何とも言えない気持ち――悲しみとも憂鬱ともつかない別れの感情が、この五十日間、一緒にあちこちを旅してきた二人の胸いっぱいに広がっていきました。
Sもさすがに船が出航するまでは、その場を離れることができませんでした。
ベルが鳴り、エンジンの音が響き出すと同時に船は少しずつ静かに動き出し、岩壁との距離が次第に広がっていきました。
すると、甲板と埠頭の間で悲しい別れの光景が繰り広げられ、帽子を振る人、ハンカチを振る人、無事を祈る声が一時あたりに満ちあふれました。
行く者は行かねばなりません。帰る者は帰らねばなりません。
Sもやけになったようにステッキを振り上げ、ヘルメット帽を振っていましたが、船が岩壁から斜めに離れていくと、散らばっていく群衆と一緒に、もう向こうの方へと歩き出していました。
あの白い大きなヘルメット帽も、人波の中に完全に見えなくなってしまいました。
Kはたまらなく寂しい気持ちになりましたが、次の瞬間には、Fの港の明かりが山の手から下町にかけて、海にチラチラと美しく映っているのが目に入りました。
彼はその別れの寂しさを、すぐに忘れることができました。
Kはほっと息をつきました。ようやく他人から離れて、自分のすべてを「あの人」の方へ向けることができる身になったのだ、と心の中で繰り返しました。
船の中はきれいで、そして明るい場所でした。派手な色のクッション、青や赤の傘をかぶった電気ランプ、椅子、テーブル。白い服を着たハイカラなボーイが通りかかるのを呼び止めて、ビールを一本持ってきてくれるよう頼みました。コップに注いでもらい、その液体が灯りに照らされて美しくキラキラと輝くのを眺めながら、ぐっと一杯あおったとき、今まさに人生の楽しさの真ん中にいるような気がして、何とも言えない喜びが強く込み上げてくるのを感じました。
彼はまた時計を出して見ました。
(もう、乗ったな……。確実だ。今が九時十分だから、ちょうど相模の海岸あたりを通っているはずだ――)そう思うと、片方の心は船に、もう片方の心は汽車に、こうして両方から刻一刻と互いに近づいていく様子が、まるで絵巻物のように鮮やかに浮かび上がってきました。
Kは今度は、向こうに着いたときに集まってくる新聞記者たちをどうやってかわそうか、などといろいろ考え始めました。
一時間ほど経つと、船はずっと沖に出たようで、船の横腹に当たる波の砕ける音が「ザ、ザ、ザ」と、すぐそばで聞くように激しく響いてきました。
船の揺れも急に強く激しいものになりました。乗客たちもそれぞれ自分の部屋に入ったようで、甲板に出ている人はもう一人か二人しかいませんでした。
そこで話し相手になっていた大連の有名な紳士も、「今夜は少し揺れますね!」と言って、急いで立ち上がり、自分の部屋へと入っていきました。
Kはなおも三十分以上そこにいましたが、船の揺れがますます激しく強くなるばかりなので、とうとう立ち上がって船室へと向かい、その下段のベッドに身を横たえました。
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