初級翻訳・笑われそうな話 第2話

山本 周五郎

私は今回も友人たちに吹聴(ふいちょう)して回りました。
私は母から「念仏と食べ物は一口ずつでも(分け合え)」という教えを受けていたので、美味しいものは一口でも人と一緒に味わいたいという習性が身についています。そのため、珍しいものがあると、身近な人たちに配るか、言いふらさないと気が済まないのです。
マディラはヘルメスのときよりも好評で、すぐに二人の愛飲者ができました。
――これだけのものを作りながら、広告を見かけないのは控えめで素晴らしいと思いますが、まだあまり量産ができないらしく、いま手元にあるものを大切にしないと、あとがすぐに間に合わなくなるようです。
T酒造会社から一銭ももらっているわけではありませんが、私はワイン好きの皆さんにぜひおすすめします。
「だが」と、私は一応の疑問を抱くのです。
「この美味しさは自然のものだろうか。なにか人工的な操作が加えられたものではないだろうか」
ヘルメスの赤ワインは、ドミグラスソースを作るのに適しています。
しかし、私はこのマディラを料理には使わないことにしています。

「あまから」(昭和三十六年一月)

コメント

タイトルとURLをコピーしました