こうしてきょうだいはひと晩じゅうお話を続け、ほんの二、三時間うとうとしただけでした。
エリーザはふと、あたまの上ではくちょうの翼がばさばさとはばたく音で目がさめました。
きょうだいたちはまた、鳥の姿に変えられていたのです。
やがてみんなは大きな輪をつくって、空へ飛んでいきました。
けれどもその中でひとり、いちばん年下のおにいさまだけが、あとにのこっていました。
そのはくちょうは、あたまを妹のひざのうえにやさしくのせたのです。
こうしてまる一日、ふたりはいっしょに過ごしました。
夕方になると、ほかのおにいさまたちがもどって来ました。
やがてお日さまが沈むと、みんなまたもとの人間の姿にかえりました。
「あしたはここから飛び立って、こんどはまる一年がたつまで、もう帰ってくることはできないんだ。
でも、おまえをこのままここへ置いていくわけにはどうしてもいかない。
おまえ、わたしたちといっしょに行く勇気はあるかい?
わたしたちには、腕一本ずっしりと使って、おまえをかかえてこの森を越えるだけの力はあるんだ。
だから、みんなの翼を合わせれば、海のうえを運んでわたれないことはないはずさ。」
「ええ、ぜひ連れて行ってください!」
と、エリーザは言いました。
そこでひと晩じゅうかかって、みんなで協力し、よくしなるかわやなぎの木の皮と、強いあしとを使って大きな網を織りました。
それはとても大きくて、丈夫なものに仕上がりました。
この網のうえに、エリーザは横になりました。
やがてお日さまがのぼると、おにいさまたちははくちょうの姿に変身し、それぞれのくちばしで網の端をしっかりとくわえました。
そうして、まだすやすやと眠っているかわいい妹をのせたまま、雲のうえの高いところへとび立ったのです。
ちょうどお日さまの光が顔にあたってしまうので、一羽のはくちょうが妹のあたまの上をとんでいき、その大きな翼でやさしい日かげをつくってやりました。
――
やがてエリーザが目をさましたときには、もう旅立ちはずいぶんとおくへ進んでいました。
エリーザはまるで夢でも見ているような気持ちでした。
空を通りぬけ、海を越えて、こんなにも高くはこばれていくなんて、どれほどふしぎなことに思えたでしょう。
すぐそばには、おいしそうに熟したイチゴの実がついたひと枝と、いい香りのする木の根っこがひと束おいてありました。
それらはあの一番年の若いおにいさまが、そっと取って来てくれたものでした。
妹はそのおにいさまのはくちょうを見つけて、下からにっこりと、うれしそうにほほえみかけました。
頭の上をとんで、翼で日かげをつくってくれているのも、まさにこのおにいさまでした。
もうすいぶん高く飛んでいたので、はじめ下にみつけた大きな船は、いつの間にか白いかもめのように、ぽつんと水のうえに小さく浮いていました。
ひとかたまりの大きな雲が、すぐうしろにぬっとあらわれましたが、それはどこから見ても本物の山のようでした。
その雲の山に、エリーザは自分の影や、十一羽のはくちょうたちの影がうつるのを見つけました。
みんな、それこそ見上げるような大きな鳥になって空を飛んでいました。
それはこれまで見たこともないほど、すばらしい影の景色でした。
でも、お日さまがどんどん高くのぼり、雲がずっとうしろに取りのこされてしまうと、その影のように浮かんでいた絵も消えてなくなってしまいました。
まる一日、はくちょうたちは空のなかを、かぶら矢のようにビューとうなって飛び続けました。
でも、なにしろ妹ひとりを連れているのですから、どうそおくれがちになって、いつものようには速く飛べません。
そうしているうちに、いやなお天気になってきて、夕暮れもせまってきました。エリーザは、しずみかけているお日さまをながめました。けれど、まだ海のなかにさびしく立っているはずの岩が目に入らないものですから、とても心配そうな顔をしていました。
はくちょうたちが、さきほどよりもよけいに激しく羽ばたきはじめたように思われました。
ああ、おにいさまのみんなが、思いきって早くとぶことができないのは、すべてエリーザのためだったのです。
やがてお日さまがしずむと、みんなは人間の姿にかえって、滝のなかに落ちておぼれてしまうに違いありませんでした。
そのとき、エリーザはこころの底から、熱心にお祈りことばをとなえました。
でも、たよりの岩はまだ見つかりません。
まっくろな雲が、むくむくとなにげなく近よって来ました。
やがてそれは、大きなきみわるく黒い雲の山になって、まるで、重たい鉛のかたまりがころがってくるようでした。
ぴかりぴかりと稲妻が、しきりなしに光りだしてきました。
いよいよお日さまが、海のきわまで落ちかけてきました。
エリーザの胸は、わなわなとふるえました。
そのときはくちょうたちは、まっしぐらに、まるで、さかさになって落ちくだるようなものすごい勢いでおりて行きました。
はっとおもうとたん、またふと上に浮きあがりました。
お日さまは、もう半分水の下にかくれていました。
でも、そのときはじめて、目の下に小さな岩をみつけたのです。
それはあざらしという動物がちょこんと乗っかっているくらいの大きさで、水のうえにちょっぴり顔をだしていました。
お日さまはみるみるうちに沈んでいきました。
とうとうそれがほんの星ぐらいに小さくみえたとき、エリーザの足はしっかりと大地につきました。
お日さまはまるで紙きれが燃えきって、さいごに残った火花のように見え、ふと消えてしまいました。
おにいさまたちは、手をとりあってエリーザのまわりに立っていました。
でも、足場はそれだけの広さしかなかったのです。
波はたえず岩にぶつかって、しぶきのようにエリーザのあたまにふりそそぎました。
空はしっきりなしにあかあかともえる火で光り、ごろごろ、ごろごろと、たえず音がして、かみなりはなりつづけました。
でも、きょうだいおたがいにしっかりと手をとりあって、さんび歌をうたいますと、それがなぐさめにもなり、ぐっとげんきも湧いてきました。
明け方のうすあかりでまわりを見ると、空気はすみきっていて風もおだやかでした。
お日さまがのぼるとすぐ、はくちょうたちはエリーザをつれて、この島をぱっととび立ちました。
海はまだすごい波が立っていました。
やがて高く舞い上がって下をみると、紺青(こんじょう)の海のうえに立つ白いあわは、なん百万と知れないはくちょうが、水のうえでおよいでいるように見えました。
お日さまがいよいよ高く高くのぼったとき、エリーザは目のまえに、山ばかりの国が半分空のうえに浮いているのをみつけました。
その山のいただきには、まっしろに光る氷のかたまりがそびえ、そのまんなかに、なんマイルもあるかと思われるお城が立っていて、そのまわりにきらびやかな柱がいくつもいくつもならんでいました。
エリーザは、これがみんなの行こうとする国なのかとたずねました。
けれどはくちょうたちは首をふりました。
なぜというに、エリーザの今みたのは「しんきろう」といって、どんなにりっぱに見えてもそれはたえずかわっている雲のお城であり、人間のいけるところではなかったのです。
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