初級翻訳・手なしむすめ 第2話

グリム ヴィルヘルム・カール

王さまは坊さんをひとり連れてきました。この人は幽霊に話しかける役だったのです。三人は木の下に腰を下ろして、気をつけていました。真夜中ごろに、娘がやぶから這い出してきて、木のところへ行って、ゆうべと同じように口でナシをひとつ食べました。娘のそばには、天使が白い着物を着て立っていました。そのとき、坊さんが進み出て言いました。

「おまえは神さまのところからきたのか。それとも、人間の世の中からきたのか。おまえは幽霊なのか、人間なのか」

すると、娘は答えて言いました。
「あたくしは幽霊ではございません。神さまのほかは、みんなから見捨てられているあわれな人間でございます」

王さまは言いました。
「たとえ、おまえが世界じゅうのものから見捨てられていても、わしは、おまえを見捨てはしないぞ」

王さまは娘を自分のお城に連れていきました。たいそう美しく、信心深い娘でしたので、王さまは心の底からこの娘が好きになりました。そして、娘に銀の手をこしらえてやって、自分のお妃さまにしました。それから一年たったとき、王さまは戦争に行かなければならなくなりました。そこで、王さまはおかあさまに若いお妃さまのことを頼んで、こう言いました。
「妃がお産の床につきましたら、どうかくれぐれもいたわってやってください。そして、すぐにわたしに手紙をくださいませ」

やがて、お妃さまは美しい男の子を生みました。そこで、年をとったおかあさまは、いそいでそのことを手紙に書いて、うれしい知らせを王さまにおくりました。ところが、その使いのものが、とちゅうでとある小川の岸でやすみました。長い道のりを歩いて、くたびれきっていたものですから、使いのものはぐっすりねこんでしまったのです。

するとそこへ、あの悪魔がやってきました。こいつは、信心ぶかいお妃さまをひどい目にあわせてやろうと、そのことばかり考えていたのです。そこで、さっそく使いのもっている手紙をべつのものとすりかえて、それには、お妃さまがみにくい子を生んだと書いておきました。

王さまはその手紙を読みますと、びっくりして、たいそうかなしみました。けれども、じぶんがかえるまで、お妃さまをだいじにいたわってやってもらいたい、とへんじの手紙を書きました。使いのものはその手紙をもってひきかえしましたが、まえとおなじ場所でやすみますと、またもそのままねこんでしまいました。そこへ、またも悪魔がやってきて、使いのポケットにべつの手紙をいれました。それには、お妃さまを子どももろとも殺してもらいたい、と書いてあったのです。

年よりのおかあさまは、この手紙をうけとって、ひどくびっくりしました。でも、どうしてもほんとうとは思えませんので、もういちど王さまに手紙を書きました。けれども、そのたびに、悪魔がにせの手紙とすりかえてしまいますので、くるへんじはいつもおんなじことばかりでした。しかもいちばんおしまいの手紙には、殺した証拠に、お妃さまの舌と目をとっておいてもらいたい、とさえ書いてあるではありませんか。

年よりのおかあさまは、なんの罪もないものの血をながせといわれたのをかなしんで、泣きました。そこで、夜になるのを待って、一ぴきのメジカをつれてこさせ、その舌と目とを切りとって、それをしまっておきました。それから、おかあさまはお妃さまにむかっていいました。
「わたしには、王さまのおっしゃるように、とてもあなたを殺させることはできません。でも、あなたもここに長くいるわけにはいきませんから、子どもをつれてひろい世のなかへでておいでなさい。そして、ここへは二度とかえってこないようになさい」

おかあさまは、お妃さまの背中に子どもをしばりつけてやりました。かわいそうに、お妃さまは、目をまっかに泣きはらして、たちさっていきました。お妃さまは、とあるうっそうとした大きな森のなかにはいりました。そこで、お妃さまは地面にひざまずいて、神さまにおいのりをしました。すると、神さまの天使があらわれて、お妃さまをある小さな家へつれていってくれました。みれば、その家には、「ここには、だれでもただで住めます」と、書いた小さな看板がかかっています。

そのとき、家のなかから、雪のように白いおとめがでてきて、
「よくいらっしゃいました、お妃さま」
と、いって、お妃さまを家のなかへ案内しました。おとめはひもをといて、お妃さまの背中から小さな男の子をおろしました。そして、お妃さまの乳房にあてがって、お乳をのませました。それがすむと、こんどは、すっかりしたくのできている美しい、小さな寝床に、男の子をねかせました。

そこで、かわいそうな女がたずねました。
「あたしがお妃だったことを、あなたはどうして知っていらっしゃるのですか」

すると、白いおとめはこたえていいました。
「あたしは天使です。あなたと、あなたのお子さまのお世話をするように、神さまからつかわされたのです」

こうして、お妃さまはこの家に七年のあいだいて、手あつい世話をうけました。そして、信心ぶかいおかげで、神さまのおめぐみによって、切りとられたお妃さまの手首が、もういちど、もとのようにはえたのです。

いっぽう、王さまはやっと戦場からかえってきました。そして、まっさきに、妻と子どもにあいたい、といいました。それをきいて、年よりのおかあさまは泣きだして、いいました。
「あなたは、なんというひどいひとでしょう。わたしに、なんの罪もないふたりの命をうばえと書いてよこすなんて、あんまりではありませんか」

そして、悪魔のすりかえた二通の手紙を王さまに見せて、なおもことばをつづけました。
「わたしは、あなたのいいつけどおりにしましたよ」
こういって、その証拠に舌と目玉をだして見せました。

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