ロッチェンが先生を呼びに行っている間、私が赤ちゃんを抱っこして、ロッチェンを休ませてあげていたの」
「そうしたら、赤ちゃんが急に声を上げて、ブルブル震えたかと思ったら、動かなくなっちゃったの。足を温めたり、ミルクを飲ませたりしたけれど、もうダメだった……ちっとも動かないのよ」
「泣かないで。それで、その後はどうしたの?」
「お医者様が来るまで、ずっと抱っこしていたわ。先生は、赤ちゃんはもう亡くなったとおっしゃって、それからヘンリッヒとミンナののどを診て、『これは猩紅熱(しょうこうねつ)ですね。お母さん、もっと早く私を呼ばなきゃダメですよ』って、難しい顔をしておっしゃったわ」
「するとハンメルのおばさんは、貧しくてお金がないから、自分の手で治そうとしたんです、どうか他の子たちを助けてくださいって泣いたの」
「それから先生は私に、『すぐに家に帰ってベラドンナを飲みなさい。そうしないと、あなたもうつってしまうよ』っておっしゃったわ」
「ああ、ベス! もしあなたまで病気になったら、私は自分を一生許せないわ!」
「大丈夫よ。ベラドンナを飲んだら、少し良くなった気がするわ」
「ああ、お母様がいてくださったら! あなたは一週間以上もハンメルさんの家へ通っていたんだもの、きっとうつってしまったんだわ。ハンナを呼んでくるわね。ハンナは病気のことなら何でも知っているから」
「エイミーをここに来させないでね。エイミーはまだ病気になっていないから、うつったら大変だわ。あなたとメグお姉ちゃんは、もう大丈夫かしら?」
「私たちはきっと大丈夫よ。もしうつったとしても構わないわ。あなた一人に行かせて、自分はくだらない小説なんて書いていたんだもの。これは私のわがままへの罰だわ」
ジョーはそうつぶやいて、ハンナのところへ相談に行きました。
ハンナは病気に詳しくて、「しっかり看病すれば死ぬような病気じゃないよ」と言ってくれたので、ジョーはホッとしました。そして今度は二人でメグを呼びに行きました。
ハンナはベスの様子を診たり、いろいろと質問したりしてから言いました。
「では、バンクス先生に診察してもらって、お手当てをしましょう。エイミーお嬢様はうつるといけないから、しばらくマーチおば様のところで預かってもらいましょうね。それから、どなたか一人が残って、ベスお嬢様のお相手をしてあげてください」
看病の役はジョーに決まりましたが、エイミーは「絶対に行きたくない!」と言い出し、「おば様の家に行くくらいなら、猩紅熱にかかったほうがマシだわ!」と、だだをこね始めました。
なだめても、すかしても、ちっとも言うことを聞きません。
ちょうどそこへやってきたローリーにお願いすると、彼はエイミーがその気になるようなことを、次から次へとまくしたてました。
「僕が毎日顔を出して、ベスの様子を知らせてあげるし、遊びにも連れ出してあげるよ。あのおばあさんは僕のことがお気に入りなんだ。だから、できるだけうまくやってあげる。お芝居にだって連れていってあげるよ」
それを聞いて、とうとうエイミーも承知しました。
メグとジョーは二階から下りてきて、エイミーが納得したことを知って安心しました。
バンクス先生を呼びに行くのも、ローリーが引き受けてくれました。親切なローリーは、生け垣をひょいと飛び越えて駆けていきました。
バンクス先生がやってきて診察すると、やはりベスには猩紅熱の兆しがあるとのことでした。
先生はハンメル家の話を聞いて難しい顔をしましたが、「たいていは軽く済むでしょう」と言ってくれました。エイミーは、すぐに家を出るように言われました。病気がうつらないようにお薬を飲んだりして準備を整えると、ローリーとジョーに付き添われて、マーチおば様の家へ向かいました。
マーチおば様は事情を聞くと、こう言いました。
「だから言ったじゃないの。余計なおせっかいをして、貧しい人たちの家へ行ったりするからですよ。エイミー、あんたはここに残って、私のお手伝いをしなさい」
エイミーは、おば様がメガネの奥からジロジロと見てくるので、嫌な気持ちになってしまいました。でも、ローリーとジョーが帰ってしまうと、気をとりなおして、「とても我慢できそうにないけれど、やってみるわ」と心に決めました。
その時、おば様が飼っているオウムのポーリーが、「出ていけ、化け物!」と叫んだので、エイミーは悲しくなってシクシクと泣き出してしまいました。
第18章:続く暗い日
ベスは、間違いなく猩紅熱(しょうこうねつ)にかかっていました。
ベスの病気がどれほど重いかを知っているのは、ハンナとお医者様だけでした。
ローレンスおじい様はお年寄りなので、病人の部屋へ行くことは許されません。ですから、看病のすべてをハンナが一人でこなしました。
メグはお母様にお手紙を書くとき、ベスのことには一言もふれませんでした。なんだか悪いことをしているような気分でしたが、これは「お母様に余計な心配をさせてはいけない」というハンナのアドバイスを守ったからでした。
ジョーはずっとベスのそばに付きっきりでした。でも、熱が高いベスは、ピアノを弾くマネをしたり、腫れ上がった喉で歌おうとしたりしました。周りの人の顔もわからなくなっている様子を見て、ジョーはすっかり怖くなってしまいました。
ジョーがハンナに「お母様に知らせましょう」と言い、ハンナも「そうしましょうか」と答えていた、ちょうどその時でした。ワシントンから手紙が届き、お父様の病気がぶり返してしまったので、当分は帰れそうにないという知らせが来たのです。
来る日も来る日も、家の中は悲しくて寂しい空気に包まれました。お父様とお母様が帰ってくること、そしてベスが元気になることを願いながら働き続ける姉妹たちの心は、どれほど重苦しかったことでしょう!
けれど、みんなそれぞれ、心の中に大切な教訓を得ていました。
メグは、これまでの普通の生活が、お金で買えるどんな贅沢よりもずっと尊いものだと気づきました。
ジョーは、ベスが病気になって初めて、ベスの素晴らしさを知りました。誰かのために生き、身近な仕事を一生懸命して家庭を楽しくしようとするその温かい心が、才能やお金や美しさよりもずっと大切であることを知ったのです。
エイミーは、早く家に帰ってベスのために働きたいと思いました。苦労を嫌がらないベスが、自分が後回しにしていた仕事をどれほどたくさん片付けてくれていたかを思い出して、後悔しました。
ローリーは落ち着きをなくして家の中をうろうろし、ローレンスおじい様は、ベスが自分を励ましてくれたピアノの音を思い出すのが辛くて、グランドピアノに鍵をかけてしまいました。
牛乳屋さんもパン屋さんもお肉屋さんも、みんながベスの様子を尋ねました。ベスの姿が見えないことが、みんな寂しかったのです。
ベスはボロボロになったお人形をそばに置きました。子猫にも会いたがりましたが、病気がうつるのを心配して我慢しました。
少し気分が良いときには、お手紙を書きたがりました。
けれど、そのうちに病状はどんどん悪くなり、意識がはっきりしなくなって、うわ言を言うようになりました。
バンクス先生は一日に二回も診察に来ました。
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