初級翻訳・赤ずきん 第1話

グリム ヴィルヘルム・カール

むかしむかし、あるところに、とっても小さくてかわいらしい女の子がいました。
その子は、ちょっと見るだけで、どんな人でも大好きになってしまうような子でしたが、だれよりもいちばんその子をかわいがっていたのは、おばあさんでした。
おばあさんは、その子の顔を見るとなんでもしてあげたくなってしまい、いったいどうしたらいいのかわからなくなるほどでした。
あるとき、おばあさんはその子に、赤いビロードの布でかわいいずきんを作ってあげました。
すると、それがまた女の子に本当によく似合ったので、それからはもう、ほかの帽子はちっともかぶらなくなってしまいました。
それでみんなは、その子のことを「赤ずきんちゃん」「赤ずきんちゃん」と呼ぶようになったのです。
ある日、おおかあさんが赤ずきんちゃんを呼んで、こう言いました。
「赤ずきんちゃん、ちょっといらっしゃい。
ここにおいしいお菓子がひとつと、ブドウ酒がひとびんあるでしょう。
これをね、おばあさんのところへ持って行ってあげてちょうだい。
おばあさんは病気で弱っていらっしゃるけれど、こういうものを召し上がったら、きっと元気になるからね。
じゃあ、暑くならないうちに、いってらっしゃい。
それからね、外に出たら、お行儀よく歩いていくんだよ。
わき道に走り出したりしちゃいけないよ。
そんなことをしたら、ころんでびんを割ってしまって、おばあさんにあげるものが何もなくなってしまうからね。
それから、おばあさんのお部屋に入ったら、いちばんはじめに『おはようございます』ってごあいさつするのを忘れちゃダメだよ。
そうして、入っていきなり、そこらじゅうをキョロキョロ見回したりしちゃいけないからね。」
「わかった、だいじょうぶよ!」
と、赤ずきんちゃんはお母さんに言って、約束のしるしに指きりをしました。
さて、おばあさんのうちは、歩いて村から半時間もかかる森の中にありました。
赤ずきんちゃんが森の中へ入っていくと、ひょっこりとおおかみが現れました。
でも、赤ずきんちゃんは、おおかみが悪いケダモノだなんてことはちっとも知らなかったので、少しもこわいとは思いませんでした。
「こんにちは、赤ずきんちゃん」
とおおかみが言いました。
「こんにちは、おおかみさん」
「こんなに朝早くから、どこへいくの?」
「おばあさんのところよ」
「そのまえかけの下に持っているものは、なあに?」
「お菓子とブドウ酒よ。昨日、うちで焼いたんだ。おばあさんが病気で弱っているからね、これを食べると体に力がつくのよ」
「おばあさんのおうちはどこにあるの、赤ずきんちゃん?」
「もっともっと森の奥よ。まだ十五分くらいかかるわ。大きなおかしの木が三本立っている、その下におばあさんのおうちがあるの。まわりにはクルミの生け垣があるから、あなたなら知っているでしょう?」
と、赤ずきんちゃんは言いました。
おおかみは、おなかの中でこう考えました。
(若い、やわらかそうな小娘だぞ。こいつはあぶらがのっていてうまそうだ。ばあさんよりもずっとうまいにちがいない。よし、うまく工夫して、両方ともごちそうになってやれ!)
そこで、おおかみはしばらくの間、赤ずきんちゃんと並んで歩いていきましたが、やがてこう言いました。
「赤ずきんちゃん、まあ、そこらじゅうに咲いているきれいな花をごらんよ。どうしてまわりをながめてみないんだい? ほら、小鳥があんなにかわいい声で歌をうたっているぜ。だけど、それもきみの耳にはまるではいらないみたいじゃないか。きみは学校へでも行くように、まっすぐ前ばかり向いて歩いているね。森の中はこんなに楽しいところなのになあ!」
そう言われて、赤ずきんちゃんはパッと顔を上げました。
すると、お日さまの光が木と木のあいだからもれてきて、あっちでもこっちでも楽しそうにダンスをしています。
まわりを見渡すと、あたり一面きれいな花でいっぱいです。
それを見て、赤ずきんちゃんは思いました。
(おばあさんに、摘みたての花束を作って持って行ってあげたら、きっとすごく喜ぶわ! まだこんなに朝早いんだからだいじょうぶ、約束の時間までにはちゃんと着けるわ)
そして、赤ずきんちゃんはわき道にそれて、いろんな花をさがしながら森の奥へ入っていきました。
花をひとつ摘むたびに、「もっと先に行けば、もっときれいな花があるかもしれない」という気がして、どんどん進んでいきました。
こうして、花から花へとさがして歩いているうちに、だんだん森の奥へ奥へと迷い込んでしまったのです。
そのころ、おおかみの方はまっすぐおばあさんの家へ走っていって、トントンと戸をたたきました。
「どちらさまでしょう?」
「赤ずきんよ……」「おかしとブドウ酒をもってきたの。あけてちょうだい。」
「取っ手をおしておくれ。」
と、おばあさんが大きな声でいいました。
おおかみが取っ手をおしますと、戸がいきおいよくあきました。
おおかみはなんにもいわないで、いきなりおばあさんの寝床のところへいって、おばあさんをひと口にのみこんでしまいました。
それから、おばあさんの着物をきて、おばあさんのずきんをかぶって、おばあさんの寝床に横になって、寝床のまわりにあるカーテンをひいておきました。

いっぽう、赤ずきんちゃんは、あいかわらず花をさがして、かけまわっていました。
そして、あつめるだけあつめて、これいじょうもう一本ももてなくなったとき、やっとおばあさんのことを思いだしました。
そこで、いそいでおばあさんのところへいくことにしました。
赤ずきんちゃんが家のまえまできてみますと、おばあさんの家の戸があいています。
それで、赤ずきんちゃんはへんだと思いながら、おへやにはいりました。
すると、なんとなく、なかのようすがいつもとちがっているような気がします。
赤ずきんちゃんは、
(あら、どうしたんでしょう。きょうは、なんだかきみがわるいわ。いつもなら、おばあさんのおうちへくれば、とってもたのしいのに。)
と、思いました。
それから、大きな声で、
「おはようございます。」
と、よんでみましたが、なんのへんじもありません。
そこで、寝床のところへいって、カーテンをあけてみました。
すると、そこにはおばあさんが横になっていましたが、ずきんをすっぽりと顔までかぶっていて、いつもとちがった、へんなかっこうをしています。
「ああら、おばあさん、おばあさんのお耳は大きいのねえ。」
「おまえのいうことが、よくきこえるようにさ。」
「ああら、おばあさん、おばあさんのお目めは大きいのねえ。」
「おまえがよく見えるようにさ。」
「ああら、おばあさん、おばあさんのお手ては大きいのねえ。」
「おまえがよくつかめるようにさ。」
「でも、おばあさん、おばあさんのお口はこわいほど大きいのねえ。」
「おまえがよく食べられるようにさ。」
おおかみはこういいおわるかおわらないうちに、いきなり寝床からとびだして、かわいそうな赤ずきんちゃんを、ぱっくりとひとのみにしてしまいました。
おおかみは、おなかがいっぱいになりますと、また寝床にもぐりこんで、ねむってしまいました。
そうして、ものすごいいびきをかきだしました。

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