初級翻訳・風野又三郎 第4話

宮沢 賢治

唇をピクピクさせて、嬉しそうなのを無理やり真面目な顔にして歩き回っていたんだ。落ちていたザクロを一つ拾って齧ったから、僕はもう可笑しくて笑っちゃってね。一度塀に沿って戻ってから、急に叫んで大工の頭の上を駆け抜けたんだ。

ドッドド ドドウド ドドウド ドドウ、
甘いザクロも吹き飛ばせ
酸っぱいザクロも吹き飛ばせ

ほら、ザクロの実がバタバタ落ちた! 大工は慌てたような変な格好をしていたよ。僕は笑って笑って走り回った。電信柱の針金を一本切ってやって、その晩は夜通し走ってここまで来たんだ。ここを通り過ぎたのはちょうど明け方だったね。その時、高洞山の真っ黒な岩に、一掴みの雲を叩きつけていったんだ。その日の晩にはもう海の上にいたよ。海と言っても見えはしない。ゆっくり歩いていたからね。霧が立ち込めて、その中で波が『ドンブラコッコ、ドンブラコッコ』と言っているような気がするだけさ。今年だって、二百二十日(にひゃくはつか)になったら僕はまた駆け抜けていくんだ。面白いなあ!」

「ほう、いいなあ。又三郎さんたちはいいなあ」

小さな子供たちがみんなで言いました。すると又三郎は、今度は少し怒ったように言いました。

「お前たちはダメだなあ。どうして人のことを羨ましがるんだい? 僕だって辛いことはいくらでもあるんだよ。お前たちにも、お前たちなりのいいことがたくさんあるだろう。僕は、自分のことを考えもしないで、人のことばかり羨んだり馬鹿にしたりする奴が一番嫌いなんだ。僕たちの世界ではね、自分を外の誰かと比べるのが一番恥ずかしいことなんだよ。僕たちはみんな、一人一人が独立した存在なんだ。さっき言ったような、僕たちが一年に一度か二度やる大演習の時だって、いくら速く走ろうとしても、後ろを振り返ったり、隣を走るやつの足並みを見たりする奴がいると、もう誰も相手にしないんだぜ。やっぱりお前たちはダメだな。外の人と比べることばかり考えているんじゃないか。
僕はその点、さっき空で会った鷹が好きだね。あいつは天気の悪い日にはずいぶん意地悪なこともあるけれど、空をまっすぐに駆け抜けていくから好きなんだ。銀色の羽をヒラヒラさせながら、空の青い光の中や雲の影の中を、まっすぐに、まるでどこまで行くのかわからない不思議な矢のように飛んでいくんだ。だからあいつは少し意地悪で、あまりいい気持ちはしないけれど、さっきも『よう、あんまり空の青い石を突っつかないでくれ』って挨拶したんだ。するとあいつが言ったのさ。『ふん、青い石に穴が開いたら、お前にも向こう側の世界を見物させてやろう』ってね。言うことはずいぶん生意気だけれど、僕は悪い気はしなかったよ」

一郎がそこで言いました。

「又三郎さん。僕はお前を羨ましがったんじゃないよ。お前を褒めたんだ。僕はいつでも先生から習っているんだ。」「本当に男らしい人間というのは、自分の仕事を立派にやり遂げることに喜びを感じるものだ。決して自分ができないからといって人をねたんだり、反対に自分ができたからといって、できない人を見下したりはしない。お前もそう怒らなくてもいいんだよ」

又三郎はそう言うと、満足そうに笑いました。
それから、ひょいと立ち上がると、かかとでキリキリッと一回転しました。
するとマントがギラギラと光り、ガラスの靴がカチッ、カチッとぶつかり合って鳴ったようです。
又三郎はそれからまた座り直して言いました。

「そうだろう? だから僕は君たちのことも好きなんだよ。君たちだけじゃない、子供はみんな好きなんだ。僕がいつでもありったけの力で叫びながら駆け回る時、喜んでキャッキャッと言ってくれるのは子供たちだけだからね。一昨日だってそうさ。昼過ぎから急に僕たちが暴れ出したんだ。そして僕は、ある峠を通り抜けた。栗の木の青いイガを落としたり、青葉までガリガリとむしり取ってやったんだ。その時、峠の頂上を雨の支度もしていない二人の兄弟が通った。兄貴の方は、ちょうどお前くらいだったかな」

又三郎は、一郎を尖った指で指差しながら話を続けました。

「弟の方は本当に小さかった。あの顔の赤い子よりもっと小さかったんだ。その小さな子がね、真っ青になってブルブル震えていたよ。僕たちはいつも人間の目に火花を散らせることができるんだ。僕の前に行った奴がいたずらをして、その兄弟の目を横からぐいっと圧迫して、まるでパチパチと火花が散ったように思わせたんだ。そう見えるだけさ、本当は火花なんてないんだよ。それでもその小さな子は、空が紫色がかった白光をして、パリパリと燃え上がっていくように感じたんだ。そして、天地がいまひっくり返って焼き尽くされ、自分も兄さんもお母さんもみんなバラバラになって死んでしまうと思ったんだな。かわいそうに。だから兄貴に石みたいに固くなって抱きついていたよ。

ところが、その大きい方の子はどうだい。小さな子を風の影になるようにかばいながら、自分はまるで気持ちがいいとでもいうように、僕の方を向いて高く叫んだんだ。そこで僕も少しシャクに障ったから、一丁大暴れしてやったよ。豆粒くらいの石ころをバラバラと吹き上げて、叩きつけてやったんだ。小さな子はもう本当に大声で泣いたねえ。それでも大きな子は、やっぱり笑うのをやめなかったよ。けれど、とうとう弟があまりに泣くものだから、自分も怖くなったんだろうね、口がピクッと横に曲がったんだ。そこで僕は急に気の毒になって、ちょうどその時行く道がふさがったのを幸いに、ピタッとまるで静かな湖のように凪いでやった。それから兄弟と一緒に峠を下りながら、横の草原からユリの花の匂いを二人の方へ運んでやったりしたんだ。

……おや、どうしたんだろう。急に向こうが空いてしまった。僕は向こうへ行くよ。さよなら。明日もまた来てごらん。また会えるかもしれないから」

風の又三郎の透き通ったマントがひるがえると、たちまちその姿は見えなくなりました。
みんなはいろいろと今の出来事を話し合いながら丘を下り、別れてそれぞれの家に帰りました。

九月四日

「サイクルホールの話を聞かせてやろうか」

又三郎は、みんなが丘の栗の木の下に着くやいなや、そう言って突然姿を現しました。
けれどもみんなは「サイクルホール」なんて何のことか知らなかったので、黙っていました。すると又三郎はもどかしそうにまた言いました。

「サイクルホールの話、お前たちは聞きたくないのかい? 聞きたくないなら、早くはっきりそう言ったらいいじゃないか。僕、行っちゃうからさ」

「聞きたい!」
一郎は慌てて言いました。
又三郎は少し機嫌を悪くしながら、ポツリポツリと話し始めました。

「サイクルホールは面白いぞ。人間だってやるだろう? 見たことはないかい。秋のお祭りなんかでは、よくそんな看板を見るんだがなあ。自転車で、すり鉢の形になった格子の中を走るんだよ。だんだん上へ登っていって、とうとうそのすり鉢のフチまで行った時、片手でハンドルを持ってハンカチなんかを振るんだ。なかなかあれは大変なんだろう。ところが、僕たちがやるサイクルホールは、あんな小さなもんじゃない。もっとも、小さい時もあるにはあるよ。

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