初級翻訳・飴チョコの天使 第2話

小川 未明

「あの子たちがもしこの飴チョコを買って、僕をあの小川に流してくれたら……僕は水の流れるままに、あのかすんだ山々の間を旅していけるのになあ」
しかし、おかみさんが以前言った通り、農家の子どもたちには十銭の飴チョコを買う余裕はありませんでした。
夏になると、つばめが飛んできて、その可愛らしい姿を小川の水面に映していました。また、暑い昼下がりには、旅人が店先にやってきて休憩し、あちこちの話をしていきました。
それでも、その間に飴チョコを買う人はいませんでした。だから天使は空へ上ることもできず、ここからどこかへ旅立つこともできませんでした。
月日が経つにつれてガラスのびんは自然と汚れ、ほこりも積もっていきました。飴チョコは憂鬱な日々を過ごしたのです。
やがてまた寒さがやってきて、冬になると雪がちらちらと降り始めました。天使は、この退屈な田舎の生活にすっかり飽き飽きしていました。
しかし、どうすることもできません。
ちょうど、この店に来てから一年が経った、ある日のことでした。
菓子屋の店先に、一人のおばあさんが立っていました。
「なにか孫に送ってやりたいのだけど、いいお菓子はないかね?」とおばあさんが尋ねました。
「ご隠居さん、ここには上等なお菓子なんてありませんよ。飴チョコならありますが、いかがです?」と、菓子屋のおかみさんが答えました。
「その飴チョコを見せておくれ」と、杖をついた黒い頭巾のおばあさんが言いました。
「どちらへお送りになるのですか?」
「東京の孫に、お餅を送ってやるついでに、なにかお菓子を入れてやろうと思ってね」とおばあさんは答えました。
「でもご隠居さん、この飴チョコは東京から来たものなんですよ」
「なんだっていいさ、こちらの気持ちだからね。その飴チョコをちょうだい」
おばあさんはそう言って、飴チョコを三つとも買ってくれました。
天使は思いがけず、ふたたび東京へ帰れることを喜びました。
あくる日の夜、飴チョコたちは暗い貨物列車に揺られて、いつか来た時と同じ線路を、都会を目指して走っていました。
夜が明けて明るくなると、汽車は都会の停車場に到着しました。
そしてその日の昼過ぎ、小包は宛先の家へと配達されたのです。
「田舎から小包が届いたよ!」「わあ、なんだろう!」と、子どもたちは大きな声を上げて大喜びし、飛び上がりました。
「何が届いたのかしらね。きっとお餅にちがいないわ」
お母さんはそう言いながら、小包の縄をほどいて箱のふたを開けました。
すると、たしかに中には田舎でついたお餅が入っていました。その中に、三つの飴チョコも入っていたのです。
「まあ、おばあちゃんが、あなたたちにわざわざ買ってくださったのよ」
お母さんは、三人の子どもに一つずつ飴チョコを分けてあげました。
「なんだ、飴チョコか」
子どもたちは口ではそう言いましたが、内心では喜び、それを手に持って家の外へ遊びに出かけました。
まだ寒さの残る、早春の夕暮れどきでした。
通りでは、子どもたちが鬼ごっこをして遊んでいました。
三人の子どもたちは、いつの間にか飴チョコを箱から出して食べたり、そばから離れずについてくる白犬のポチに投げてやったりしていました。
そのうちに箱の中身がすっかり空になると、一人は空箱を溝の中に捨ててしまいました。
一人は、箱を破いてしまいました。
もう一人は、箱をポチに投げると、犬はそれをくわえてあたりを飛び回っていました。
空の色は、本当に青く、なつかしい色をしていました。
いろいろな花が咲くにはまだ早かったけれど、梅の花はもう良い香りを漂わせていました。
この静かな夕暮れどき、三人の天使たちは青い空へと上っていきました。
その中の一人は、思い出したように遠く都会のかなたの空を眺めました。
たくさんの煙突から黒い煙が上がっていて、どれが昔、自分たちの飴チョコが作られた工場だったのかはよくわかりませんでした。
ただ、美しい街の明かりが、あちらこちらで霧の中からかすんで見えていました。
青黒い空は、高く上がるにつれてだんだんと明るくなっていきました。
そして行く手には、美しい星が光り輝いていました。

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