「好きなようにしなさい。でも、お母様の邪魔はしないでね。私はお昼ご飯は外で食べるつもりよ。今日のところは、お家のことなんて構っていられません。だってお休みなんですもの。本を読んだり、手紙を書いたり、お友達のところへ遊びに行ったりして過ごすわ」
いつも忙しく働いているお母様が、今日は朝からロッキングチェアに揺られながら、のんびりと本を読んでいるという不思議な光景。そして、いつもと違って冷たく突き放すようなその言葉に、ジョーは頭をひねりました。
「なんだか変だわ。どう考えてもおかしいわ……」
そう独り言を呟きながら階段を降りてくると、下からベスの悲しそうな泣き声が聞こえてきたのです。
慌てて行ってみると、なんと、鳥かごの中で飼っていたカナリアのピップが、冷たくなって死んでいました。
「全部、私のせいよ! ご飯もお水も、すっかりあげるのを忘れていたの!」
ベスは泣きじゃくりながら、カチカチに凍りついたように冷たくなったカナリアを手のひらに載せて、一生懸命に温めたりして看病しましたが、もう手遅れでした。
「お墓を作って、埋めてあげるわ。私、もう二度と小鳥なんて飼わない……」
ベスは、すっかり元気をなくして、深く落ち込んでしまいました。
「お葬式はお昼過ぎにして、みんなでお参りしましょうね」「さあ、もう泣かないで、この箱の中に優しく寝かせてあげてね」とジョーは言って、台所へと向かいました。でも、そこはもう手のつけようがないほどめちゃくちゃに散らかっていて、ストーブの火もすっかり消えてしまっていました。
ジョーはなんとか火を起こすと、お湯が沸くまでの時間を使って、大急ぎで市場へ買い出しに行くことにしました。
エビとアスパラガス、それにイチゴを2パック買って戻ってくると、ストーブの火はちゃんとパチパチと燃えていました。
ジョーはまず台所を片付け始めました。実は、お手伝いのハンナさんがパンを焼くためにお鍋に準備しておいた生地があったのですが、それをメグがこね直して、お鍋ごとストーブの上にのせたまま、客間で遊びに来ていたお友達のサリー・ガーディナーのおしゃべりの相手をしていたのです。
ジョーは客間にドタバタと飛び込んでいって言いました。
「ねえ! パンがお鍋の中でコロンと転がるようになったら、もう膨らんだってことなのかな?」
これを聞いてサリーは思わず吹き出してしまいましたが、メグはよく分からないまま、ただコクンとうなずくだけでした。
ジョーは急いで台所へ引き返し、なんだか酸っぱい匂いのするパンの生地を、そのままオーブンの中へと放り込みました。
その頃、お母様はみんながどんな風に過ごしているか、家の中をあきれながらもあちこちのぞいて回っていました。そして、かわいそうなカナリアのピップを箱に入れて、死に装束のお洋服を一生懸命に縫っているベスに、優しく慰めの言葉をかけると、そのままお出かけしてしまいました。
お母様がいなくなってしまうと、姉妹たちはなんだか心細くて、物足りない気持ちになりました。
するとそこへ、クロッカーさんというお客さんがやってきました。
この人は、痩せていて顔色の黄色い、独り身のおばさんでした。キョロキョロと家の中を眺め回しながら、「今日はお昼ご飯をごちそうになりたいわ」と言い出したのです。
姉妹たちはこのおばさんのことが苦手でしたが、お母様から「お年寄りだし、貧しくてお友達もいない人だから、親切にしてあげるのよ」といつも言われていました。
クロッカーさんは、あれこれと余計な質問をしてきたり、何にでもケチをつけて批判したり、知り合いのウワサ話ばかりをまくしたてました。
そんな中、この日の朝のジョーの大奮闘は、本当に目も当てられないほど大変なものでした。
ジョーが一生懸命にがんばった料理は、何から何まで大失敗に終わってしまったのです。アスパラガスは1時間も煮たのにまだカチカチに硬く、パンは真っ黒に焦げてしまいました。サラダのドレッシングはとても口に入れられるような味ではなく、エビの下処理には大苦戦し、ジャガイモは生煮えで芯が残ったまま。デザートの白いゼリーは、ダマができてブツブツだらけになってしまいました。
「はあ、もういいわ。缶詰のコンビーフと、パンにバターを塗ったものを食べてもらえばいいじゃない。だけど、朝からがんばったことが全部ムダになっちゃって、本当に悔しい!」
ジョーはいつもより30分遅れてお昼ご飯のベルを鳴らしました。でも、普段からお屋敷で美味しいごちそうを食べ慣れているローリーと、他人の失敗をほじくり返そうとする意地悪な目つきをし、それをあちこちに言いふらすおしゃべりな口を持ったクロッカーさんの前に、この大失敗の料理が並ぶのを見て、ジョーは顔が真っ赤になり、すっかり恥ずかしくなってしょんぼりと立ち尽くしてしまいました。
ああ、運ばれた料理は、みんながほんの少し口をつけただけで、そのまま残されていきました。
エイミーはおかしくてクスクスと笑い、メグは困り果てた顔をしています。クロッカーおばさんは不満そうに口をすぼめ、ローリーはなんとか場を盛り上げようと、一生懸命におしゃべりを続けてくれました。
ジョーが最後に望みをかけたのは、デザートのイチゴでした。
ガラスのお皿に真っ赤なイチゴが盛られていて、その上にはとっても美味しそうなクリームがたっぷりとかかっています。
ところが、それを一口食べたクロッカーさんは、ものすごい渋い顔をして、大慌てでお水をゴクゴクと飲み干しました。
ローリーは口を酸っぱそうにゆがめながらも、男らしくなんとか残さずに食べてくれました。
エイミーは「うっ」とむせ返り、ナプキンで口をしっかりと押さえながら、大慌てでテーブルから立ち去って行ってしまいました。
ジョーはガタガタと震えながら叫びました。
「えっ、一体どうしたっていうの!?」
「ジョー、あなたお砂糖の代わりに塩を入れちゃったのよ! それにクリームも酸っぱくて傷んでいるわ」と、メグが答えました。
ジョーは「ううっ……」と声を漏らし、がっくりと椅子に倒れ込みました。
けれども、必死に笑うのをこらえようとしながらも、おかしくておかしくてたまらないといった顔をしているローリーと目が合うと、ジョーは急にこの大失敗がものすごくおもしろく思えてきて、涙が出るほど大笑いし始めてしまいました。
すると、さっきまでブツブツ文句を言っていたクロッカーおばさんもつられて、みんなでいっしょにドッと笑い出し、この最悪だったはずのお食事会は、なんだかんだで明るく賑やかに終わったのでした。
「あーあ、私、もうお皿を片付ける元気が残ってないわ。だから、先にピップのお葬式をして、少し心を落ち着かせましょう」
みんながテーブルから立ち上がったとき、ジョーがそう言いました。
クロッカーおばさんは帰っていきました。きっと、このお昼ご飯の大失敗の話を、早く誰かにおしゃべりしたくてたまらなかったのでしょう。
残されたみんなは、悲しんでいるベスのために、ようやく気持ちを落ち着かせました。
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