笑うたびにキラキラと輝く白い歯、丸くて小さな帽子の下で、すばしっこく動く目の素晴らしさ。
見ているうちに馬車はだんだんと近づいてきます。
そして、彼の立っているところから、一、二町(約100〜200メートル)の距離まで近づいたときのことです。
それまで横を向いてばかりいた豊は、素早く顔を向け直すやいなや、いきなり体を浮かすようにして、
「ホーレ!」
と一声叫ぶと、思い切った勢いで馬の背を叩きつけました。
不意を突かれた馬はたまりません。
土を蹴って飛び上がると、死に物狂いで走り出しました。
小石だらけの道を、弾みながら転がっていく車輪の響き。
馬具のガチャガチャという音。
火花が散るような蹄の音と、巻き上がる土煙の渦の中に飛んでいく騒音の塊の真ん中で、豊坊は得意の絶頂で飛んできます。
来る! 来る! 来る!! そして一瞬の間に、イレンカトムの目の前を通り過ぎてしまいました。
喉が詰まりそうな土煙の向こうへ、なおも飛んでいく豊坊の小さな帽子に向かって、イレンカトムは思わず、
「ウッウッーッ!」
と声を出しながら拳を握り、四股を踏みました。
それから、溶けてしまいそうなほど優しい目をして、ゆっくりと自分の長い髭をなで下ろしたのです。
そうして、当分の間はイレンカトムも、幸せな年寄りでした。
ほんの少しの間に、豊坊の身なりはめきめきと綺麗になっていき、馬の扱いもますます上手になっていきます。
体もぐんぐん大きくなり、どことなく大人びて成長した豊は、離れて暮らさなければならないイレンカトムの心にとって、唯一のアイドルでした。
実際、大胆で無知で、野生のままの少年は、その容姿や態度に、一種の魅力を持っていました。
確かに醜くはありません。
澄み渡った声で悪口を言いながら、ちょっと左の方へ歪める意地悪そうな真赤な唇。
いつもみんなをバカにするようにジロリと横目で見る大きな瞳。
それらは色彩の濃い、田舎のハイカラな洋服とぴたりと調和して、狭い御者台の上でパッと光っていたのです。
馬の扱いが上手になるにつれて、豊はタバコの吸い方や、酒の飲み方も覚えました。
いつの間にか、馬車賃をごまかすことも平気になり、イレンカトムが黒犬を相手に、ポツポツと種をまき、種を刈り入れている間に、豊の生活は彼の想像も及ばないほど変わっていきました。
昨日まで子供だった豊の目の前に急に展開された、さまざまな世界に対しても、彼はやはり「すかんぼう」を振り回して飛んでいったあの頃の息子のままです。
行ける場所へ大胆に、陽気に侵入していく彼の勇気を傷つけるものは何ひとつありません。
自分の行為を判断する道徳も、臆病さも持ち合わせていない彼にとって、煽動の神輿(みこし)に王様のように座りながら担ぎ回られることは、決してつまらないことではありませんでした。
社交辞令も上手になり、自分の容姿や腕前に法外な自信を持った十七歳の彼は、借金も自分の代わりに返してくれる者が控えているという心強さから、思う存分の放蕩(ほうとう)を尽くしたのです。豊は、時々主人のところへ行っては、「二、三十円ほど立て替えてくれないか」と頼みます。
主人の方も、イレンカトムが後ろにいるからと、何の疑いもなく貸してやるのでした。
すると豊はその金で、さっそく金の彫刻が入った指輪を買ってきては、「欲しいやつにはくれてやるぞ」と言いながら、女たちの真ん中に投げ込みます。
そして、女たちがキャアキャアと叫びながら、ひっかいたり転げ回ったりして奪い合う様子を、例の横目でジロリと眺めては、
「なんてざまだ! 馬鹿野郎ども、そんなに欲しいのか、ハハハハハハ」
と、いかにも気持ちよさそうに大笑いするのです。
今の彼は、もう黄棟樹(きはだ)の木で頭を叩いてもらっていた頃の豊坊ではありません。
気前が良くて、道楽三昧の、「稲田屋の豊さん」になり果ててしまったのです。
いくら三里も離れているとはいえ、まさかこの噂がイレンカトムの耳に入らないはずがありません。
豊に対するあらゆる非難の声は、すべて彼のところへ集まってくるのです。
けれども、イレンカトムは、かつて豊のことを「悪い奴だ」と言ったことは一度もなく、もちろん心の中で思ったこともありません。
彼はただ、「困ったものだ、早く目を覚ましてくれればいいのだが」とつぶやくばかりです。
また、実際イレンカトムは、周囲の人々が驚くほど楽観的でした。
「高慢ではあっても馬鹿ではない豊のことだ、遠からずそんなくだらない遊びには飽きるだろう。そうしたら、気に入った女房でももらってやれば、少しばかりの借金くらいは働いてすぐに返すに決まっている」
これがイレンカトムの考えでした。彼はそうなることが当たり前だと信じていたのです。
けれども、その年の末、豊の借金を返すために七頭もの大切な馬を手放さなければならなくなったときは、さすがのイレンカトムも、胸を痛めずにはいられませんでした。
それでも彼は、
「いい加減にしておくれよ、な、豊坊。俺も困るんだから……」
とだけ言ったのでした。
三
近所の人たちは皆、「あの年寄りはとんでもない若者を背負い込んでしまったものだ」と言います。
中には、「悪魔に取り憑かれたようにどうしようもない若者だ」と言う者もいます。
確かに、豊が褒められた若者ではないことは、イレンカトムもよく知っています。
どうしようもないとも思うし、困った奴だとも思います。
けれど、彼にはどうしても、それ以上に豊を憎むことができないのです。
いくら何を言われても、どんな悪さをしても、可愛いと思う気持ちにはこれっぽっちも変わりがありません。
どこがどう可愛いのかは自分でも分かりませんが、十人が十人とも口を揃えて悪口を言っている時でも、自分だけはなぜか余計に可愛く思えてくるのです。
血のつながりがあるわけでもない、この「ろくでなしの若者」が、どうしてこれほどまでに可愛いのか。それは周囲の人々にとっての不思議であると同時に、イレンカトム自身にとっても、確かに一つの神秘でした。
ときどき、彼は自分と豊との間に流れる不思議な縁について考えずにはいられません。
心配と損失ばかりを繰り返しながら、それでも消すことのできないこの不思議な愛情について、思いを巡らせずにはいられないのです。
「どうしてこんなに、豊坊は可愛いんだろうか……?」
彼は考え始めます。
けれども、彼の思索は決して理論的なものでも、科学的なものでもありません。
祖先から受け継いできた空想の世界が、豊と自分とを二つの中心にして、不思議な力で動き出すのです。
豊という名を思うたびに、イレンカトムの心には必ず、もう一つの名前が浮かび上がってきます。
それは、早くに亡くなった妻のペケレマット(「照り輝く女」という意味)です。
死ぬときまで、子供がいないことを嘆きながら旅立ったペケレマット……。彼は、彼女と豊との間には、自分の力では計り知れない何か深い関係があるように思えてくるのです。
もしかすると、豊は彼女から生まれるはずだったのに、彼女が早く死んでしまったために、別の女性の腹を借りて自分のところへやってきたのではないだろうか。
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