「坊ちゃん、去年の金魚は達者ですか?」と聞きました。
おじいさんは、この子供が、弱った金魚を大事に育てようといって、買ったことを忘れなかったのです。
「おじいさん、金魚は、みんなじょうぶで、大きくなりましたよ」と、少年は答えました。
「どれ、どれ、私に見せてください」といって、おじいさんは、山吹の花の咲いている庭さきへまわって、金魚のはいっている大きな鉢をのぞきました。
「よう、よう、大きくなった」といって、おじいさんは喜びました。
少年は、おじいさんから、二ひき金魚を買いました。
おじいさんは、別に一ぴきいい金魚をくれたのです。
「おじいさん、また来年こっちへくるの?」と、別れる時分に、少年が聞きました。
「坊ちゃん、達者でしたら、また、まいりますよ」と、おじいさんは、答えました。
けれどかならずくるとはいいませんでした。
おじいさんは、年を取ったから、もうこうして歩くのは難儀となって、静かに、故郷の圃(はたけ)でばらの花を造って暮らしたいと思っていたからであります。
――一九二七・三作――
初級翻訳・金魚売り 第2話
小川 未明
コメント