初級翻訳・火星探険 第3話

海野 十三

そして、もしアリゾナに鳥の羽を頭にさしたインディアンがいたら、ぜひ一枚その写真を撮ってきてほしいと頼んでありました。
みんなそれぞれにお願いごとをつけていて、サリーは縫い針を十本ほどくれて、「もしこの縫い針が余ったら、標本になる珍しいチョウチョをつかまえて、これで背中を刺して持って帰ってちょうだいね」と頼んでありました。
また、ジョンくんはドアのハンドルをくれて、「もし途中でギャングが出たら、これを背中に押しつけて『手を上げろ』って言えば、相手は降参するよ。そしたら、そのギャングが持っているピストルをもらってきてくれ」と、ずいぶん自分勝手なお願いが書いてありました。

そしてその翌日となり、二人は楽しい自動車旅行の二日目を迎えました。
天気は相変わらずの快晴で、朝からとても暑い日でした。
車に乗って走っていなければ、風もなくて参ってしまったことでしょう。
その日の午後四時ごろのこと、二人の乗った自動車が川沿いの田舎道を走っていると、うしろから警笛をうるさく鳴らしながら、だんだんこちらに追いついてくる自動車がありました。
あまりにしつこく警笛を鳴らすので、山木たちは自分たちの車を道の端の方へ寄り道させ、相手の車を先に追い越させることにしました。そのとき後ろを振り返ることができたらよかったのですが、なにせ大きな箱型の車ですし、バックミラーもついていなかったので、運転席からは後ろの様子が全く見えませんでした。
ところがそれから間もなく、その相手の車は山木たちの箱車をものすごい勢いで追い抜いていきました。
よく見るとそれは、二人乗りの小さなレース用自動車でした。
けれど、あちこちが破れていたりへこんでいたり、ペンキも剥がれ落ちていて、山木たちの車以上にボロボロの有様でした。
「あっ、あれに乗っているのはネッドだ! えっ、張も乗ってるぞ!」
「えっ、ネッドに張だって? ははあ、とうとう我慢できなくなって、後から追いかけてきたんだな。しょうがないやつらだなあ」
二人は驚くやら、少し嬉しくなるやらでした。
そして大きな声をあげて、後ろから張とネッドの名前を呼びました。
けれど張とネッドは、それが聞こえないのか、脇目もふらずに自動車にしがみつき、もの凄いスピードを出していました。
そして、後ろのマフラーからはやたらに煙を吐き出しているのでした。
「あっ、危ない!
カーブなのに、そのまままっすぐ走らせているぞ!
あっ、崖を飛び越えた……!」
崖の下からは、白い煙がもうもうと立ち上がりました。
しかし、張もネッドも崖の上へ這い上がってきません。
こっちの二人は、早く仲間を助けてあげようと、がたがた揺れる自動車のエンジンを全速力にして、その大事故の現場へと急ぎました。
そのとき、山木が突然叫びました。
「あっ、そうか!
張の占いがちゃんと言い当たったんだ!
僕たちが二日以内に遭うはずの苦労っていうのは、このことだったんだぜ!」
「とんでもない目にあうもんだな」
河合が舌打ちをしました。

**厄介な怪我人**

山木と河合の二人の少年は、箱車をカーブのところで止めると、急いで運転席から飛び降りました。
そして息をきらせながら、さっきレース用自動車が落ちていった崖の下を覗き込みました。
「うわあ、大変だ! 二人とも死んじゃってるぞ!」
「あっ、このままだと、二人の体まで燃え出しちゃうぞ! 早く下に降りて、火を消し止めよう!」
「とんでもないことになっちまったぞ……」
崖の下は川の一部でしたが、水のない河原で、青草が茂っていたのは何よりの幸いでした。
そのレース用自動車は、崖から落ちて何度もくるくるひっくり返りながら転がったらしく、もう少しで川の流れに飛び込みそうになりながら、タイヤを上にしてひっくり返っていました。
乗っていた二人の少年のうち、一人は崖のすぐ下に、もう一人はそこから十メートルも先に投げ出されていました。
山木と河合は、崖の斜面につかまりながら、ずるずると下に滑り降りました。
「やあ、やっぱりそうだ! ネッドだ!」
河合が、倒れている少年を抱き起こしてその顔を見て叫びました。
「ええっ、ネッドか!? かわいそうに、もう息をしていないのか?」
「ああ、息が止まっている……。もう死んじゃったんだよ、かわいそうに……」
山木と河合は、たまらなくなって、この黒人の友達の顔の上にポロポロと涙を落としました。
こんなことになると分かっていたなら、無理をしてでもネッドたちを箱自動車の後ろに乗せるか、別の車に引っ張らせて連れてくるんだったと後悔しました。
そのとき、ネッドの死体が大きなくしゃみをしました。
ネッドの死体が、山木と河合の腕の中でぶるぶるっと震えたのです。
山木と河合はびっくりして、ネッドの体をぽんと放り出しました。
「ああああっ! 僕はもう死んじゃったのかい!? あああっ、それは情けないよ!」
ネッドは変な震え声で叫びました。
そして目をぱちぱちとさせました。
山木と河合は、すぐに事情を察しました。
ネッドは死んでいなかったのです!
「ネッド、起きろ! 大丈夫だから起きろよ!」
「僕をコロラド大峡谷まで一緒に連れていってくれるかい? それを約束するなら、生き返ってやってもいいよ」
ネッドは、なんともきわどい駆け引きをしました。
山木と河合は思わず吹き出しました。
「生き返るのが嫌なら、そこでいつまでも死んでればいいさ!」
「それよりも、張の様子を見てやろうぜ」
「張も死んだふりをしてるんじゃないか?」
山木と河合は、張の方へ走り寄りました。
張は仰向けに手足を伸ばして倒れていました。
「あっ、血が出ている! これは本当に大変だぞ!」
「おい、張! しっかりするんだ!」
「龍王洞の仙人さま、死んじゃ損ですよ!」
ネッドもいつの間にかそばにやってきて、張少年に声をかけました。
「ううっ……痛い……」
みんなの呼ぶ声が届いたのか、張はうめき声をあげて顔をしかめました。
張も死んできたわけではありませんでした。三人の少年たちは安心し、少し元気を取り戻しました。
張の怪我をしているところを調べてみると、左の二の腕のあたりを何かでひどく切り裂かれていました。
傷は妙に長くて、長く見ているこっちが貧血を起こしそうなくらいでした。
河合は箱自動車の方へとって返し、救急袋を持ち戻ってきました。
そこでとりあえず張の腕を包帯で縛って止血を試みましたが、どうもうまくいかないらしく、せっかく巻いた包帯がすぐにまっ赤に染まってしまいました。
「ううっ、痛いよお、痛いよお……」
張は顔を真っ青にして痛みを訴えました。三人は困った顔をした。
ほんとうのお医者さまにみせる外ないのであろう。
三人は張をかつぎあげて、崖をよじのぼり、箱自動車のうしろをあけて、折りたたんだ天幕の上に張を寝かした。
傍にはネッドをつけ、山木と河合とは再び運転台に乗って道路を全速力で走り出した。
早くどこかの町へとびこんで、張をお医者さまにみせて手当をうけなければならない。
それから四キロばかり行った先に、小さな町があり、そして医院があった。
張をその中へかつぎこんで手当をうけた。
傷の中から硝子の破片が大小七つも出てきた。

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