それから、ハチドリたちはだんだんとゆっくり飛ぶようになって、
「ザッザザ、ザザァザ、ザザァザザザァ、
やむならやめやめ、お天気雨!
空はみがいたターコイズ(トルコ石)!」
と歌うと、雨はぴたりとやみました。
最後のおしまいの二粒ほどのダイヤモンドが、ピカピカにみがかれたターコイズ色の空から、キラキラッっと光って落ちてきました。
「ねえ、このリンドウの花はお父様のところにある一番上等なグラスよりも綺麗だね。
トパーズがいっぱいに盛りつけてあるよ」
「ええ、とても見事です」
「うん。
ぼく、このトパーズをハンカチにいっぱい包んで持っていこうかな。
だけど、トパーズよりはダイヤモンドの方がいいかなあ」
王子様はハンカチを出して広げましたが、あまりにもあたり一面がキラキラと輝いているので、なんだか拾うのがバカバカしいような気がしてきました。
その時、風がふっと吹いてきて、リンドウの花はツァリンと体を折り曲げ、アマゾナイトでできた花のコップを下のほうへ向けました。ためこまれていたトパーズはツァラツァランとこぼれ落ち、下にあるスズランの葉っぱに当たって、それからキラキラと転がりながら草の奥深くへと潜り込んでいきました。
リンドウの花はそれからギギンと音を立てて起きあがり、ほっとため息をついて歌いました。
「トパーズのつゆは ツァランツァリルリン、
こぼれてきらめく サング、サンガリン、
光の丘に 住みながら
なにがこんなに 悲しいのでしょう。」
真っ青な空では、ハチドリたちがツァリル、ツァリル、ツァリルリン、ツァリル、ツァリル、ツァリルリンと鳴きながら、二人とリンドウの花の頭の上をグルグルと飛びまわっていました。
「本当に、リンドウの花は何が悲しいんだろうね」
王子様はトパーズを包もうとして、一度広げたハンカチで顔の汗をふきながら言いました。
「さあ、私にはわかりません」
「わからないよねえ。
こんなに綺麗なんだもの。
ねえ、見てごらん、こっちのウメバチソウなんて、まるで虹みたいだよ。
むくむくと虹が湧き出しているみたいだ。
ああそうだ、ダイヤモンドのしずくが一粒入っているんだよ」
本当に、そのウメバチソウはぷりり、ぷりりと震えていたので、花の中にある一粒のダイヤモンドは、思わず声をあげて叫びたくなるほど橙色や緑色に美しく輝き、ウメバチソウの花びらにチカチカと映りこんで、言葉にならないほど見事でした。
その時、ちょうど風が吹いてきたので、ウメバチソウは体を少し折り曲げて、パラリとダイヤモンドのしずくをこぼしました。
しずくはチクチクッと最後の青い光を放ち、ジャスパーの葉っぱの奥底へと沈んでいきました。
ウメバチソウはブリリンと立ち起き上がり、もう一度サッサッと光りました。
ダイヤモンドの強い光の粉が、まだ花びらに残っていたからでしょうか。
そして空のハチドリたちの飛びまわる動きも鳴き叫ぶ声も、急に激しく激しくなっていったのでした。ウメバチソウは、まるで花びらもガクもどこかに飛ばしてしまうのではないかと思うほど、高く鋭い声で叫びました。
「きらめきのゆきき
ひかりのめぐみ
にじはゆらぎ
陽は織れど
かなし。
青ぞらはふるい
ひかりはくだけ
風のきしり
陽は織れど
かなし」
野バラの木が、赤い実から水晶のしずくをポトポトとこぼしながら、静かに歌いました。
「にじはなみだち
きらめきは織る
ひかりのおかの
このさびしさ。
こおりのそこの
めくらのさかな
ひかりのおかの
このさびしさ。
たそがれぐもの
さすらいの鳥
ひかりのおかの
このさびしさ」
このとき、光の丘はサラサラサラッと一面に気配が走り、草も花もみんな体をゆすったりかがめたりして、キラキラと宝石の露を振り払い、「ギギンザン、リン、ギギン!」と元気に起きあがりました。
そして、みんなで声をそろえて空高く叫びました。
「十力の金剛石はきょうも来ず
めぐみの宝石はきょうも降らず
十力の宝石の落ちざれば、
光の丘も まっくろのよる」
二人は腕を組んで棒のように立ったままでしたが、王子様はやっと気がついたように少し体をかがめ、
「ねえ、お前たちは何がそんなにかなしいの?」と、野バラの木にたずねました。
野バラは、赤い光の点々を王子様の顔に反射させながら言いました。
「今|言った通りです。
十力の金剛石が、まだ来ないのです」
王子様は、向こうのスズランの根もとからチクチクと突き刺してくる黄金色の光を、まぶしそうに手でさえぎりながら、
「十力の金剛石って、どんなものだい?」とたずねました。
野バラはうれしそうに体をゆすりました。
「十力の金剛石は、ただのダイヤモンドのようにチカチカとうるさく光ったりはしません」
碧玉(ジャスパー)のスズランが、百個の月が集まった晩のようにまぶしく光りながら、向こうから言いました。
「十力の金剛石は、きらめくときもあります。
かすかににごることもあります。
ほのかにうす暗く光る日もあります。
あるときは、まるで洞穴のように真っ暗です」
光が静かな天河石(アマゾナイト)のリンドウも、もうじっとしていられず踊りださずにはいられないといった様子で、「サァン、ツァン、サァン、ツァン」と体を動かしてリズムを取りながら言いました。
「その十力の金剛石は、春の風よりもやわらかく、ある時はまるく、ある時は卵の形をしています。
霧よりも小さな粒にもなれば、空と大地をすっぽりと埋め尽くすこともあります」
お昼の笑いのような虹をあげて、ウメばちそうが言えました。
「それはたちまち百千の粒に分かれ、また集まって一つにもなります」
ハチドリたちの飛びまわるスピードはあまりにも速すぎて、ただ「ルルルルルル」と鳴り響く、ぼんやりとした青い光の輪にしか見えませんでした。
野バラがあまりにも気を高ぶらせて、カチカチと音を立てながら叫びました。
「十力の大宝珠は、ある時は黒い馬小屋のしめった泥の中に埋もれます。
それから、木や草の体の中で月のような色にふるえ、青白いかすかな脈を打ちます。
それから、人間の子供たちのリンゴのようなほっぺたを輝かせるのです」
そして、みんながいっしょになって叫びました。
「十力の金剛石は今日も来ない。
その十力の金剛石はまだ降らない。
おお、天地をみたす十力のめぐみよ、
どうか私たちのところへ降ってきてください」
そのとき、突然ハチドリが「キイーン!」と、背中の鋼鉄の骨もはじけてしまったのではないかと思うほどの、鋭い叫び声をあげました。
びっくりしてそちらを見ると、空がまるで生き返ったように新しく輝き、ハチドリたちはまっすぐに二人の帽子めがけて降りてきました。
ハチドリたちのあとを追うように、二粒の宝石がスッと光って二人の青い帽子に落ち、それから花の間にポトリと落ちました。
「来た、来たぞ!
ああ、とうとう来たんだ!
十力の金剛石が、とうとう降ってきたぞ!」
花たちは、まるで今にも飛び立ってしまいそうなほど輝きながら叫びました。
木も草も花も青空も、みんなそろって声を合わせ、一斉に高く歌いあげました。
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