あたりは静まり返り、人間たちは家の中でぐっすり眠っているので、まわりはまるで私一人の世界のようです。
私は、もうもとの家に戻りたいなんて気持ちは、ほんの少しもありませんでした。
でも、ときどき、優しかったお嬢さんのこと思い出すことはありました。
川にはどうして、こんなにたくさん水があるんだろうと不思議に思いました。
水がピチャピチャと音をたてています。
私も、「ほっ、ほっ」と鳴いてみました。
すると、思いがけないことに、川岸の茂みの中で何かがゴソゴソと動く音がしました。
私はアナグマだと思ったので、またパアッと飛び立って、船の屋根にとまりました。
足もとがユラユラと揺れるので、またそこから飛び立って地面に降りました。
すると今度は、私の家にいた猫とよく似た生き物が、サッと私に向かって飛びかかってきました。
まっしろな猫です。
私はびっくりしてサッと飛び立ち、小さな木の上へと逃げ込みました。
外の世界に出たのはよかったけれど、私は籠の中にいたときのように、のんびりと平和に眠ることができません。
それからというもの、私は苦しい旅ばかりを続けました。
けれど、私の羽はどんどん丈夫になり、心もだんだん元気になっていきました。
この森へやっとたどり着いたときには、私はもうかなりの年になっていました。
私は三年もの間旅を続けて、やっとのことで、この安心できる森にたどり着いたのです。
私は、この森が一番好きになりました。
食べるものも、欲張さえしなければ平和に手に入りますし、自由に歌もうたえます。なんて住み心地のいいところなんだろうと思っています。
私はまだ、あと一、二年は長生きできるでしょう。
森の神様に、私は心から感謝しているのでございます。
梟はそう言って、プキップキットとくちばしを鳴らしました。
初級翻訳・梟の大旅行 第2話
林 芙美子
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