初級翻訳・雪の女王 第9話

アンデルセン ハンス・クリスチャン

そこで、ゲルダは泣きじゃくりながら、今までの物語や、カラスが自分のためにしてくれたことなどを、すっかり話しました。
「まあ、かわいそうに!」と、王子と王女は言いました。
それから、カラスを褒めてやりました。
そして自分たちは、少しも怒ってはいないけれども、こんなことはそうたびたびしてはいけないよ、と言い聞かせました。
それはともかくとして、二羽のカラスはご褒美をいただくことになりました。
「おまえたちは、自由にとびまわりたい?」と、王女は聞きました。
「それとも、『宮中カラス』というちゃんとした地位について、お台所のこぼれものをみんないただく?」
すると二羽のカラスは、おじぎをして、ちゃんとした地位のほうをお願いしました。
つまり、二羽のカラスは年をとってからのことを考えたわけです。
そして、「年寄りになっても楽に暮らせるようにしておくのは、よいことでございます」と言いました。
王子はベッドから起き上がって、ゲルダをそこに寝かせてくれました。
ゲルダにとって、これよりうれしいことはありません。
ゲルダは小さな手を合わせました。
そして、「人にしても動物にしても、なんて親切なんでしょう!」と心に思いました。
それから目をつぶって、ぐっすり眠りました。
また、さまざまな夢が飛んできました。
今度はみんな、かわいらしい天使のように見えます。
そして、みんなで小さなそりを一つ、引っ張っています。
そのそりの上にはカイが座って、うなずいています。
でも、これはみんな、ただの夢にすぎません。
ですから、ゲルダが目を覚ますといっしょに、消え失せてしまいました。
あくる日になると、ゲルダは頭の先からつま先まで、絹とビロードの着物に包んでもらいました。
そして、いつまでもこの御殿にいて楽しく暮らすように、と勧められました。
けれども、ゲルダはそれを断って、小さな馬車とそれを引く馬と、それから小さな長靴を一足いただけませんか、とお願いしました。
そうすれば、その馬車に乗って広い世の中へ、もう一度カイちゃんを探しに行ってみたいと思います、と申しました。
すると、ゲルダは長靴ばかりか、手を温めるマフまでもいただきました。
身支度もきれいに整いました。
こうして、いよいよ出かけようというとき、門の前に、なにからなにまで金でできている新しい馬車が止まりました。
その馬車には、王子と王女の紋章がお星さまのようにキラキラ光っていました。
御者と下僕と先乗りが、――そうです、先乗りまでがいたんですよ――みんな、金の冠をかぶって控えていました。
王子と王女はゲルダを助けて馬車に乗せてくれました。
それからお別れを言って、ゲルダの幸せを祈ってくれました。
森のカラスは、いまでは結婚していましたが、今日はゲルダを三マイルばかり送ってくれることになりました。
カラスはゲルダと並んで座りました。
なぜかというと、カラスは後ろ向きに馬車へ乗ることができないからです。
もう一羽は門のところに立って、羽をバタバタさせていました。
このカラスは送ってきませんでした。
それはこういうわけです。地位に就いてからは、食べ物があまりにもたくさんありすぎるせいか、どうにも頭痛がして仕方がないのです。
馬車の内側には、砂糖のまぶされたビスケットがいっぱい詰め込まれていて、座席の下にも果物やコショウ入りのお菓子が入っていました。
「さようなら、さようなら!」と、王子と王女は声をかけました。
ゲルダは、わっと泣き出しました。カラスも一緒に泣きました。
こうして、早くも三マイルばかり進んだところで、カラスもさようならを言いました。
本当に、つらくてつらいお別れでした。
カラスは道端の木の上へ飛び移り、馬車が見えなくなるまで、その黒い羽をバタバタと羽ばたかせていました。
馬車は、いつまでもいつまでも、明るいお日さまのようにキラキラと輝いていました。

五番めのお話
小さな山賊の娘

馬車は、うす暗い森の中を通っていました。
けれども、たいまつの明かりのようにキラキラと光っていましたので、それが山賊たちの目にとまりました。
それを見ると、山賊たちは我慢ができなくなりました。
「金だぞ! 金だぞ!」と、山賊たちは口々に叫びながら、馬車を目がけてどっと押し寄せました。
馬をつかまえ、先乗りや御者や下僕を打ち殺すと、ゲルダを馬車から引きずりおろしました。
「この子は太っていて、かわいい子だわい。きっとクルミの実を食べて育ったんだろうね」と、山賊の老婆が言いました。
この老婆には長く恐ろしいひげが生えていて、まゆ毛は目の上までかぶさっていました。
「こえた小ヒツジみたいにうまそうだ。さてと、どんな味かな」老婆はこう言って、短刀を引き抜きました。
それはよく切れそうにピカピカと光っていて、恐ろしさに身の毛もよだつばかりでした。
「あ、いたっ!」と、その瞬間、老婆は叫びました。
自分の小さな娘に、耳をかみつかれたのです。娘は老婆の背中にぶら下がっていました。
この子は乱暴で、手のつけられない子でした。今も、おもしろがってこんなことをしたのです。
「こいつめ!」と老婆は言いましたが、そのおかげでゲルダを殺すことはできませんでした。
「この子はあたしと遊ぶんだよ」と、小さな山賊の娘が言いました。
「それに、この子はあたしにマフときれいな着物をくれるんだ。それから、あたしの寝床で一緒に寝るのさ」
そしてまたもやかみついたものですから、老婆は飛び上がってぐるぐるとその場を回りました。
ほかの山賊たちはその様子に大笑いをして、「見ろよ、ばあさんが自分のガキと踊ってるぜ!」と言いました。
「あたし、あの馬車に乗る!」と、小さな山賊の娘は言いました。
この子は甘やかされて育ったうえに、人一倍ごうじょうな性格でした。ですから、いったん言い出したことはどこまでも押し通します。
とうとうゲルダと一緒に馬車に乗り込むと、切り株やイバラの茂みを乗り越え乗り越え、森の奥深くへ馬車をずんずん走らせていきました。
山賊の娘はゲルダと同じくらいの背格好でしたが、肩幅が広くて肌もこげ茶色で、ゲルダよりもずっと強そうでした。
まっ黒な目をしていましたが、どことなく悲しげな様子が見受けられました。
娘はゲルダの体を抱いて言いました。
「あたし、おまえがきらいにならないうちは、だれにも殺させやしないよ。おまえはきっと、王女さまなんだろう?」
「いいえ」と、小さなゲルダは答えました。そして、今までのことを残らず話して聞かせました。
それから、自分がどんなにカイちゃんを好きかということも話しました。
小さな山賊の娘はまじめな顔をしてゲルダをじいっと見ていましたが、ちょっとうなずいてから言いました。
「おまえがきらいになったって、だれにも殺させやしないよ。そうなったら、あたしが自分で殺すから!」
そう言ってゲルダの目をふいてやると、両手をたいそうやわらかくて暖かい、きれいなマフの中へ突っ込みました。
やがて馬車が止まりました。そこは山賊のお城の中庭でした。
お城は上から下までひびが入って割れていました。大きなカラスや小さなカラスが、そうした割れ目から飛び出しました。

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