「やっぱり、ほかの場所へかくしたんだな。それでなければ、入口にかぎもかけないでおくはずがない。」
小林君はそう思って、ルミちゃんをさがすのはあきらめましたが、このまま立ちさる気はありません。
怪老人がいつ帰ってくるか、わからないのですから、どこかにかくれていて、老人の正体を見きわめてやろうと考えています。
すると、そのとき、入口のほうでバタンという音がして、こつこつと廊下を歩く足音が聞こえてきました。
怪老人が帰ってきたのかもしれません。
小林君は、すばやくアトリエにかけこんで、さっきのよろいびつに近づくと、重いふたを持ちあげて、その中にうずくまり、じぶんでふたをしめました。
しかし、ピッタリしめてしまっては息ができませんので、手帳にはめてあった鉛筆を、ふたのあいだにはさんで、すこしすきまを作っておいたのです。
顔を横にすれば、そこから外をのぞくこともできます。
そうして、息をころして待っていますと、足音の主が、広間の中へはいってきました。
「電灯会社のやつ、いじの悪いまねをしやあがる。六ヵ月ぐらい料金がたまったって、なにも電灯線を切ってしまうことはないじゃないか。だが、電灯なんかつかなくても、おれはへいきだぞ。ほら、ここにちゃんと、ろうそくというものがある。これさえありゃ、べつに不自由はしないのさ。ウフフフ……。」
しわがれた老人の声です。
そして、シュッとマッチをする音がしたかと思うと、あかちゃけたろうそくの光が、よろいびつの中までさしこんできました。
小林君は、顔を横にして、すきまからのぞいてみました。
やっぱり白ひげの老人です。
それが、ろうそくを胸のへんで持っているので、下からの逆光線に照らされて、じつにものすごい顔に見えます。
やせこけたほお、高いワシ鼻、太いまゆ、ギョロリとした目、大きな口、長い白ひげ、モジャモジャのしらが頭……。
服は、古ぼけた黒い背広のようです。
箱の中の少女
そのうすきみのわるいじいさんは、高いワシ鼻を、しきりにくんくんいわせて、においをかいでいましたが、やがて大きな口で、にやりと笑いました。
「おやっ、へんだぞ。だれかここへはいってきたやつがあるな。くんくん……たしかにそうだ。おしろいのにおいがする。女だな。」
そういって、じろりと、よろいびつのほうを見ました。
少女にばけた小林君は、箱の中でギョッとして、首をちぢめました。
「さとられたかしら。でも、まさか、よろいびつの中とは気がつかないだろう。もうすこし、ようすをみてやろう。」
と、息をころしてのぞいていますと、怪老人はむこうへ歩いていって、道具箱をがたがたいわせていましたが、そこからなにかを取りだすと、またこちらへやってきました。
そして、大きな口をいっぱいにひらいて、いきなり笑いだすのでした。
「ワハハハ……うまいことを思いついたぞ。おれの知恵はどんなものだ! ワハハハ……さあ、しごとだ、おもしろいしごとをはじめるぞ。ワハハハ……。」
じいさんは、気ちがいのように笑っているのです。
笑うたびに大きな口がぱくぱく動いて、黄色い歯がむきだしになり、そのあいだから、どす黒い舌が、へらへらとのぞくのです。それが下のほうから、ろうそくの光に照らされるのですから、その気味わるさといったらありません。
「しごとをするといって、こいつは、いったい、どんなしごとをするんだろう。
のんきらしく、彫刻でもはじめるつもりだろうか?」
箱の中の小林君は、心の中でそんなことを考えながら、なおも見つめていますと、怪老人は、左手にろうそくを持ち、右手に大きな金づちをさげていることがわかりました。
老人は、背中をまるくして、まるでゴリラのようなかっこうで、よたよたと、こちらへ歩いていきましたが、よろいびつから二メートルほどのところへ近づくと、パッと、一とびによろいびつにとびかかり、その上に腰をおろしてしまいました。
「ワハハハ……しめたぞ。
おい、中にいるやつ、おれの声が聞こえるかね?
ワハハハ……おれが、よろいびつのすきまに気がつかないほど、のろまだと思っていたのかね? おれの目は、ネコの目だよ。
どんな小さなものでも、見のがしっこないのだ。
おれがしごとをするといったのを、聞いていたかね?
いったいなんのしごとだと思ったね? ワハハハ……それはね、釘と金づちのしごとさ。
つまり、きさまをいけどりにするしごとさ。
ほら、こうするのだ。
聞こえるかね? これは、釘をうす音だぜ。」
怪老人は、にくにくしくいいながら、よろいびつのふたに、長い釘をトントンとうちこみはじめました。
さっき老人がふたの上にこしかけたとき、はさんであった鉛筆がおれてしまったので、ふたはピッタリしまっています。
老人は、それを上から釘づけにしようとしているのです。
「ワハハハ……。
中にかくれているのは、若い女の子らしいね。
女探偵かね。
女のくせにだいたんなやつだ。
おれは、女の子にはやさしくするほうだが、おれの秘密をさぐりにきた女探偵とあっては、しょうちができない。
こうして閉じこめてしまうのだ!」
小林君は、しまったと思いました。
さっき老人が金づちを持っているのを見たとき、なぜ気がつかなかったのでしょう。
あのとき箱からとびだしてしまえば、こんなめにあわなくてもすんだのです。
こんながんじょうなよろいびつの中へ閉じこめられたら、息がつまって死んでしまうばかりです。
小林君は、ありったけの声をふりしぼって叫びました。
「あたし、探偵じゃないのよ。
中学生なのよ。
原っぱで遊んでいて、うっかりここへはいってきたのよ。
あけて! でないと、お友だちがさがしにくるわよ。
そして、あたしのおとうさんに知らせるわよ。」
小林君は、こんなさいにも、少女にばけていることをわすれないのでした。
「ウフフフ……、なにかいってるね。
やっぱり女の声だね。
しかし、なにをいっているのか、すこしもわからないよ。
こうして釘をうってしまえば、いくら叫んでも、もう聞こえやしないのだ。」
小林君は、力をこめて、ふたをおしあげようとしましたが、じいさんが上に乗っかっているので、びくとも動きません。
そうしているうちにも、釘は二本、三本、四本と、みるみるうちにうちこまれていくのです。
小林君は、全身の力をふるって、箱の中であばれまわり、叫びたてましたが、なんのかいもありません。
ふたは、完全に釘づけにされてしまいました。
刀のきっさき
小林君は、あんまりあばれたので、のどがからからにかわいて、心臓がおそろしい早さでうっています。
いや、それよりも、なんだか息が苦しくなってきました。
むかしの職人が作ったがんじょうなよろいびつですから、ふたをしめると、空気がまったくかよわなくなってしまうのです。
すっかり釘をうってしまった怪老人は、立ちあがって、
「ワハハハ……これでよしと。
さて、きさまのもがく音でも聞きながら、それをさかなに、いっぱいやるとしようか。」
といいながら、部屋のすみからウイスキーのびんとコップを持ってきて、よろいびつの上に、どっかりと腰をおろし、ウイスキーを、ちびりちびりと飲みはじめました。
「ワハハハ……まだあばれているな。
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