
白髪頭を振り立てて、
裏の老爺さんの言うことにゃ、
『手足へ貼っておいた膏薬(こうやく)のせいで――
一銭で一箱――二箱売ろうか?』
若い男の言うことにゃ、
『蝋(ろう)より軟らかい体をしてて、
骨から嘴(くちばし)から、すっかり揃った――
そんなガチョウはどうして造った?』
裏の老爺さんの言うことにゃ、
『これでも若い時は、芝原へ出かけ、
たまには、女房と相撲をとった、
腕の力が今なおあれば』
若い男の言うことにゃ、
『年齢の加減で目は霞んでも、
鼻筋で鰻(うなぎ)の芸当――
感心するほど、上手な技量』
裏の老爺さんの言うことにゃ、
『これで、三つの問答が終わった、
文句を言わずに、さっさと帰れ、
帰らないなら、蹴るぞよ、梯子段(はしごだん)の下へ!』
――
「それは間違っている」とイモムシが言いました。
「間違っているかもしれないわ」と愛ちゃんは恐る恐る言いました。「二言三言は変えてしまったもの」
「最初から最後まで間違っている」とイモムシが断言しました。
それから双方が口を閉じてしまったので、しばらくの間、森の中は静まり返りました。
やがてイモムシが尋ねました。
「どのくらい大きくなりたいんだい?」
「特別、そんなに大きくなりたくはないの」と愛ちゃんは忙しそうに答えました。「他の人もこんなに度々変わるのかしらね」
「知らないねえ」とイモムシ。
愛ちゃんは何とも言いませんでした。生まれてから今までにこんなに無愛想なことを言われたことがなかったので、とても面白くない気分でした。
「お前、それで満足かい?」とイモムシ。
「そうねえ、もう少し大きくなりたいの、知らず知らずのうちに」と愛ちゃんは言いました。「三寸ばかりじゃ見窄(みすぼ)らしくていけないわ」
「三寸だって結構なもんさ!」とイモムシは気短に言い、ツンと伸び上がると(それがちょうど三寸の高さでした)。
「そんな高さじゃ満足できないわ」と、哀れな愛ちゃんは痛ましげな声で呟いて、心の中で思いました。『どうにかして、イモムシを怒りっぽくさせない方法はないものかしら』
「そのうち習慣で、何ともなくなってしまうさ」とイモムシは言い、キセルを口にくわえて再び吸い始めました。今度も愛ちゃんは、イモムシがまた話し出すまでじっと辛抱強く待っていました。
しばらくしてイモムシは口からキセルを離し、二、三回あくびをして身震いをしたかと思うと、やがてキノコの下の草むらの中へ這い込んでいきました。ただ、こう言い残して――「一方をかじれば、もっと高くなる。もう一方をかじれば、ずっと短くなるよ」
「一方って何の? もう一方って何方(どっち)?」と愛ちゃんは考えました。
「キノコのさ」とイモムシは、まるで愛ちゃんに聞かれたかのように大きな声で言うと、すぐに見えなくなってしまいました。
愛ちゃんはしばらくその場に立ち止まり、どちらがどっちなのかを知ろうとして、一心にキノコを眺めて考え込みました。キノコはきれいな円形をしていたので、これはなかなか厄介な問題だと思いました。
やがて愛ちゃんは、できるだけ精一杯両腕を伸ばして、キノコの端を一片ずつちぎり取りました。
「さあ、どっちがどっち?」とつぶやいて、効果を試すために右手に持った一片を少し舐めてみました。すると愛ちゃんは、いきなり顎の下を強く打たれたことに気づきました。ふと見ると、顎が足にぶつかってくっついていたのです。
愛ちゃんはこの急激な変化にひどく驚かされました。迷っている場合ではないと知って、すぐに左手に持った一片を食べようとしましたが、顎が足にぴったりとくっついてしまっていたので、ほとんど口を開くこともできませんでした。それでもなんとか、左手の一片を少しだけ飲み込みました。
……
「オヤ、私の頭はどこかへ行っちゃったわ!」愛ちゃんは飛び上がって喜びましたが、その喜びはすぐに驚きへと変わりました。自分の肩がどこにも見当たらなくなったことに気づいてあちこち探し回ると、下の方に、驚くほど長く伸びた首が見えました。まるで、はるか眼下に広がる深緑の木の葉の海から突き出ている茎のように見えました。
「あの緑の織物は一体なんなのかしら?」と愛ちゃんは言いました。「私の肩はどこへ行っちゃったの? オヤ、かわいそうに、どうしたのかしら、私の手も見えないわ!」愛ちゃんはそう言いながら手を振ってみましたが、別に変わったことはなく、ただ遠くの緑の葉っぱの中で、それが少しだけ動いているのが見えるだけでした。
頭のほうへ手を上げることはとてもできそうになかったので、愛ちゃんは頭を下げて手に届かせようとしました。すると今度は、自分の首が蛇のように自由自在に曲がり回るのを見て、とても嬉しくなりました。
愛ちゃんは柔らかい木の梢を押し分けて、首を突っ込み、半円を描きながら器用に青葉の中に隠れようとしました。愛ちゃんはそれまで、木の葉というのは木の一番高いところにしかないものだと思い込んでいたのです。
すると、「蛇だ!」という叱りつけるような声がどこからともなく聞こえてきたので、愛ちゃんは思わず後ずさりしました。一羽の大きな鳩が顔に飛びついてきて、翼で激しく愛ちゃんを叩きました。
「蛇だ!」と鳩が叫びました。
「蛇じゃないわ!」と愛ちゃんは腹立たしげに言い返しました。「大きなお世話よ!」
「なに、蛇だ、蛇だ!」と鳩は繰り返しましたが、以前よりもずっと優しく、それどころかかわいそうに、しくしくと泣き出しました。
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