初級翻訳・赤いえり巻き 第2話

小川 未明

」
と、しっかり顔をあげて答えました。
「とんびが? あの赤いえり巻きをさらっていったっていうのかい?」
奥さまは思わず笑われました。
「はい、昨日の昼ごろ、さらっていっちゃったんです。」
みんなは顔を見合わせて笑いました。
「本当かい?」
「嘘なんじゃないの……。
赤いえり巻きがいやになったから、どこかに捨ててしまったんだろう……。」
「いいえ、本当です!」とお花は答えました。
田舎のお姉さんが一生懸命買ってくれた大切なものを、たとえ自分で捨てたのだとしても、素直に「捨てました」とは言えなかったのです。
とんびはよく物をさらっていく鳥でした。
だから、「とんびがさらっていった」と言えば、だれもが「それならしかたないね」と思ってくれると思ったからでした。
子どもたちだけは、お花の言ったことを本当だと信じました。
そして大人たちは、お花らしい可愛い嘘をついたものだなと言って、笑ったのでした。
*   *   *   *   *
ちょうど東京に来て二年目の春のことです。
お花のお姉さんが病気になってしまったため、お花は田舎へ帰ることになりました。
もうそのころには、お花にとって東京のほうが田舎よりも居心地がよくなっていたので、本当は帰りたくありませんでした。
「また都合がついて、東京に戻れるようになったらいつでもおいで。」
家の人々は、お花が帰ってしまうのをとても惜しんだのでした。
こうして彼女は、ふたたび田舎の人となってしまったのです。
その後、お花からの便りは届きません。
東京の夏の空に、赤い雲が旗のようにふわふわとただよっていると、
「あれはお花のえり巻きみたいな雲だね。」
と、坊ちゃんたちは空を見上げて言いました。
「本当に、とんびがさらっていって、どこかに捨ててきちゃったのかもしれないね。」
赤いえり巻きのような雲は、高い工場の煙突の上や、光る塔の上に、風に吹かれてゆらゆらとただよっていましたが、やがていつの間にか消えてしまいました。
こうして、今年の夏も静かに暮れていくのでした。
そして、北の方にある遠い田舎には、すでに秋がやってきていました。
冷たい木枯らしが、海の上を吹き、野原を吹き抜け、林を吹きわたります。
そのころになると、真っ赤なイスカという鳥がどこからか飛んできて、木の枝にとまって鳴くのでした。
もしこれを、お花が故郷の畑に出て見たならば、きっと自分のなくなったあの赤いえり巻きを思い出し、そして東京の坊ちゃんたちのことを懐かしく思い出したに違いありません。

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