「その中で、あなたが一番いじわるよ」とエミイがやり返し、石盤の上にこぼした涙で、間違いだらけの計算式を消してしまいました。
「ベス、このうるさい猫をあなぐらに放り込んでおかないと。水でおぼれさせてしまうわよ!」と、メグは自分の背中にかじりついた猫を離そうとしながら言いました。
ジョウは笑い、メグは叱り、ベスはあやまり、エミイは「十二の九倍」がいくつになるか分からなくて泣き出しました。
「さあ、静かにしておくれ。今朝早く出さなければならない手紙なのに、がやがやうるさくして、これでは書けやしないわ」とお母様が書き損じた手紙を消しながら言うと、ようやく少しだけ静まりました。
ハンナがやってきて、熱いパイを二つ置いて出ていきました。姉妹たちが通う道は遠くて寒く、三時前には帰れないので、これはお弁当代わりであり、また、手を温めるためのものでもありました。それで姉妹たちは、このパイのことを「マフ(手袋)」と呼んでいました。
「では、お母様、行ってまいります。今朝は私たちだだっ子でしたね。でも、天使になって帰ってきますから」
ジョウはそう言って、メグと一緒に家を出ました。町角で振り返ると、いつも窓辺でニッコリ笑っているお母様の顔が見え、それが二人の励みになるのでした。二人は今朝も振り返り、お母様の笑顔を見ると元気になろうと努め、しばらく一緒に歩いてから、それぞれの道へ分かれました。メグは保母の仕事へ、ジョウはマーチおばさんのところへ働きに行くのです。
お父様が不幸な友人を救おうとして財産を失くして以来、二人は少しでも家のためになりたくて働き始め、それからずっと働き続けているのです。メグの給料はわずかで、しかも毎日キング家で、年上の姉妹たちが贅沢をしているのを見るたび、誰よりも貧乏を辛く感じていました。
ジョウは足の悪いマーチおばさんの世話をしていますが、気短なおばさんと意外と気が合いました。それに、亡くなったおじさんの書庫が素晴らしく、おばさんが昼寝をしたり来客で忙しいときには、すぐに書庫へ入り込んで、詩や歴史、旅行記などに読みふけりました。それはいいのですが、思う存分駆け回ったり、馬に乗ったりできないのがジョウの悩みの種でした。
ベスははにかみ屋で、学校へも行けないほどでした。お父様が勉強を見てくれていましたが、出征してしまってからはお母様が、そしてお母様が軍人後援会へ行くようになってからは、ひとりで勉強しています。性格は勤勉で家事が好きで、ハンナを助けて家をきれいにしてくれますが、まだ子供で、人形と遊ぶことが何よりの楽しみでした。けれど、このベスにも一つだけ苦になることがありました。それは、音楽が好きなのに良いピアノもなく、楽譜もないために音楽の勉強が思うようにできず、ときどき涙を流してしまうことでした。
エミイのつらいことは、鼻が美しくないことでした。エミイに言わせると、赤ん坊のときにジョウが手を滑らせて炭取りの中に落としたためだそうです。エミイは絵が上手で、花を写生したり空想的な絵を描いたりします。それに十曲以上の曲を弾くこともでき、フランス語も読めるので、その素直でおとなしい性格から、みんなから可愛がられていました。さて、その日の晩、みんなで一緒に裁縫を始めたとき、メグが言いました。
「今日は本当に、なんだか嫌なことばかりの日だったわね。何か面白いお話はない?」
すると、ジョウがすぐにこう言いました。
「あたし、今日変なことがあったのよ。マーチおばさんがお昼寝を始めたから、おばさんが『読みなさい』って言いつけていた、つまらないベルシャムの本を読み始めたの。でも、読んでいたらこっちまで眠くなって、大きなあくびをしちゃったのよ。そうしたらおばさんが目を覚まして、罪について長々とお説教を始めたわ。お説教が終わると『よく考えなさい』と言って、またいねむりを始めたの。そこであたしは、『村牧師』の本を出して読み始めたのよ。そしたら、登場人物が水の中に転げ込む場面があって、つい大声で笑っちゃったの。すると、おばさんが目を覚まして『その本を読んで聞かせなさい』っておっしゃるのよ。だから読んであげたわ。おばさんも面白かったみたいね。だから、お昼過ぎにあたしが手袋を取りに行ったら、なんと、おばさんが自分で『村牧師』を熱心に読んでいるのよ。ねえ、やっぱりベルシャムなんかよりずっと面白いのよね。おばさんみたいな金持ちだって、貧乏人と同じような心配事があるんだわ。だから『村牧師』に引きつけられるのね」
すると、メグが言いました。
「それなら、あたしも話すことを思いついたわ。今日キングさんのところへ行ったら、なんだか家の中が変なのよ。それで一人の子に尋ねてみたら、一番上のお兄さんが何か大変なことをして、お父さんから家を追い出されたんですって。泣き声や怒鳴り声が聞こえてきて大変だったわ。家のみんなの恥になるような、乱暴な男の兄弟がいなくて本当によかったわねえ」
すると、エミイが言いました。
「今日、スージーさんが先生の似顔絵を描いたので、三十分も教壇の上に立たされていたわ。あたし、スージーさんがきれいなめのうの指輪をはめて学校に来たから、いいなあってうらやましく思っていたけれど、あんなはずかしい目にあうくらいなら、いい指輪をはめていても幸せじゃないわね」
次に、ベスが話しました。
「今朝、あたしハンナの代わりに魚屋へ牡蠣を買いに行ったの。そうしたら、貧乏そうな女の人がやってきて『仕事がなくて子供たちに食べさせるものがないから、何か掃除でもさせて、お魚を少し分けてくれませんか』って頼んでいたの。でも、魚屋さんは忙しいものだから、つっけんどんに『だめだよ』って言ったのよ。そうしたらその時、ローレンスさんが、しょんぼりと帰っていくその女の人に、大きな魚をステッキでひっかけて渡してあげたの。女の人はびっくりして、喜んで何度も何度も頭を下げて、ローレンスさんが天国へ行けるようにって祈っていたわ」
みんなはベスの話を笑いましたが、もちろん心は深く打たれました。そして、お母様にお話をねだりました。
「そうね。お母さんは今日、軍人後援会で青いネルを裁っていたとき、お父様のことが急に心配になって、もしものことがあったらどんなに頼りなく、寂しいだろうと考えていたの。そうしたら、注文を持ってあるおじいさんが、心配そうで、とても疲れた様子でやって来ました。身の上を尋ねてみたら、四人の息子さんが戦争に行っていて、二人は戦死し、一人は捕虜になり、一人はワシントン病院にいるんですって。そして、これからそこへ会いに行くところだと言うの。それなのに、そのおじいさんは少しも愚痴をこぼさず、喜んでお国のために子供たちを送り出した、とおっしゃるのよ。お母さんは、たった一人お父様を出しただけで、こんなに辛がっていた自分が恥ずかしくなりました。そればかりか、そのおじいさんはたった一人ぼっちだけれど、お母さんには四人も娘がいて、こうして慰めてくれる。
コメント