四年生を無事に修了すれば、高校を受験する立派な資格はもらえるのですが、行きたい人が定員をはるかにオーバーしているので、最後は実力勝負で勝ち残らなければなりません。
まるで満員電車のようです。
切符(受験資格)を持っていても、自分で必死に押しのけて乗車しなければ入れないのです。
ただし電車のほうは、2、3台見送れば次の空いた電車がやってきますが、学校の試験のほうは、今年入りきれずにあぶれてしまった人が来年の受験に回ってくるため、どんどん混雑が激しくなる一方です。
3年生までの間は、この大変な様子をまるで遠くの火事でも眺めるかのように、どこか面白半分でのんびり構えていました。
しかし、この春に4年生へ進級したと同時に、同級生たちみんなが一気に慌てふためき出したのです。
なぜなら、火の手が自分たちのすぐ目の前まで迫ってきたうえに、一つ上の先輩たちが受験でほとんど「全滅」してしまったからです。
去年までは合格実績がかなり良かったものだから、今年の先輩たちは少し油断しすぎていたのかもしれません。
それにしても、30人以上も受けに行ったのに、合格したのはたったの2人。しかもそのうちの1人は補欠合格という惨めな結果でした。
あまりの成績の悪さに、自分の子供が勉強しなかったことは棚に上げて、「学校側の受験対策がどうなっているんだ」と学校にクレームを持ち込む親御さんさえ現れる始末でした。
そんな保護者たちに対して、校長先生は、
「そんなことは小さな問題にすぎません。
本来の教育の本質は、入学試験のためにあるのではありませんから」
と言ったとか言わなかったとかで、それがまた新たな大問題になりかけていました。
僕たち4年生としては、「うかうかしていると、先輩たちと同じように全滅してしまうぞ」という生々しい教訓を目の当たりにして、「気を引き締め直そう(緊褌一番)」と心に誓うしかありませんでした。先輩たちのように「課外授業の準備が苦しくて、ちょっとも息抜きができない」と弱音を吐く暇すらないと、担任の先生に誓いの言葉を立てるほかない状況だったのです。
「よろしい。
それくらいの強い決心があるなら、この45人クラスのうちの2割だけは合格を保証してあげましょう」
とその時、先生は僕たちを励ましてくれました。
しかし、その言葉を聞いて、生徒たちはみんな顔を見合わせました。
「一日たりともサボらないと誓って、たったの2割しか受からないなんて、あまりにも情けないじゃないか」
と、みんなががっかりしたのです。
「残りの8割の人間は、いったい何のために毎日こんなに苦労して勉強すればいいんだ?」と、誰もが途方に暮れました。
僕はその日、家へ帰るなりすぐに、
「お母さん!
明日からいよいよ課外授業が始まるから、帰りが遅くなるよ」
と伝えたついでに、こう付け加えました。
「……でもさ、先生の合格保証なんて、全然あてにしちゃいけないんだぜ」
— END PROMPT —「僕は試験がものすごく苦手だからさ」
と僕は前もって言い訳をしておき、来年もし不合格になってもいいように予防線を張っておいた。
夕ご飯の時にお母さんが、いつも話題にするニュースの種として僕の課外授業の準備について話すと、お父さんは、
「思いきりやるんだな」
と元気づけてくれた。
「でも、とってもダメみたいですよ。
地方の高校だって、五人に一人くらいしか受からないんですからね」
と僕はまた弱音を吐いた。
「なにを言うんだ、五人に一人くらい。
相撲だっておっかなびっくり少し稽古をして取り組めば、五人抜きくらいできるものさ」
とお父さんは、自分が相撲を取るわけでもないのに強気なことを言った。
「一番高い難関の高校なんか、十人に一人くらいですよ。
僕は得意な教科と不得意な教科の差が激しいんです。
得意な教科であっても、その時の運次第で出来がものすごく変わったりするんです」
「そんなに悲観することはないさ。
勝負なんて時の運だからね。
入学試験なんか人生の一大問題というわけじゃないんだからさ」
「校長先生もそうおっしゃっていたそうです」
と僕はお父さんも分かっているだろうと思って言ったが、
「しかし、やっぱり合格して学校に入るほうがいいに決まっている」
とお父さんは話を戻した。
結局のところ、やっぱり大いなる問題に帰着してしまうのだ。
お父さんやお母さんが期待してくれている分だけ、僕は重い責任を感じてしまう。
これからはもう映画などの娯楽へも行くまい。
もっとも、課外授業を受ける上に、先生の家へ個別に数学を習いに行くのだから、最近はそんな暇もないのだけれど。
さらに通信講座にも申し込む。
忙しくなる一方だ。
まるで死にかかった病人が、効きそうないい方法なら何でも試してみるようなものだった。将来の仕事や進路についての問題である。
小学校(尋常小学校)の四年生である千代子と、一年生の浩二はとっても仲良しだ。
浩二はなかなかの姉思いだし、千代子もよく弟の面倒をみてやる。
普段は文句なしの良い姉弟なのだが、お向かいの秋子さんが遊びに来たりすると、決まって波乱が起きるのだ。
浩二は自分だけ仲間外れにされてしまうので、かんしゃくを起こして不機嫌になる。
おままごとを始めようとしても、
「浩ちゃんは、書生さんとコックのお手伝いと、どっちがやりたい?」
といった具合で、男の子には釣り合わない簡単な役ばかりあてがわれるから面白くないのだ。
ひどい時に至っては、
「今日は地震ごっこよ!
浩ちゃんは男の子で強いんだから、自警団になってちょうだい。
外へ行って、いつまでも番をしていてよね」
と、すっかり遠ざけられてしまう。
男の子は子供の時から口喧嘩ではどうしても女の子に敵わない。
だから最後には腕力に訴えようとする。
そんな時にはお母さんが、
「千代子や、浩二を仲間外れにしちゃいけませんよ。
みんな仲良く一緒に遊んであげてちょうだいね」
と仲裁に入らなければならないのだ。
そのおかげで、浩二が立派なお父さん(旦那さま)役に収まっていることもある。
「僕は大人になったら、絶対に自動車を買うんだ!」
とこの間は、おままごとの世界から現実の希望へと話の花が咲いていた。
「車を買ったって、置く場所がないじゃないの?」
と千代子は、家に自動車がないのは置き場所がないからだと思い込んでいるらしかった。
「ちゃんと自動車小屋を自分で作るさ」
と、浩二はそのあたりの問題もすでに解決済みだった。
「それはそうね」
と千代子も納得したものの、
「でも浩ちゃん、たった二円五十銭じゃあ、自動車なんて買えないわよ」
と、浩二の財力に対して少しばかり疑問を抱いた。
「どう考えても無理よね」
と、秋子さんもまったく同感だった。
「今は二円五十銭しかないけれど、大人になったら大金持ちになるんだからいいんだ」
と、浩二には謎の確信があるようだった。
「どうやってお金持ちになるの?」
「私、知ってるわよ」
と二人は手を組んでいて、もし浩二が変な答えを言ったら笑ってやろうと待ち構えているらしかった。
「銀行へ行って、いくらでももらってくるのさ。
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