ジョウが滑ってその角まで来たとき、エミイは二人からずっと離れた場所で、川の真ん中の方へと滑り出していました。
ジョウは胸がざわつくような嫌な予感を覚えましたが、その瞬間、氷が割れる「バリッ!」という激しい音とともに水しぶきが上がりました。そして、エミイが両手を突き上げ、悲鳴を上げながら冷たい水の中へ落ちていくのが見えたのです。
その悲鳴を聞いたジョウは、心臓が止まるかと思うほど驚き、凍りつきました。
ローリーを呼ぼうとしましたが、恐怖のあまり声が出ません。
すると、何かが自分のすぐ横を風のように走り抜けたかと思うと、
「棒を持ってきて! 早く、早く!」と叫ぶローリーの怒鳴り声が聞こえてきました。
それからのジョウは、もう夢中でした。それでも、冷静なローリーの指示通りに体を動かし、恐怖に震えるエミイをなんとか水から救い出すことができたのです。
ガタガタと震え、服からボトボトと冷たいしずくを垂らしながら泣きじゃくるエミイを、二人は大急ぎで家まで連れて帰りました。ジョウは、一言もおしゃべりをせず、真っ青な顔のまま、手にはケガをして、服もあちこち破れたままで、あわただしく動き回ってあれこれと手伝いをしました。
大騒ぎがようやく落ち着いたころ、エミイはあたたかい毛布にすっぽりとくるまり、暖炉の火の前ですやすやと眠り込んでしまいました。
お母さんは、ずっとエミイのそばに座って看病していましたが、ホッと胸をなでおろすと、ジョウを近くに呼んで、ケガをした手にやさしく包帯を巻いてくれました。
「お母さん、エミイは大丈夫かしら……?」
「ええ、ケガもしていないし、風邪もひかなかったみたいよ。あなたがエミイの体をしっかり包んで、大急ぎで連れて帰ってきてくれたおかげね」
「ううん、ローリーが全部やってくれたの。あたしがエミイを無視して放っておいたから、エミイは一人で滑っていって、水に落ちちゃったのよ。もしエミイが死んでしまっていたら、全部あたしのせいだったわ!」
ジョウの目から、後悔の涙がボロボロとこぼれ落ちました。でもその涙は、最悪の事態にならずに済んだという、心からのホッとした感謝の涙でもあったのです。
「全部、あたしの恐ろしいかんしゃく(怒りっぽい性格)のせいだわ。ああ、どうしてあたしはこうなのかしら。お母さん、お願い、あたしを助けて!」
「ええ、ええ、もちろん助けてあげるわ。だからそんなに泣かないで。今日の出来事をしっかりと胸に刻んで、二度と同じことはしないと心に誓うのよ。実はね、お母さんだって、あなたと同じくらい怒りっぽくて、かんしゃく持ちなのよ。でも、お母さんはその悪い心に打ち勝とうと、ずっとがんばっているの」
「ええっ、お母さんが!? だって、お母さんが怒り狂うところなんて、あたし一度も見たことがないわ!」
ジョウは驚きのあまり、目を真ん丸にしてお母さんを見つめました。
「この怒りっぽい性格を直すのに、なんと四十年間もかかったのよ。やっと自分の感情を抑えられるようになったの。今でもほとんど毎日、心の中では怒りたくなることがあるけれど、それを顔に出さないようにしているだけ。これからは、心の中でも怒らないようになりたいけれど、それには、あと四十年かかるかもしれないわね」
ああ、このお母さんの言葉は、ジョウにとってどんなお説教や、激しいお叱りよりも、深く心に染みる素晴らしい教えとなりました。
そして、四十年間も祈り続け、自分の悪いところを直そうと努力してきたお母さんのように、自分もなんとかしてこの短気な性格を直したいと、強く心に誓ったのです。
「ねえ、お母さん、どうやって怒りを抑えているの? あたしにやり方を教えて!」
「そうね。お母さんはね、今のあなたより少し大きくなったくらいのころに、自分のお母さん(ジョウたちのおばあちゃん)を亡くしたの。お母さんはプライドがとても高かったから、自分の悪いところを誰にも相談できなくて、たった一人で長い間、苦しみ続けたわ。何度も失敗して、悔しい涙をたくさん流したの。そのうちに、あなたたちのお父さんと結婚して幸せになってからは、自分を良い人間に変えていくのがずいぶん楽になったわ。けれど、四人の可愛い娘たちが生まれて、暮らしが貧しくなってくると、また昔の悪いクセが顔を出しそうになったの。もともと、お母さんは我慢強い方ではないから、娘たちが何かを我慢したり、困ったりしているのを見るのが、たまらなくつらかったのね」
「まあ、お母さん! それじゃあ、何がお母さんを救ってくれたの?」
「それはね、あなたのお父さんよ。お父さんは本当に我慢強い人なの。どんなに苦しいときでも、人を疑ったり文句を言ったりせず、いつも希望を持って一生懸命に働いてくれるわ。お父さんは私を助け、慰めてくれて、そして『娘たちの素晴らしいお手本になるんだよ』と教えてくれたの。だから私は、あなたたちの手本になれるよう、自分を磨き、良い人間になろうと努力し続けたのよ」
「ああ、お母さん。もしあたしがお母さんの半分でも良い子になれたら、それだけで十分幸せだわ」
「いいえ、お母さんなんかより、もっともっと素敵な人になって。今日味わったような、あの恐ろしい悲しみや後悔を二度としないように、全力を尽くしてその怒りっぽい性格を抑えるのよ」
「あたし、やってみるわ! でも、あたしを助けてね。そういえばあたし、見たことがあるの。お父さんはとっても優しいけれど、ときどき真剣な顔になって、自分の唇にそっと指を当てながら、お母さんのことを見つめるでしょう? そうするとお母さんは、いつもキュッと口を閉じて、お部屋を出ていくわ。あのとき、お父さんはお母さんに『怒っちゃだめだよ』って合図を送っていたの?」
「その通りよ。お父さんに『私が怒りそうになったら、そうやって助けてね』と頼んでおいたの。お父さんはその約束を忘れずに、あのちょっとした合図や、優しい表情で、私がいきなりきつい言葉を言ってしまうのを、何度も救ってくれたのよ」
ジョウはお母さんの目に涙がじわっとあふれてくるのを見て、なんだか余計なことを聞いて傷つけてしまったかしらと、心配になって尋ねました。
「あたし、あんなこと聞いちゃってダメだった? でも、あたし、思ったことは全部お母さんにお話ししちゃうの。だって、お母さんに何でも話すと、胸がすうっとして本当に気持ちがいいんだもの」
「いいえ、何でもお話ししてちょうだい。そうやって心を開いて打ち明けてくれることが、お母さんにとっては一番うれしいことなのよ」
「あたし、お母さんを悲しませちゃったんじゃないかって、心配だったから……」「ううん、違うのよ。お母さんはね、お父さんのことを話しているうちに、お父さんがお家にいないことがしみじみと寂しくなってしまったの。それに、お父さんがどれほど私を支えてくれたかを思い出して、胸がいっぱいになっちゃったのね」
「だって、お母さんはお父さんに『戦争に行って国のために働いてください』って自分からすすめたし、お父さんが出発するときだって涙を見せなかったじゃない。
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