初級翻訳・竜宮 第2話

竜宮

この「魚の墓場」は本当にある話で、たいていの漁師は知っています。
 昔、ある漁師がその魚の墓場を覗いてみると、そこに何か真っ黒に光っている物がありました。魚のような形をしていて、真っ黒なのに不思議なほどつやつやと光っているのです。
「見たことも聞いたこともない珍しい物だが、これは宝物かもしれないぞ」
 そう思って、漁師はその墓場に潜り込み、その真っ黒な物を抱えて持ち帰りました。見れば見るほど、美しくつやつやと光っています。漁師はそれを家に持ち帰り、棚の上に大切に飾っておきました。
 その日から、漁師の網には今までになくたくさんの魚がかかるようになり、貧乏だった暮らしが一転、金持ちになりました。その噂を聞きつけて、黒い宝物を見に来る人も現れました。体の不自由な人がそれをなでると、手が自由に動くようになって病気が治ったといいます。
 だんだん評判になって、あちこちから人が集まるようになりました。商売繁盛を祈る人、病気が治るよう祈る人、みんながお金や品物をお供えしていきました。漁師はもう働かなくなり、宝物を見守るばかりの毎日になりました。
 そうするうちに、漁師はあるときふと心配になりました。
「この宝物がこんなに評判になってくると、これは危ないぞ。悪者に盗まれるかもしれない」
 心配がどんどん大きくなり、いろいろ考えた末、宝物をしばらく竜宮に預けておこうと決めました。竜宮に預けておけば、盗まれる心配はありません。
 漁師は宝物を背負って、竜宮へ出かけました。沖合にぽつりとそびえ立つ岩山の下に、竜宮があると言い伝えられていたからです。漁師はその岩山に登り、真っ逆さまに竜宮の方へと飛び込みました。それきり、いつまでたっても漁師が帰ってくることはありませんでした。
 この、漁師が宝物を背負って海に飛び込んだという岩山は、瀬戸内海にあります。春と秋のお彼岸の夜、そこの深い海に真っ黒な光り物が見えることがあるそうです。
 この話は少し教訓的ですが、どこか抜けていておかしなところもあります。それだけに、解釈の仕方も人それぞれでしょう。それぞれが自分の人生と照らし合わせて考えてみるのが良いかもしれません。しかし、教訓ばかりが目立つお話というのは、物語としてはあまり面白くないものです。小説や物語についても、同じことが言えるのですね。

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