ウイリイは、すぐに、王さまの厩(うまや)の頭のところへ行って、
「どうか私を使って下さいませんか。ただ私の馬の飼い葉さえいただければ、給料などは下さらなくともたくさんです」
と言いました。
そして馬丁として雇ってもらいました。
ウイリイは厩頭から教わって、丁寧に王さまのお馬の世話をしました。
自分の馬も大事にしました。
そして、しばらくの間何事もなく、暮らしていました。
ウイリイは厩のそばに、部屋をもらっていました。
夕方仕事がすみますと、ウイリイはその部屋へ帰って、いつも窓をぴったり閉めて、例の三本の羽根を取り出しました。
羽根は、お日さまのように、きらきら光るので、部屋の中が昼のように明るくなりました。
ウイリイは、その部屋の中の美しい女の人の顔を、毎晩紙へ描き取りました。
しかしなかなか思うように上手に描けなくて、そのたびにいく枚もいく枚も描き直しました。
一体、厩の建物では、夜も決して灯をつけないように、厳しく差し止められていました。
それで、ウイリイはいつでも窓を固く閉めておくのでしたが、それでもしまいには、だれかが、そこに灯がついているのを見つけて、厩頭の役人に言いつけました。
厩頭は自身で確かめに行きました。
そうすると、本当にウイリイの部屋から灯がもれていました。
ウイリイは、人が来たのを感づいて、急いで羽根を隠しました。
それで厩頭が入ってきたときには、部屋の中は真っ暗になっていました。
厩頭は描きかけの絵を取り上げていきました。
翌る日、厩頭は王さまのところへ行って、ウイリイのことを訴えました。
どんな灯をつけるのかそれは分かりませんが、とにかくその灯でこんな絵を描いておりましたと言って、取ってきた絵を王さまにお目にかけました。
王さまは、すぐにウイリイをお呼びになって、
「これはどうした絵か」
とお聞きになりました。
「私が描きましたのでございます」
とウイリイが申しました。
王さまは重ねて、
「まだほかにもあるか」
とお聞きになりました。
ウイリイは正直に、まだいく枚もございますと言って、ほかのもみんな持って来てお目にかけました。王さまがそれらをご覧になると、全部で三十枚もありました。どの絵も、同じ一人の女性の顔が描かれていました。その中でも、最後の一枚が一番見事に仕上がっていました。
王さまは、「これは一体、何を見て写したのだ。お前は灯をつけないと言い張っていたそうだが、暗闇の中でどうやって絵が描けるというのだ?」とお聞きになりました。
ウイリイは仕方なく、黄金の羽根のことをすべて正直にお話ししました。すると王さまは、その羽根を持ってくるよう命じました。王さまはウイリイの言った通り、三枚の羽根を並べて、その真ん中に浮かび上がる女の顔をご覧になると、驚きのあまり、「これは一体、誰の顔なのだ!」と叫ばれました。
ウイリイ自身も誰だか知らないのですから、答える術もありません。すると王さまは、「お前、わしに隠し事をする気か。ならば教えてやろう。これは世界中で一番美しい、王女の顔なのだ」とおっしゃいました。
王さまは今ではかなりお年を召していましたが、これまで一度も王妃を迎えていませんでした。それには深い理由がありました。王さまは若い頃、ある国を攻め滅ぼし、その国の王を殺してしまったのです。その王には一人の美しい娘がいました。王さまはその王女を自分の妃にしようとしましたが、王女はこっそりとどこかへ逃げ去り、行方がわからなくなってしまったのです。王さまは国中に使者を出し、必死に探させましたが、ついぞ見つけることはできませんでした。王さまはその王女以外は考えられず、今日まで独身を貫いていたのでした。
今、ウイリイの羽根を見て王さまが驚いたのも無理はありません。そこに描かれていたのは、王さまが一日たりとも忘れたことのない、あの王女の顔だったのです。王さまはそのいきさつをウイリイに語り、「お前はこの絵を持っているのだから、王女の居場所を知っているに違いない。今すぐに行って、連れてまいれ!」と命じました。
ウイリイは、「この羽根は森の中で拾っただけのものですから、王女様がどこにいらっしゃるのか、私は全く存じ上げません」とありのままを申し上げました。けれども王さまは聞き入れず、「どうしても連れてこい。それができなければ、その首をはねてやる」とおっしゃいました。殺されることを恐れたウイリイは、仕方なく「それでは、探しにまいりましょう」と答えるしかありませんでした。
三
ウイリイは厩へ戻り、自分の灰色の小さな馬に、王さまからこんな無茶な命令を受けたがどうしたらいいだろう、と相談しました。
「それは、あなたが一番最初に拾った羽根のたたりですよ。私があれほど止めたのに、聞き入れなかったからです」と馬は言いました。
「そもそも、その王女様はまだ生きていらっしゃるのでしょうか」
「ご心配には及びません。私が何とかして差し上げましょう」と馬は答えました。「王女様は、間違いなく世界で一番美しいお方です。今でもどこかで生きておいでです。ですが、この世の果てというほど遠いところにいらっしゃいます。そこへ行くには、まず大きな船が必要です。それも、全てマホガニーの木で作り、銅の釘を打ち込み、銅の板で覆った丈夫な船でなければ、途中で持ちこたえられません」
ウイリイは王さまのところへ行き、そのように船を作ってくれるようお願いしました。王さまはすぐに役人たちに命じ、船を作らせました。それにはかなりの日数がかかりました。船が完成したことを知らされたウイリイが馬の元へ行くと、馬はこう言いました。
「それでは王さまに頼んで、肉とパンとウジ虫を百樽ずつ用意してもらいなさい。それから、その樽を二つずつ運ぶ車を百台と、車を引く革綱を二百本用意させなさい。さらに、水夫を二百人集めてもらうのです」
ウイリイはそれら全てを整えてもらい、船に積み込みました。二百人の水夫たちも乗り込みました。馬は最後に、「これで準備は整いました。最後に私に大麦を一俵ください。そして、私の手綱を解いて、あなたはすぐに船にお乗りなさい」と言いました。
ウイリイが馬の言う通りにして船に乗ろうとしたその時、岸を離れる直前になって、馬は突然白いむく犬の姿に変わり、ひょいと船に飛び乗って、ウイリイの足元にうずくまりました。ウイリイは、これからの長い旅路を共にする良い友ができたと喜びました。船は追い風を受けて波の上をすらすらと走り、間もなく大海原の真ん中へと漕ぎ出していきました。そうすると、先ほどのむく犬が、用意してある百樽のうじ虫をみんな魚たちにやってしまうように言いました。
ウイリイはすぐに樽のふたをあけて、うじ虫をすっかり海へ投げ込みました。
犬は、続いて空になった樽を鯨たちにやってしまいなさいと言いました。
ウイリイはそれも片端から海へ投げ入れました。
魚たちは、思いがけないごちそうをもらったので大喜びし、みんなで寄ってきて「おいしい、おいしい」と言いながら食べました。
鯨たちもすっかり姿を現し、樽を一つずつ拾い上げると、それをまりのようにして大喜びで遊び始めました。
コメント