「俺たちは、こっちから来たんだぞー!」
「それじゃあ、文化村の子どもなのかー? それとも違うのかー?」
「違うぞー! 俺たちは杉林の向こうから来たんだぞー! 仲間に入れてくれよ! 入れてくれないなら、帰っちゃうからな!」
「お前たちの大将はなんて名前なんだ? お前なのかー?」
「そうだ、俺だ! 俺は吉って言うんだ!」
「それだけかー?」
「本当は、坂本吉郎っていうんだ!」
「そうか! こっちの大将は俺だ! 好川松男っていうんだ! みんな仲間にしてやるから、こっちに降りてこいよ! その代わり、いじわるはナシだぞー!」
「よし、がってんだ! わかったぞ! みんな、続けー!」
吉は真っ先に原っぱへと降りていきました。
そして、すれ違う子ごとに、右手をピッと挙げて「しっけい(おじゃまします)」とあいさつをしました。
みんなも吉のあとに続いていきました。
3
二つのグループが一緒になってからは、いっそうにぎやかで、激しい戦争ごっこになりました。
どちらの組も「絶対に負けるもんか!」と思ったからです。
吉は背が高かったので、すぐに片方のチームの大将に選ばれました。けれど、吉の戦い方は、ずいぶんと変わったやり方でした。
吉は負けそうになると、すぐに味方を呼び集めて、木で作った鉄砲や刀をその場にポイッと放り出させました。
そして、みんなで肩や腕をがっちり組み合って、「ワッショイ、ワッショイ!」と敵の陣地へ突撃していき、置いてあるものをめちゃくちゃに踏み散らし、蹴っ飛ばしてしまったのです。
すると、相手の大将の松男は、「そんなの戦争ごっこじゃないやい!」と言って、怒り出しました。
「だって、これなら俺たちのお父さんだってやってるぞ」
吉はぷうっと頬をふくらませました。
「お前のお父さんは、何の仕事をしてるんだ?」
松男は怒って、おでこにススキの穂をくくりつけた顔で、吉をにらみつけました。
「俺のお父さんは工場で働く職人だ。労働者なんだよ」
「だから戦争ごっこを知らないんだな」松男はニヤニヤしながら言いました。「刀で斬られたら、みんな地面に転がって死んだ真似をしなきゃダメなんだぞ」
「だけど、プロレタリア(働く仲間たち)は、それくらいのケガで倒れちゃダメなんだって――死ぬまでは、何度だって起き上がって戦わなきゃダメなんだって、うちのお父さんは言ってるぞ」
「プロレタリアって、なんだい?」
松男はそんな言葉を聞いたことがなかったので、思わず興味をそそられて聞き返しました。
「プロレタリアっていうのは、貧しい人たちのことさ。ブルジョア(いばっている金持ち)じゃない人のことだよ。俺もお前たちも、みんなプロレタリアなんだ」
すると松男はぷっと頬をふくらませて、不満そうに言いました。
「だけど、うちの家は貧乏じゃないぞ。お金だってあるんだから」
吉は困ってしまいました。けれど、相手もそんなにきれいな着物や洋服を着ているわけではなかったので、こう言いました。
「だけど、大金持ちってわけじゃないだろ? すっごく大きなお屋敷に住んでるわけじゃないだろ?」
松男は黙って、目をパチパチさせました。
すると、一人の子がすみのほうから口を挟みました。
「松男くんのお父さんは大工さんだよ。めったに家にいないんだ。お母さんとお姉さんでニワトリを飼ってるんだよ。路地の入り口に『この奥にうみたて卵あります』って書いた看板が出てるもん」
それを聞いて、みんなドッと笑い出しました。
松男は恥ずかしくなって、その子に言い返しました。
「お前の家だってなんだよ! 巴焼き(今川焼きのようなお菓子)の店をやってるじゃないか。破れた障子に『ともえやき』って書いてあるんだぞ。みんなよく聞いてくれ、本当なんだからな!」
みんなはまたドッと笑い出しました。
すると、吉が言いました。
「だから、みんなプロレタリアなんだよ。俺たちはみんな同じプロレタリアで、仲間なんだ! だからみんなで仲良くして、いばっているブルジョアをやっつけるんだ!」
「異議なし!」
「賛成! 賛成!」
「万歳!」
「進め、進めー! みんな突撃だー!」
松男は、急に線路の土手を指さして、元気に号令をかけました。みんな小鳥のようにパッと飛び立って、ネズミみたいに土手を駆け登りました。
向こうから汽車がやってくるのが見えたからです。
「この汽車には、レーニンが乗っているんだぞ! いいかみんな、万歳を叫ぶんだ!」
今度は吉が号令をかけました。
子どもたちは線路の両側にずらりと並びました。
「みんな、着物の裾を直せ! たすきを外せ! 鼻水をすすり込め!」
汽車がすぐ目の前まで迫ってきました。
「万歳!」
「ばんざーい!」
「×××××(※当時のスローガン)ばんざーい!」
「プロレタリア(働く仲間たち)、ばんざーい!」
貨物列車は、まるでお疲れぎみの牛のように、黒くせり出したお腹をドカン、ドカンと左右に揺らしながら、子どもたちの前をのろのろと通り過ぎていきます。
ゴットン、ゴットンと鳴り響く箱もあれば、ギギギギと音を立てる箱もあり、ギッチャン、ギッチャンとリズムをとるように進む箱もありました。
「もうやめだ! 万歳はやめろ!」
汽車が向こうの方へ去っていったとき、松男が大きな声で言いました。
もう太陽は、杉林の向こう側へと沈みかけていました。
「今日はこれでおしまい!」
松男がみんなに向かって言いました。
それから吉のそばへやってきて、こう誘いました。
「君、明日も来ないかい?」
吉はちょっと考えてから答えました。
「明日より、日曜日に来るよ。朝からな」
「じゃあ、決まりだ!」
松男はすっとんきょうな声を張り上げました。
「それなら日曜日に、『文化村』を観に行こう。すぐ向こうの駅のそばにあるんだ。金持ちたちが住んでいる村だよ。俺たちはあそこの子どもたちに、汽車の窓からしょっちゅう唾を吐きかけられているんだ。あいつら、町の学校へ通っているらしいんだよ。だから、そいつらを見つけ出して、思いっきりひっぱたいてやりたいんだ。なあ、絶対に来てくれよ。それに、あの村はとってもキレイなんだ。本当に、びっくりするくらいキレイなんだからな!」
「よし、わかった。ブルジョア(いばっている金持ち)の村なんだな。いいぞ、一袋さげて行ってやるよ」
「何をさげてくるんだ?」
「どんぐりさ。どんぐりの爆弾だ!」
「やあ、爆弾か、すてきだ! そりゃあ面白いや。それから、みんなも一緒に来いよな。女の子も連れてきてくれ。大勢いたほうがいいからね」
「よし。きっと大勢連れてくるよ。そして――デモ(行進)だ! デモをやるんだ!」
空には、赤い靴のような形をした雲がふわふわと浮かんでいました。
子どもたちはその下を線路に沿って、西と東に別れてガヤガヤと帰っていきました。
4
日曜日は、朝からとてもいい天気でした。
杉林の上の方では、トンビがピーヒョロロと鳴きながら、静かな大空に「6」の字や「8」の字、「9」の字を描くようにゆったりと舞っていました。
吉に連れられた十七人の子どもたちは、みんな大はしゃぎで騒ぎながら、線路の土手を杉林の方へと進んでいきました。
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